第56話 追憶〜幸せな日々〜

 それからは、その土地を離れ、零士が住まうところに行って、三人で暮らした。

 零士が住んどったところは、祓魔師の隠れ里やった。


 最初はビクビクしとったのを覚えとる。

 なんせ、零士と同じような祓魔師は、みんなウチらを嫌悪した目で見て来よったから。 


 せやけど、


「この二人は俺が雇ったんだ!文句があるならかかって来い!!」


 すでに里の中でもダントツで強い霊力を持っていた零士の威圧混じりの言葉に、里の祓魔師共はみんな目をそらしとった。


 なんでも、零士は昔、落ちこぼれやったそうで、いじめられとったらしいけど、力を得てから物理で分からせて今や大人すらもちょっかいかけられへんようになっとったらしい。


 そんな零士の庇護下にあったウチ等は平穏そのものやった。


 実際には、最初のうちは嫌がらせもあったけど。 

 せやけど、


「俺の家族に何してんの?」


 我慢しとったウチ等に気がついた零士が、嫌がらせを主導しとった奴らを半殺しにした事でそれ以降は何もなくなったんや。

 元々、零士の父親が里の一番の実力者だったらしいんやけど、寄り付かんようになってからはその主導しとった家が権力者ぶっとったらしい。


 それどころか、目障りな斬来の家系を追い出そうとしとったそうや。

 とはいえ、零士が一度里のもんの前で強力なあやかしを祓って見せた事があるらしく、それもあって強引には厳しいと思ったのか、嫌味を言うくらいで終わっとったみたいやな。


 ウチ等を住まわせた事で、コレ幸いと追い出しにかかったわけや。


 零士は、権力争いに興味無かったから、嫌味を言われてもそれまでは静観しとったらしいけど、ウチ等が嫌がらせされている事に気がついて、激怒してその日のうちに主導者の家に怒鳴り込み、全員をいい歳の大人が泣くまでボコボコにしよったそうや。


 それどころか、


「これ以上俺の目の届くところにいるなら、一生泣けねぇようにしてやるけど?」


 っと言って、逆に追い出したらしい。


 そんな事があれば、小さい里や。

 すぐに話は広がる。


 ウチ等には誰も手を出さんようになった。


 











 二年も居れば、それなりに打ち解ける。

 その頃には、ウチを嫌な目で見るもんもおらんくなっとった。


 それどころか、笑顔で挨拶してくれるくらいやった。

 

 普通の生活を送っとった。

 まぁ、素直になれへんかったウチは、よう零士に喧嘩ふっかけとったけどな。

 その度に母様に怒られたけど。


 そう、喧嘩や。

 零士との同棲はウチ等にも予期せぬ幸運をもたらした。


 零士の霊力や日々の生活で漏れ出る精気の吸収や。

 零士の類まれなる霊力や強靭な精気は、ウチ等には極上の飯やったんや。


 今まで極力吸収を控えてきた事もあって、ウチも母様も、少しの霊力や精気を効率よく吸収する身体になっとった。

 そこへ、零士の霊力とか漏れ出る精気や。


 あれよあれよという間に、二年前とは比べ物にならんほどの妖力を持っとった。

 それこそ、上級とか言われくらいのあやかしになるくらいに。


「ウチも零士の仕事を手伝う。」

「あんだって?」


 せやから、ウチは零士の祓魔の仕事を手伝うようになった。

 零士は最初ええ顔をせんかったけど、


「主様。どうぞ雪羅を役立ててやって下さい。それと雪羅?主様と呼びなさい!!


 母様のお膳立てもあって、渋々認めてくれたんや。

 

 まぁ、母様は零士に対するウチの気持ちも知っとった。

 少しでも零士と一緒に居たいって気持ちも分かってくれとったから。


 幸せやった・・・あの地獄の日々がこれほど幸せになるとは思いもせんかったなぁ。


 零士の・・・人間の事を知りとおて、零士の学校の教科書を見て勉強したりもした。

 これまであんまり戦ったりせえへんかったから、零士に戦い方を教わったりもしたなぁ・・・母様も一緒に。

 

 そんな日々が続いた時やった。


 そう、あれは零士が小学校5年生になったころやったか。


 一つの依頼が来たんや。 



「・・・斬来くん。すまない、力を貸してくれないか?」


 いつも依頼を持ってくる人間の男。

 なんでも、大きな会社の社長らしい。

 

 そいつが持ってきた仕事。

 それは、


「・・・千年妖樹?」

「ああ、富士の樹海に生息すると言われる特級の妖魔だ。」


 大妖と言われる、千年妖樹の討伐依頼やった。


 その男が言うには、その大妖が周囲を含め一定範囲のすべての生きとし生けるものの精気を吸ってしまい、大きな被害がでるとの事だった。


「あの大妖を祓う?そんな事できるわけありませんっ!!」


 母様が血相を変えて叫んだ。

 母様は知っていたのだ。

 

 千年周期で周囲に甚大な被害を出すあの大妖の事を。

 あやかしの中でも伝説と言われているあの化け物の事を。


「・・・しかしこのままでは、この国は終わってしまう・・・今、国を上げて高名な祓魔師に当たっている・・・が、正直、芳しくないのだ。君のようなまだ成人していない者にお願いするのが正しくないのは分かっている。君がいくらこの国でおそらく最強の祓魔師であったとしても、だ。これまで、君の存在は知る人しか知らない、そうコントロールしていた。だが・・・頼む!」


 

 断れ零士。

 絶対にあかん!

 そんなん相手にしよったら、いくら零士でも・・・死んでまう!!


 ウチはそう思って零士を見た。

 せやけど、


「・・・しゃーねぇか。んじゃ、いっちょやってみっか!」

「主様!?いけません!!」

「零士!あかん!!」


 そう言って笑う零士を母様と二人で思いとどまるように必死に呼びかけた。

 しかし零士は苦笑して、


「大丈夫だって。俺の強さは知ってるだろ?」

「主様!しかし!!」

「・・・分かってくれよ雪織さん。正直、国とかどうでも良いし、ウチのクソ親父みてぇなのが死ぬのはどうでも良いが、あんたらみたいな優しい親子が理不尽に死ぬかもしれねぇのは俺が我慢できねぇんだ。」

「・・・主様・・・」

「零士・・・」


 幼いながらも揺るぎない眼差しでそう言う零士を止める事はできひんかった。


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