第61話 夢魔の女王の決意

「雪羅っち大丈夫!?」

「・・・夜夢、か。ウチに干渉したんか?」

「うん。なんか雪羅っちが気絶中に夢を見てるみたいだったから、強制的に起こしたんだよ〜。」

「・・・そう、か。」


 居間のソファで頭を抑えてる雪羅っち。


 周囲には深刻な顔をしている舞っちに琥珀っち、かすみっちとせーじょもいる。

 みんなでレージを囲むようにしてるんだ。


 レージは、今も意識を失ってる。

 お布団をレージのお部屋から持ってきて、ここで寝かせてるんだ。


 それにしても、心配だよ。

 こんなレージを見るのは二回目だもん。


 一回目は、あの冥王竜を倒した直後。

 レージったら、あの時も無理して、倒すと同時に意識を失ったんだよね。

 ウチは必死に看病したよ?

 だって、あの強いレージが死んだように眠ってたんだもん。


 そりゃ心配するよね?


 まぁ、2日もしたら意識は戻ったんだけどさ。

 もっとも、身体は動かなかったみたいで、ご飯からお風呂から、排泄も含めてお世話したんだけどね。

 懐かしいなぁ・・・

 あの時のレージったら、恥ずかしがって可愛かったなぁ〜。









 ああ、もう、レージ、なんでなの?

 どうして、寝てるの?

 早く起きてよ。

 いつもみたいに笑ってよ。

 やりすぎだって怒ってよ。

 どうして寝たままなの?


 はやく起き上がってぎゅっと抱きしめて欲しい。

 

 助けられるならすぐにでも助けたい。

 でも、レージが気絶してすぐに夢に入ろうとしたら、なんでか弾き飛ばされちゃった。

 無理したら入れそうだったから入ろうとしたんだけど、


「夜夢ちゃん待って!時間を頂戴!!無意味に力を消耗しちゃ駄目!!」


 そう言って舞っちに止められたから。

 勿論、夜夢は食ってかかろうとしたんだ。

 でも、舞っちの、辛そうな顔を見て思いとどまったんだよ。


 舞っちとの付き合いは短い。

 でも、わかる事もある。


 舞っちは、天才だ。

 だから、もうある程度何が起こっているのかわかってるんだと思う。

 だから夜夢も我慢する事にした。


「何が起こっているのか話すね?」


 雪羅っちが起きたから、舞っちが今何が起こっているのか話始めた。

 

 それは驚きの連続だったんだ。

 

 せーじょが来た本当の目的。

 異世界のあの女神・・・夜夢をこの世界に送った真意。

 

 舞の正体。


 夜夢を含めて、みんな言葉を無くす。

 

「・・・あまりにも荒唐無稽。でも、それくらいでないと、零士が倒れるなんてありえないかもしれない。」


 かすみっちが、難しい顔でそう言った。


「私は、本当のところ零士くんの強さがどれくらいかわからないわ。でも、今の話を統合して考えると、この事が一縷の希望だというのがわかる。まさに異世界の女神がくれた最後の希望、なのね。」


 そして琥珀っちがそれに続く。


 夜夢もそう思う。

 まさか、あの時レージだけが召喚されたのにそんな理由があるだなんて思ってもいなかった。

 でも、夜夢は次にレージに会えたら、絶対に離れないって決めてたんだ。

 だからあれはなるべくしてなった、いや、異世界のあの女神にそう誘導されてなったんだと思う。

 

 でも、夜夢は感謝してる。 

 だって、こうしてレージと一緒にいられるんだから。


 レージを助けられるかもしれないから。


「・・・確かに、ウチでは正直零士の心の防壁はやぶれへんかもしれん。なにせ零士が倒れたんを見て、無様さらしたばっかやし。ウチも・・・いや、ウチだけやない。琥珀も、かすみも、夜夢も零士に依存しとると思う。」


 雪羅っちの言葉に琥珀っちとかすみっちが頷く。

 正直、夜夢も自覚ある。


「美奈もそうや。ウチ等はみんな零士に助けられとる。せやから、心の奥底に依存心があるやろ。かすみはちょい違うっぽいが・・・」

「・・・私は、依存では無いと思う。だが、支配されたいという心はある。」

「せや。舞はまたちゃうやろ?」

「そうだね〜。私は・・・なまじ考えられちゃうから、心の瞬発力って言うのかな?そういう心の力は無いと思うよ・・・悔しいけどね。」


 うん。

 舞っちは少し違うね。

 動揺や寂しさなんかの色々な感情で表情がぐしゃぐしゃの夜夢たちと違って、今でも、見た目は冷静に話が出来ているのがその証拠。

 

 勿論、心配していないわけじゃないのは分かっているし、悔しく感じているのも分かる。

 でも、それを押さえつけられちゃう精神力、思考力っていうのかな?

 それが出来ている時点で、多分舞っちが言う通りなんだと思う。


 そうなると、やっぱり鍵を握るのは・・・


「忌々しいけど、あの女やろな。ここにいる誰よりも真っ直ぐで、んで、感情的になれるあの女。ウチみないなんからは眩しゅうてしゃーない心を持つ女。」

「暁月真奈。」


 悔しそうに呟く雪羅っちに頷きながら名前を言うかすみっち。


「とりあえず、状況も落ち着いた事だし、連絡して見ましょう。」

「あ、じゃ〜夜夢ちゃんがするよ〜。」


 琥珀っちの言葉に、夜夢ちゃんはミナに電話する。

 暁月っちの連絡先知らないしね。


 何度かのコールの後、電話が繋がる。


「あ、もしもしミナ?あのね、」

『夜夢ちゃん!?そっちにお姉ちゃん行ってない!?』


 へ?


「あ、ちょっと待って?あの・・・」

『お姉ちゃんが居なくなっちゃったの!!部屋に書き置きがあったんだけど、【幸せにね?向こうに帰ります。学校の方は手続きしておきます。】って・・・』

「う、うそ!?」


 夜夢の叫び声にみんながこちらを見る。


「ちょ、ちょっと待って!?今こっちもレージが倒れてあの子の力が必要なんだけど!?」

『・・・え!?零士さんが倒れた!?どういう事ですか!?』


 夜夢は電話をスピーカーに切り替えて、みんなで話ができるように今起こっている事、そして何故あの子の力が必要なのかを説明する。

 ミナの呆然とした雰囲気が電話から伝わってくる。


『嘘・・・こんなタイミングで・・・どうしよう・・・』

「・・・ここまで予測してた?いや、確か誘導したって言ってたな・・・なんて事だ・・・」


 ポツリと舞が何かを呟いた。

 そして、


「かすみちゃん。悪いけどすぐに暁月ちゃんを探してくれない?で、みんなはやって欲しい事があるの。」


 舞が真剣な顔でそう言った。


 なんだかわからないけど、舞っちがそう判断出したのなら、夜夢はできることをするだけ。

 絶対にレージは助けてみせる。 


 だから、その【呪い】が夜夢からレージを奪うのなら、夜夢は容赦しない。

 何があってもレージを取り戻す!

 

 立ちはだかるのがレジェンドクラスの魔物でも、魔王でも、神が相手であっても。


 レージの使い魔として

 サキュバスクイーンとして

 そして、レージを愛する女の一人として!

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