閑話 舞と聖女(1)

「へぇ、ここがあなたのお部屋なのね。」

「そ〜そ〜。殺風景でしょう?」

「そうなのかしら?この世界の女の子の部屋はわからないから・・・」


 零士と美奈が家を出発した後、すぐに二人は舞の部屋に入る。

 

「じゃ、そこ座ってくれる?」

「ええ・・・本当にこの世界の物はどれもこれも高品質ね。椅子一つとっても・・・なんて良い座り心地なのかしら。こちらで買って向こうに持って帰れないかしら?」


 ミルは机用の椅子に、舞はベッドに腰掛ける。


 そしてお互いに向かい合う。


「さて・・・何を聞きたいのかしら?」


 うっすらと微笑みながら舞を見る。

 

「う〜ん・・・じゃ、直球で聞くけど、本当の目的って教えてくれるの?」


 その言葉に、ミルは思わず目を見開いた。


「あら、本当に直球なのね。もっとこう、あれこれ濁しながら聞かれるかと思ってたのに。」

「まぁ、それも考えたんだけどさ〜、でも、多分無駄じゃない?誤魔化そうと思ったらいくらでも誤魔化せるし、何より・・・」

「何より?」


 言葉を切った舞にミルは小首を傾げ、そして、


「私を、いえ私の本質を何故かあなたは知っている。」


 そう告げた言葉にミルは一瞬真顔になり、すぐにとぼけた表情へと変えた。

 

「・・・なんの事かしら?」

「いえ、これで確証が取れた。やはりあなたは私の本質が分かっている。」

「っ!!カマをかけたの、ね。」

「おそらく、あなたの背後・・・いや、率直に言えば、あなたに協力を依頼したモノから聞いたのだろうね。」

「・・・そこまで・・・聞いていた通りだわ。やはりあなたは天才なのね。それも、本当の意味での天才。長いこと生きてきたけれど、あなたのような本物を見るのは始めてだわ。」

「誤魔化さなくても良いよ。情報を出し渋る必要も無い。ここまで推測が当たっているのならば、おそらく次のアクションは早い筈だ。」

「っ!?そこまで・・・ええ、その通りだわ。私は、ある方に頼まれてここに来たの。勿論、家出は嘘ではないけれど、向こうの提案は渡りに船だったのよ。」

「そう。じゃ、ズバリ言うけれど、あなたに依頼を出したのは、」


 そこで言葉を切る舞。

 ミルも真剣に舞を見ている。


 そして、


「貴方がたを召喚した女神だね?」


 結論を出した。











「本当に驚いたわ。まぁ、正解ね。私も、もしあなたに感付かれたら素直にすべてを話すように言われているからね。」

「すでに話す必要がある段階まで来ているから?」

「っ!!え、ええ、その通りよ・・・なんというか、怖いわね本物の天才って。レイジったら、とんでもない人に好かれてるわね〜。」


 先回りするような舞に苦笑するミル。

 しかし、舞は表情一つ変えずに、先を促した。


 こほんっ、と咳払い一つおき、ミルは話し始めた。

 

 女神とのやり取りを。

 ミルは、自分の主観を交えて、その時の事を話始めた。


 これは、ミルが美奈に話した先にあるもの。

 そのやり取り。















『家出してるんでしょ?だったら家出先に良いところがあるよ?大魔法使いミナと霊拳士レイジがいる世界。どう?』

「行きます!!」

『オッケ〜!じゃ、送りま〜す!!・・・って、言いたいところなんだけど、一つお願いがあるんだよね〜?』


 私は、久しぶりにミナやレイジに会えること、それと、安全で見つからない場所へ行けることを嬉しく思っていたから、できることならこの女神様からの頼まれ事をやろうと思ってたのよ。

 だからその内容を聞いたのね。

 あんまり難しい事なら断らなくてはいけないし。


「お願い?」

『うん、そうそう。実はさ〜、あなたも気がついてたと思うんだけど、彼ってちょ〜っと厄介な事があるんだよね〜。』


 それを聞いて私が思い当たる事は2つあった。

 一つは、旅の最中に気がついた彼の歪さ。


 彼は、とても鈍感だった。

 口では悪態つく事は多かったけれど、それでも優しさを忘れないレイジに、旅の途中で出会った女性や助けられた女性が好意を持つのには十分だったの。


 まぁ、その辺はヴェルゼも似たようなものだったけれどね。

 私もミナもどれだけやきもきさせられたものか。


 だけど違いはあった。


 ヴェルゼは相手の想いをしっかりと理解し、真剣な想いにはしっかりと答えていた。

 はっきりと断ったり、私がいるってのをしっかりと伝えたりしたらしいの。


 でも、レイジは違った。


 明らかに女性からアプローチをされていて、中にはそれこそ、レイジを真剣に愛してしまったから抱かれたいというものもあったの。 


 だけど、レイジはそれを『ヴェルゼへ言い寄るための隠れ蓑だ』って断定していたのよ。

 私は、いくらなんでも、それはその女性達が不憫だって思って、一度レイジを注意しようと思ったわ。

 でも、


『ん?あんなので愛したりしないだろ?俺にはよくわからんけど。男女の愛ってなんなんだろうな?仲良くしたいってのとどう違うんだ?』


 そう、まったく冷静に答えたのを見て、凍りつく思いだった。

 彼は、【人を愛する】という事が理解できなかったのだ。


 ただ冷酷なだけならばそれは仕方がない面もある。

 だけど、彼は違う。


 なんだかんだと、本当に困っている人を助ける事ができる優しい人で、何も分からず、戦う術を持たずに召喚されたミナを励まして元気づけ、気にかける事ができる心を持っていたの。


 あまりにもいびつだ。


 だから、すぐに気がついた。

 彼の心は壊れている、と。


 本当は、癒やしてあげたいと思った。

 私にはヴェルゼがいるから、男女としてでは無いわよ。

 仲間・・・戦友としてね。

 

 でも、私にはできなかった。


 彼を癒やすことができるのは、彼を真に愛する人だけだと直感的に分かったから。

 【聖女】としての直感・・・いえ、どちらかというと天啓かしら。

 天啓ってのは、聖女に宿る能力の一つなのよ。

 そして、天啓の内容が外れることは無いわ。

 とても悔しくて無力に苛まれたけれど、私にできる事はない。

 ・・・真剣に、涙した事もある、わ。


 だから、私は、その辺りをミナに期待していたのよ。

 まぁ、ミナの臆病さ・・・もあるけれど、周りを気遣う優しさが私の予想を越えていたから、思った以上にヘタれていたみたいだけれどね。


 あ、続き話すわね?

 私は女神様にこう聞き返したのよ。 


「それは、レイジの心の事を言っているのかしら?それとも・・・」

『そう、そちらもなんだけど、もう一つの方が重要。彼は、【呪い】を受けている。』

「っ!!やっぱり・・・」


 そう、【呪い】よ。


 あ、表情が変わったわね?

 あなたも予想できていなかったみたいね。

 そう、彼は【呪い】を受けているらしいのよ。


 彼の半生に何があったのかは詳しくは聞いていないわ。

 

 だけど、間違いなく彼は何かに侵されている。

 当時は【呪い】だとは思わなかったけれどね。


 あれは、旅の中で気がついた事。

 

 強敵を退け、レイジがトドメを指した時。


 敵の身体から、ドス黒いナニカが漏れ出し、彼の身体の中に入って行ったのよ。

 毒なのか、呪いなのか、それとも他の何かなのかはわからない。

 でも、直感的に悪いものであると判断した私は、どちらにも効果のある浄化魔法を慌てて使用したわ。

 だけど、


『え?何してるんですかミルさん?』

『おい、ミル。余分な魔力を使うなよ。回復魔法ならわかるが、今の浄化だろ?』


 そう私を見てミナとヴェルゼが言ったのよ。


「今の見えていなかったの!?」


 カッとなってすぐそう叫んだんだけど、


『何がだ?』『何のことです?』


 キョトンとしてそう返され、更には、


『浄化?俺、何も問題ねぇぞ?特に毒も呪術も喰らってねぇし。気分が悪くなったり、調子がおかしいってのもねぇしな。』


 肝心なレイジ自身がそう返して来たから。


 腑に落ちないながらも、納得せざるを得なかった。

 実際、浄化をかけた手応えは無かったし、曲がりなりにも聖女だった私を越える使い手もいなかったしね。


 でも私は、それ以降、ずっとレイジの戦いを見てきたわ。


 すると、確かに、敵、特に、強大な意思を持つ敵や知能がある敵の命を奪った際に、彼の中にドス黒い・・・いえ、もっと言えば、相手の魂のようなものが入るのが見えたの。


 だからその度に浄化魔法を使ったわ。

 手応えは無かったから、無駄に終わってたけど。


 で、あまりにも私が浄化魔法を使うから、流石にみんなもおかしいと思い、問い詰められたのよ。

 私はすべてを話したわ。


 私にしか見えない、ナニカがレイジに入り込んでいるって。


 ヴェルゼとミナはそれで表情を変えたわ。

 ミナなんて泣きながらレイジに詰め寄ってたわね。

 でも、


『そう言われてもなぁ・・・なんにもねーんだよホント。まぁ、ミルが言う位だから、気の所為ではねぇんだろうが・・・ま、まぁ良いさ!それよりもほれ、帰ろうぜ!!』


 ってレイジは有耶無耶にしてしまったのよ・・・


 っと、続き話さなきゃね。


 女神様に【呪い】の事を話されて、私は女神様の案に飛びつく決意をしたのね。

 戦友の為に、ミナの愛する人のために。


 そして、その案を女神様は口にしたのよ。

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