第57話 追憶〜死闘を乗り越えて

「おっさん、受けるよ、依頼。謝礼はたんまり貰うぜ?」

「ああ、すまない・・・本当に、すまない・・・」


 悔しそうに、涙を流しながらそういう男。

 本当は、零士に、いや、子供にこんな危険な事は頼みたくは無いんだろう。


「・・・零士、ウチも行く。」

「主様、ウチも・・・」

「駄目だ。」

「っ!!なんで!?」

「そうです!!どうして!?」

「足手まといだ。」

「「っ!!」」


 覚悟を決めた零士にウチも母様もついていこうとした。

 ウチは惚れているから当然や。

 ・・・正直、母様も怪しい。


 母様の零士への気持ちは、感謝と敬意、そして母性が大きいけど、それだけじゃなく男に対する気持ちも見え隠れしとったから。


 惚れた男が命をかける言うてるから、ウチ等も命をかける。

 そう思っとった。


 せやけど、零士は断った。

 

 そして、


「・・・頼むよ。俺は二人を家族だと思ってるんだ。本当の家族では得られなかった家族ってのを、二人は俺に教えてくれたんだ。だから・・・安全なところで待っていてくれよ。俺は絶対に戻って来るからさ。」

「・・・零士はん。」

「零士・・・絶対帰って来ぃえ?」


 感極まって零士を名前で呼ぶ母様と共に、ウチ等親子をぎゅっと抱きしめながらそう言った。


 涙を流しながらしがみつくウチらを抱きしめ続ける零士。

 悔しかった。

 力の無い自分が。

 

 母様もきっと同じやったろうな。


 ガキンチョのクセして、誰よりも早く自立した・・・いや、自立するしかなかった零士の心はしっかりと大人やった。

 

 それでもウチ等にも意地があった。


 零士に提案したんや。


 せめて宿泊先までは一緒にいさせてくれって。

 完全に危険性が排除できるわけではなかったから、零士は渋ったが、それでも押し通した。

 

 せめて駆けつける事ができる距離にいさせてほしかったから。










 樹海に入った零士。

 帰って来たのは一週間後やった。


「・・・来てたのか・・・なんとか、なったぜ?あたた・・・」

「零士はん!!」「零士!!」「斬来くん!!」


 あまりにも遅いから樹海に飛び込もうとしていたウチと母様と、それを必死に止めようとしていた依頼者の前に零士は現れた。


 駆け寄ったウチ等が見たのは、体中がボロボロになった零士やった。


「すぐに救急車・・・いや、ドクターヘリをっ!!」


 依頼者はそうすぐに指示を出し、ウチ等は零士に付き添った。

 

「約束、守った、ぜ?・・・もう限界、だけど・・・」

「零士!!」「零士はん!」


 そう言って気絶し倒れる零士を支え、病院までつき添った。


 零士は、本当にボロボロだった。

 骨折は数知れず、筋組織も千切れまくっとった。


 生きとるのが不思議な位に酷かった。


 ウチ等は、意識が戻るまで寝ずに付き添った。

 病院が拒否しても絶対に一人にしなかった。


 ずっと、ずっと手を握っていた。


 零士にウチ等の生命エネルギーを送り続けてたからや。


 ウチも、多分母様も、これで消えてなくなっても、零士が助かるならそれで良いと思っとったから。


 零士が目を覚ましたのは3日後だった。


「・・・二人共、おはよ・・・隈、すげぇな・・・わりぃ・・・俺のせいだな・・・」

「そんな事ない!ウチ等が決めた事や!」

「雪羅の言う通りですよ・・・主様。それでも、助かって良かった・・・」


 ウチ等は泣いた。

 嬉しくて泣いた。


 零士は、微笑んでそれを見ていてくれた。











 一ヶ月位零士は入院した。

 その間の世話はウチ等がした。


 看護師にも絶対に譲らなかった。


 これはウチ等の仕事やから。



 ・・・ああ、そうか。

 よく考えてみたら、零士のこんな姿を見るのは二度目やな。

 せやけど、なんでウチは初めて見たん思たんや?


 ・・・そうや!

 あん時は母様が一緒におったからや!

 心配な気持ちも勿論あったし、心細ぅもあった。

 でも、母様と一緒やったから、和らいどったんや。


 それに、あん時と今と決定的にちゃう事もある。

 ウチと零士の霊的な繋がりや。


 零士に抱かれた時、ウチはこっそり零士と繋がりを結んだ。

 夜夢だけずるいと思ったからや。

 だから今回、その繋がりから零士の心がこんようになってショックで・・・

 

 今だから思う。

 ウチは心が弱い。

 夜夢よりも、舞よりも、いや、多分、零士を取り巻く者の中で一番ウチが心が弱い。


 どれだけ力が強うなっても、こまい頃に植え付けられた心の弱さはどうにもならんかった。

 ウチが他人にきつくするのもその反動やろ。

 

 自分を守るためや。

 情けない。


 ・・・と、場面は続くんやな。

 いつまで続くんやろか?


 これ、零士が退院の時の事やな。


「零士くん、本当にありがとう。本当に、本当にありがとう。謝礼はしっかりと勝ち取って来た。振り込んであるから後で確認して欲しい。おそらく、驚くほどの金額の筈だ。まぁ、君の命をかけてしまった私には、こんな事くらいしかできなくて情けない限りではあるが・・・」

「気にしないでくれって。あんがとなおっさん。」


 退院の時、依頼者はそう言って申し訳無さそうな顔をした。

 零士は気にせず笑っとったけど。


 そして、平穏な日々がまた始まり・・・終わりのときが来た。





 数カ月後、零士が6年生になるころ、使者が来たのだ。

 雪女の里からウチ等を連れ戻しに。

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