閑話 舞と『 』

「・・・え?え?たんまつ・・・って何・・・?」


 ミルは狼狽した。

 彼女の世界には、それに相当するような存在が無いからだ。

 しかし、


「・・・ふむ、端末、か。とすると・・・並列存在や眷属的なものでは無く、あくまでもあなたから生み出されダウングレードされたもの、という認識で良いでしょうか?」

「うんうん!そのとーり!ていうか、普通の喋り方で良いよ〜。」

「では、そうさせて貰おう。」

「あり?全然動揺しないねぇ?」

「分かっている筈だ。私がこう反応することは。私の生まれを考えれば簡単なことだ。」

「まぁね〜。」

「では、話を進めよう。こちらの考え通りに進める、で上手く行くのか?」

「多分ね。思ったよりも上手く行っているよ。彼がこれまできちんと縁を結んでいたのは助かったよ。」

「まったくだ。まぁ、こちらとしては少々焦る羽目になったがな。」

「それはね〜。結果オーライじゃない?」

「まぁね。ところで、」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って!?こっちはまったく追いつかないんだけど?」

「「え?」」


 舞と女神が淡々と会話を進めて行くのをミルは慌てて止める。

 まだ衝撃を受け止めきれていないからだ。


「・・・ふむ、では簡単に説明しよう。良いかな?」

「い〜よ〜。」

「・・・ええ〜?もうちょっと思うところがあって良いんじゃないのかしら?あなた、作られた存在だって言われているんでしょ?」

「人間にしろなんにせよ、皆、親から作られた存在だと言える。私は少しそれが人と違うだけ。それほど動揺するようなことでもあるまい。」

「・・・ええ〜・・・?」


 舞を見て唖然とするミル。

 やはり、この女普通じゃない、と再確認した瞬間だった。


「説明すると、だ。便宜上そこにいる女神をプロフェッサー・・・そちらの世界だとなんだろうか・・・うん、やはり分かりやすいのは母親だな。母親としよう。」

「ママで〜す!」

「ちゃちゃを入れるな。で、そこの女神は君も知っての通り、君や零ちゃんを召喚した。そして、召喚先の世界を救って貰った。ここまでは良いかな?」

「え、ええ・・・」


 こくこくと頷くミル。


「で、その時に気がついた、もしくは、召喚の際に気がついたのだと思うが、零ちゃんはその能力に反して、心が壊れている事に。そして、その呪い?を受けている事に。」


 そう言って、舞は女神に視線を向ける。

 

「うんそう。彼が召喚される時、彼の半生を垣間見たからそれで気がついた。呪いについてもね。まぁ、基本的には彼は善性の存在だからそのままにしたけれど。【呪い】についてはどうしようも無いくらい魂に融合していたし。」

「で、母はそれをなんとかしたかった。なにせ、彼は自分の世界を救ってくれた恩人だ。だが、母にはどうにもできなかった。というのも、零ちゃんの心の傷は、彼の親につけられたものだ。もし能力でどうにかするのであれば、彼の親の記憶を消す必要がある。」

「しくしくしく。残念ながら全知全能ってわけじゃないんだよね〜。そんな都合よくいかないんだよ〜。さっき言った通り【呪い】は彼にがんじがらめになってたしさぁ〜。」

「と、いうわけで母は考えた。ならば、彼を支え彼を癒やす者を作れば良い。おそらくはなんらかの手段で時間を遡行し、零ちゃんに近しい存在として、私を作り送り込んだ。彼を見守る為に、視覚を共有して。」

「そ〜なんだよ!時間を遡るの大変だったんだからね〜?彼の親族で私の形質に合う魂を持つのは舞ちゃんしかいなかったんだよね〜。いや〜それにしても零士ってばすっごいね〜?あんな大っきいんだ〜!それになんというか底なしっていうの?見てるこっちが照れちゃうよねまったく!」

「勝手に見ないでくれる?」

「良いじゃん!男日照りの女神に潤いを!!」

「うっさい。出歯亀するな。」

「・・・」


 二人のやり取りに頭を抱えるミル。

 息が合いすぎな上に、赤裸々に言い過ぎである。

 別にミルは零士のイチモツについて知りたいわけでは無いのだ。


「おっと話を戻そう。そこで母は零ちゃんを取り巻く状況の変化に気がついた。そして、私がそれを利用する結論を出す事も。」

「そ〜そ〜。で、大魔道士ちゃんと微妙にすれ違ってるから、ついでにそれもなんとかしようと思って家出中のミルちゃんを送り込んだのだ〜。呪いの件の協力こみでね。結果大成功!さっすが私!」

「そういう、事・・・」


 ミルはようやく納得できた。

 全ては、この女神の手のひらの上だったのだ。


「そう、【呪い】だ。それについて訪ねたい。イレギュラーは極力減らしたいのだが。」

「無理だね。いや、無理になった。私がそう誘導したから。」

「!?」「・・・」


 その言葉に驚愕するミルと無言で考え込む舞。


「何故そんな真似を?」

「【呪い】を消すのには今が好機だからだよ。ミルちゃんの協力を得られる今。残念だけど、そう何度も次元転移はさせられない。これが最後のチャンスだと思って。」

「・・・という事は、本当にまもなく起こるって事だね?」

「!?」


 舞の言葉にハッとして女神を振り返るミル。

 女神はそこで初めて神妙な顔をした。


「・・・その通り。彼の【呪い】の大本は千年妖樹と呼ばれる強力な怪異だ。彼の記憶を垣間見るに、千年妖樹は死に際にそれを彼に植え付けた。その呪いは・・・」


「「・・・!!」」


 女神に呪いの内容を聞き、二人は表情を厳しく変えた。

 まさに、零士にはうってつけの呪いだったからだ。


「頼むよ。どうか彼を救って欲しい。彼は私の世界の恩人なんだ。端末・・・いや、桐谷舞。我が娘よ。鍵は分かっているね?」

「勿論だ。」

「かの【呪い】へのくさびとなり得るのは、清らかで純粋な力を持つ強い意思のみ。君たちの中で一番心が強いのは、」

「ああ、彼女だろうね。私では平坦過ぎる。」


 そこまで話した段階で、周囲が霞んで行く。


「・・・限界、か。分かっているなら良いよ。良い?彼女の捜索は隠岐かすみに任せなさい。おそらく、動けるのは一人だけとなるだろうから。」

「捜索?・・・何か、起るのか?」

「・・・ええ、でも説明する時間は無いわ。頑張りなさい。我が娘よ。」

「ああ、任せたまえ・・・母よ。」


 笑顔の女神が語りかけ、舞が答えた瞬間、ミルと舞は舞の部屋に戻る。

 そして、


『・・・士!?どうしたん!?』

 

 そんな叫び声が玄関から聞こえた。


「・・・まさか・・・」

「行こう。」


 ミルと舞が走り出す。

 

 そして、事態は動き出す。



*******************

これで今章は終わりです。

シリアスさんにはもう少し頑張ってもらいます。

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