第63話 私の気持ちはやはり私自身が作りあげたもの

 私は急ピッチで作業を進めている。

 今作成中なのは、あの子に使用して貰う予定のものだ。


 効果は単純だ。

 霊力を高める、それに尽きる。

 なぜそんなものなのかは単純明快だ。


 霊力を高める要素は、鍛えられた身体、霊力の効率的な運用、そして、


 そう、今回もっとも必要な精神力を高めるというもの。

 

 精神力なんていう目に見えないものをどう向上させるのかというのが問題だったが、そこは私の仕事の延長上・・・というよりもまさにそのものズバリである。

 多くの零具師はそこを分かっていないようだ。


 単純に素材の力や、組み上げからなどで霊力を高める効果を得ようとする。

 しかし、そうでは無いのだ。


 霊力を高めるという事は、それを制御する為により強靭な精神力を必要とするのだ。

 結果として、精神力も相応に強化される事になる。

 

 使う側もそれ相応の実力が必要になるのだ。


 基本的に私に来る仕事は、以前こそ汎用的なものが多かったが、最近ではどちらかといえば、購入依頼者への特化型が多い。

 すなわち、より大幅な強化をする事が可能、という事であり、それはそのまま使用者がリスクを負うという事にもなる。

 実力の無い者への特化型では、それほど大きな効果を得るものを作れないのだ。

 コントロールを制御できずに自滅してしまうから。


 暁月ちゃんはその点文句は無い。

 

 流石は天才と評されるだけはある。

 だからこそ、私も限界まで零具の性能を高める事ができる。


 かなりピーキーな制御となるだろうけれど、その効果は絶大だ。

 そして、あの子はきっとそれを為すだろう。


 それほど、あの子の心は強い。

 私たちの中で、誰よりも強い。


 雪羅ちゃんや夜夢ちゃん、琥珀ちゃんのように依存するのでは無く、

 かすみちゃんのように心を殺す事に特化し、従属を望むのでは無く、

 私のように感情を平坦にするのでは無く、


 爆発する花火のようで、それでいてそれをコントロールでき、何より零ちゃんを心から愛している彼女の心は、眩しいほど輝いている。


 だから私は、私にできる全力全霊で零具を作るのだ。

 その心を更に輝かせる為に。


 そのために、今回作成するものは、これまでの物に比較して、さらにスペシャルに仕上げる必要がある。

 なにせ、万に一つも失敗は出来ないのだから。


 今回かかっているのは零ちゃんだ。

 零ちゃんは私の全てだと言っても過言では無い。

 私の出生の秘密・・・というのも少し違うのかもしれないが、母とも言えるあの女神の話では、今の私は零ちゃんの為に生まれたようなものだ。


 勿論、私を実際に生んだのはお母さんだ。

 意識的にも彼女が母だと認識している。

 どちらかと言えば、異世界の女神の方が母と呼ぶのに違和感を感じる位に。


 だが、やはり私が私となったのは、あの女神が手を加えたからこそなのだろう。

 だからこそ、やはりあの女神も私にとっては第二の母足り得ると考える。


 まぁ、愛情という面では現世での母に比べるべくも無いがな。

 

 あの女神は、ああ見えて零ちゃんにかなり感謝している。

 私を過去に存在させる事など、あのように軽い口調で言っていたが、相当無理した筈だ。


 魂については未だ解明されていないが、それでも分かる事もある。

 私の魂の一部は、あの女神から分けられたものだ。


 おかげでこれほどの演算速度を得たものの、正直よくやるなと思う。

 魂を分けるのだ。

 おそらく痛みや負担は相当なものだろう。


 だが、それでも零ちゃんを救う為にそうしたのだ。

 それほど、女神の零ちゃんへの感謝は大きい。


 私は、あの女神から話を聞いてから考えている事がある。


 それは、私の零ちゃんへの気持ちはあの女神によって与えられたものなのかもしれない、というもの。

 そしてそれにも結論が出た。



 だと。



 切っ掛けは女神の魂かもしれない。

 だが、やはりそれはあくまでも感謝の気持ちなのだ。

 

 私が、零ちゃんを男として愛する気持ちは私が自分で得たものなのだと。


 零ちゃんが零ちゃんであったから、私はこれほど彼を愛する事が出来ているのだ。


「おっと、いけないいけない。」


 思考の大多数は作成中の零具に向いているが、少し逸れているようだ。

 零ちゃんの為にももっと集中しなければ。


 私は高価な素材をふんだんに使い零具を組み上げて行く。

 それほど多く無い自らの霊力を繋ぎに使い、素材と素材を組み上げていく。

 組み合わせに意味を持たせ、相乗効果で更に大きな効果を得られるようにしていく。


 採算は度外視だ。

 貯金や素材を使い切っても良い。

 

 零ちゃんは何にも代えられない。

 私の全てなのだから。


 おそらく、雪羅ちゃんたちもそれぞれ頑張っているだろう。

 その気持ちの向くままに。

 

 私だって、気持ちでは負けていない。

 私は零ちゃんの為なら命だってかけられる。

 あの子たちと同じように。


 今頃、かすみちゃんが暁月ちゃんを必死に探している筈だ。


 暁月ちゃん。

 君に何があったのかは知らない。

 いや、こうなった今、何があったのかは予測出来ている。


 君は優しいからおそらく、妹の美奈ちゃんの為に身を引こうとしたんだね?

 

 だけど、違うんだ。

 君が諦める必要は無い。

 君は私達と同じなんだよ。


 それに、



 零ちゃんには君が必要なんだ。


  

 君がかすみちゃんに発見されたら、どうなるのかは分かっている。

 だからかすみちゃん。


 後は頼むね?


 私はあなたを信じて、全力を尽くすから。

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