第60話 夢限の呪

「・・・ん?なんだここ?」


 目を覚ますと周囲は暗闇に包まれていやがる。

 身体もふわふわと浮いてる感じがするし、なんだか落ち着かねぇ。

 

 なんだこりゃ?

 幻術かなんかか?

 

 いや、しかし、俺は精神耐性スキルがMAXの筈だし、霊力も人並み外れて持ってるから、幻術だろうが呪いだろうがそう簡単に喰らわない・・・つ〜か、効果が出ねぇ筈なんだが・・・


 ん?

 そういや、なんか倒れる前にあの馬鹿異世界の女神の声が聞こえたような・・・【呪い】とかなんとかって・・・


「・・・」

「!?」


 その瞬間、背筋が凍り、一気に臨戦態勢となる。


 どこからか聞こえた呟き。

 

 何が聞こえたかわからん。

 だが、悪意・・・それもすげぇ強力な悪意を感じた。

 

 というよりも、この空間?

 これそのものが悪意だけで出来ているって感じだ。


「・・・おい、出てこい。俺に何しやがった。」


 我ながらすげぇ低い、冷たい声が出る。

 だが、分かる。

 

 こいつは、俺に対して敵意しかない。


 しかも、どこかで覚えがある敵意。


「・・・ふぉ、ふぉふぉふぉ。流石じゃのぅ?」




 ゾワッ!!!!!!




 その声を聞いて全身の毛が逆立つ。


 こ、こいつ!

 この声!

 まさか・・・そんな馬鹿な!?


 この、存在そのものが悪意の塊。

 邪悪の化身のような、存在。


 忘れるわけがねぇ!!


「・・・千年、妖樹・・・だと・・・?」


 俺の呟きに、ソレは邪悪に嗤った。


「ふぁふぁふぁ!覚えておったかっ!!人にして人にではない小僧!!」


 ・・・あ?

 人じゃねぇだと?

 何言ってやがんだコイツ?


 いや、それよりも、だ。


「てめぇは俺が祓った筈だ。なんでここに居やがる?」

「ふぁふぁふぁ!おお、そうとも!儂は確かに貴様に滅ぼされたわ!!じゃが小僧?貴様、【大妖】を・・・いや、じゃて。儂の発生がどのようなものじゃったか知っておろう?」


 そう問われ、思い出す。

 たしか、こいつは・・・


「・・・この国に在る神。」


 だった筈だ。

 コイツ自身が、あの戦いの時、そんな事を言ってやがった。


 もともと、コイツは、富士の聖域でこの国の悪意を浄化する役割を担っていた【聖】なる存在らしい。

 しかし、争いを止めない人間の悪意はコイツを【魔】に堕とした。


 反転したこいつは、より力を求め、己の為にすべての生きとし生けるもの、いや、土地神や精霊ですら吸収し始めた。

 その結果、富士の聖域は魔の樹海と化した。


 それを憂いたこの国を担う【大神】が、こいつを滅ぼそうとした・・・が、曲がりなりにも神の一柱だったコイツは、自らが滅ぼされそうになる瞬間に、この国の龍脈から力を吸い切り、国そのものを道連れにしようとしやがったそうだ。


 それを防ごうとしたため、完全に滅ぼしきれずに、【大神】も深手を負って眠りについた。

 コイツ自身も流石に無理をしすぎたのか、その後に、他の神々がコイツを龍脈から霊的に切り離し、封印を施した。

 それも、完全な封印とは行かなかったみたいだな。

 それが【大神】ほど力を持たない神々ではそれが限界だったらしい。


 結局、こいつは周期的に封印から目覚め、周囲に災厄、すなわち、命を吸い取るだけの化け物に成り下がったってわけだ。

 もっとも、それは生きながらえるのに必要な分だけで、俺とやりあった時は【大神】とやりあった時よりもかなり力を落としていたらしいがな。


 だが、そうすると・・・


「・・・てめぇ、俺を宿り木にしやがったな?」

「ふぉふぉふぉ!正解・・・と言いたい所じゃが少し違うの。儂は確かに貴様を苗床にしようとした。じゃが、貴様は曲がりなりにも、儂を単独で屠る化け物。残念ながら苗床にはできなんだ。貴様の力に耐えきれず、逆に儂が消え去る瞬間に、儂は持てる力をすべて使い、貴様に【呪い】を施したのじゃ。」

「呪い、だと?」


 俺がそう言うと、コイツは邪悪に嗤った。

「そうじゃ!儂は命を吸う化け物じゃ!じゃが、貴様の命は吸い切れなんだ!!じゃから儂は貴様が殺した命の残滓、すなわち、怨念を吸い続ける、そういう【呪い】に自らを変質させた!!わかるかえ!?貴様が殺せば殺すほど、相手が強ければ強いほど、そして、その相手が強い意思を持つ者であればなおのこと、この【呪い】はより強力に完成するのじゃっ!!」


 ・・・っち!

 厄介なモンを押し付けやがったなコイツ!!


「引き金は貴様の精神に孔があいた時じゃ!!そして、この【呪い】には一つ特徴がある。」

「・・・んだよそりゃ?なんでも良いが、俺はさっさと戻んなきゃいけねぇんだ。てめぇを俺の中から消しちまえばなんとかなんだろ?遊びはこれくらいにして、てめぇを」


 その瞬間だった。

 

 ゾクッ!!!!!!!!


 背筋に走る怖気!!


 咄嗟に身を捻る。


「・・・な、ん・・・だと・・・?」

「ククク。相も変わらず凄まじい反応だな。勇者でも無いニンゲン風情がよくやる。」


 躱して距離をとって見た相手。

 それは、


「魔王ジアゴボル!?」


 異世界でヴェルゼ勇者たちと倒した魔王だった。


「ふぁふぁふぁふぁ!言った筈じゃぞ!!この【呪い】『夢限』は貴様がこれまで奪った命、その怨念そのものじゃとっ!!」

「そういう事だ。貴様の中でずっとこの期を伺っていたぞ?何、安心せよ。我らだけでは無い。」


 そう魔王が呟いた瞬間、俺の見渡す限り全てが魔物や妖魔、そして・・・人となる。


「ふぁーふぁっふぁっふぁ!そうら始まるぞい!ここは今から修羅地獄じゃ!!思う存分戦うが良い!!」


 千年妖樹が叫んだ瞬間、周囲の全てが一斉に殺到する。



 ・・・ああ、そうか。

 そうかよ!

 だったら、


「もう一回ぶっ殺してやらぁっっっっ!!!!」


 全て殺し尽くすだけだ!!!!


 力を全開にして衝突する。

 あっという間に、雄叫びや悲鳴、戦闘音に包まれる。






 






「ヒヒヒ!戦って戦って戦い抜け。そして、理性を失くした鬼と成り果てろ・・・それが儂らの復讐じゃ。全てを滅ぼす修羅となれ・・・あの、憎き【大神】すら滅ぼす、のぅ?ヒ、ヒヒ、ヒヒヒ、ふぁーふぁっふぁっふぁ!!」


 だから、俺には千年妖樹が何を言っているのかは聞こえなかった。

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