閑話 舞と聖女(2)
「女神様はこうおっしゃったわ。『彼の呪いはいずれ爆発する。そうなった時、彼は意識を永遠に失い、修羅の地獄に墜ちるでしょう。』と。」
修羅の地獄・・・確か、修羅道は永遠に戦い続ける救いの無い地獄だった筈。
零ちゃんがそんな地獄に?
許せるわけがない。
彼はこれまで戦って戦って戦い抜いてきた。
その彼が、永遠に戦い続ける地獄へ落ちる?
ふざけるな!!
そんな私の内心の憤りをよそに・・・いや、聖女も顔を顰めている事から、その言葉に思うところがあるのだろう。
そして話を続ける。
「そしてこうも続けられたわ。『その引き金は、彼の心の防壁が下がった時に受ける心の傷』と。つまり・・・」
彼女はそのまま話し続けた。
女神の話はまとめるとつまりこうだ。
零ちゃんの心の防壁・・・おそらく私達によって零ちゃんの強固な心の防壁を中和、もしくは削り切ったときに何かが起きる。
それも、私達に関係する何かが、だ。
何故そう考えるのかというとそれはとても簡単だ。
”今の彼の心を包んでいるのは私達だから”
彼の心に大きな傷を与えられるのなんて、私達をおいて他にいない。
それだけの自負はある。
それにしても、私に予測できない事とはな。
一体、何が起こる?
私たちの誰かが死ぬ?
大きな喧嘩でもする?
あまり想像がつかない。
というのも、零ちゃんはあれでかなり精神年齢は高い。
そんな零ちゃんと大きな喧嘩になってしまうのが想像がつかないのだ。
大概の事は、零ちゃんであれば笑って受け入れてしまう。
それだけの器を持っているのだ。
で、あれば予測のできない何か・・・そう、偶然という私が関われない何かが起こるのかもしれない。
私が関わっているのであれば、偶然すらもある程度コントロールしてみせるのだが・・・
しかし、そうなると
「私が依頼された役目は、そうなった時、ヤム・・・あのサキュバスクイーンの子の補助をする事。」
「私が考える最後の手、夜夢ちゃんの能力【夢に入る】事による精神の救済、だね?」
「そう。やっぱりその結論まで推測していたのね。」
眼の前で聖女が苦笑している。
「私が依頼されたのは、【夢に入る】能力の向上のための結界作り、よ。」
「・・・もしかして、全員で入れるようになる?」
「・・・本当に、あなたは凄いわね・・・スキルとか知らない人なんでしょう?怖いわね・・・」
つまり、本来は夜夢ちゃん一人、そして私の予定ではあの子一人を追加で入れるように無理してもらうところを、無理なく全員で行けるようになる、という事か。
逆に言えば、
それだけの事態になる
という事になる。
その、異世界の女神はそこまで予想しているのだろう。
「そしてその後に話があったのよ。『彼の近くには、色々な女性がいるけれど、そのうちの一人は凄く頭が切れる。おそらく、歴史上最高な位にね。そんな彼女が、きちんと計画立てて彼を治療しているんだよ。その計画の最終段階に君が必要になるだろうね。あの子は君の存在も能力も知らないからね。もし、あの子が感づいたら、私との会話をすべて話していいよ。必ず協力を求められるからね〜。』ってさ。まぁ、その後に、『それまでは誤魔化せるだけ誤魔化しちゃえ!』とも言われたけれど。」
くすくすと笑う聖女。
しかし私には笑えない。
なにせ、それで確信を得たからだ。
・・・ああ、そうだね。
そろそろ認めないといけないな。
私は顔を上げる。
「話はよく分かったよ。で、君と繋がっている異世界の女神様?いい加減、直接会ってくれませんかね?」
「え!?」
唖然とした顔の聖女。
だが、
『ふっふっふ〜、さっすがだね〜!』
室内に声が響く。
周囲が白くなっていき、そして・・・
「ようこそ〜。異世界の神域へ!!」
とても陽気な雰囲気を感じる女性。
美しい髪は金色に光り輝いているが、顔は光っていて見えない。
シルエットしかわからないが、顔は整っていそうに感じ、スタイルはとても良い。
「え!?女神様!?」
聖女はかなり驚いている。
ただ相対しているだけで、正直生き物としての格が違うのをしっかりと理解させられるが、それよりも、だ。
「はじめまして・・・で、良いのかな?なんと呼べば良い?お母さん?ママ?あるいは・・・もう一人の私?」
「はぁ!?」
私の言葉に聖女は愕然とし、そして、
「なんでも良いよ〜。私の端末ちゃん。」
その答えに満足そうにしている声と共に、光がなくなり顔が見える女神。
その顔は、私が鏡でよく見る私と同じ顔だった。
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