閑話 美奈と舞

「さ〜てさてさて美奈ちゃ〜ん?まずはそこに座ろっか。」

「あ、はい!」


 舞の部屋に移動し、美奈はおそるそる着座する。

 室内を見るとシンプルで物があまりない。


 簡単な机と少し大きめのベッド。

 そして座り心地が良さそうな椅子とタンスと本棚。

 ほとんどの物はクローゼットの中のようだ。


「あは。意外かな?女らしくない部屋みたいで。」

「い、いえ!そ、そんな事・・・」

「あっはっは!隠さなくても良いよ〜。私、気にしないからさ。」


 あっけらかんとしている舞。

 しかし、美奈はそこに少しの違和感を感じた。


 何かはわからない。

 わからない、が・・・


「う〜ん、意外と鋭い感性してるんだね〜?私から違和感を感じたんだ。」

「!?」


 勿論、わかるようなリアクションをしたわけでは無い。

 だが、舞は美奈の心の動きに気がついたようだ。


「(え?え!?まさか、結城先輩みたいに超能力者なの!?心読まれてる!?)」

「違う違う、私のはそういうんじゃないんだな〜これが。超能力なんてないよ〜?」

「!?」


 正確に心の動きを把握されている事に驚愕する美奈。

 しかし、次の瞬間落ち着きを見せた。


「・・・経験値?いいえ、これは違う・・・まさか、私の心を読み切ってる・・・?」


 冷静に見極めようとする美奈。


「・・・ふ〜ん。流石は異世界を救った勇者一行なだけあるね。努めて冷静だ。うん、素晴らしい。」


 そして、そんな美奈の様子に少しだけ目を開いた後にっこりと笑う舞。


「・・・後衛である私の役割は、誰よりも冷静である事でしたので。それよりも・・・それが素なのですか?」


 ぽわぽわとした感じを抑えた舞を見て、美奈は呟く。


「ん〜・・・ま、隠してもねぇ。こほん!・・・さて、改めて会話を続けようか。君は零ちゃんを助けたい、私達も彼を助けたい。であれば同じように彼を支えることに異論は無い。これで良いかい?」


 美奈は確信する。

 これが舞の本性なのだと。


「・・・はい。もう、独占しようだなんて考えていません。零士さんはおそらく私一人では助けられない。みなさんは、それにいち早く気がついたから現在のような状況になっているのですね?」


 だが、だからと言ってなんなのだろうか。

 気後れする必要も、恐れる必要も無い。

 結局のところ、舞は零士を助けるために頑張っている、何故かそう信じられるのだから。


 そんな美奈を見て、舞は微笑んだ。


「若いね。柔軟だし、聡明だ。はっきり言って、琥珀ちゃんやかすみちゃんは下地があった。私の異質を知るという下地が。だが、君は今、受け入れた。私のこの異質を。それは素晴らしい資質だよ。珍しく私の思考結果を大幅に修正する事になったよ。良いね。」

「これでも、命をかけた戦いを何度も乗り越えたんです。敵だった相手が味方になる事も、味方だと思っていたら敵だったなんてことも何度もありました。」

「ふむ。異世界転移は君を素晴らしく醸成させたようだ。だが、それにしては・・・今回の件はあまりにもどうかと思わなくもない。」

「う”・・・恋愛ごとは初めてでしたので・・・みっともないところを見せちゃいました・・・」


 舞に痛いところを疲れた美奈は表情を消沈したものに変える。

 だが、舞は美奈に言葉を続けた。


「いや、これも必要だった、という事だろうね。の計画のうちだったんだろうさ。」

「どこかの誰かさん?」


 舞の言葉に、引っかかりを覚え顔を上げる美奈。

 そこには、真剣な顔をした舞がいた。


「ああ、そうだ。あまりにも都合の良い推移をしすぎている。雪羅ちゃんだけならまだわからないでもないが、夜夢ちゃんの異世界からの転移、私、そして琥珀ちゃんやかすみちゃん、そして君と・・・暁月ちゃん。極めつけは、異世界の聖女と来た。仮に彼が偶然を引き当てるという特異体質を持っていたとしても、あまりにも都合が良すぎる。」

「・・・それは確かにそう思わなくも無いですが・・・ミルさんもですか?彼女には旦那さんであるヴェルゼさんがいらっしゃいますが・・・」


 訝しげにそう言う美奈に舞は頷く。


「私の推測では、彼女は別の役割を与えられて来た筈だ。この後少し探りを入れてみるつもりだけど。推測が当たっていれば、彼女は夜夢ちゃんの補助をする事になる筈だ。」

「夜夢ちゃんの補助・・・あ、あの・・・舞、さんにはどこまで見えているんですか・・・?」


 ごくりと喉を鳴らし、そう問いかける美奈。

 舞は目を伏せ、そして、


「おそらく・・・かなりの部分を。今回の件、というか、具体的には『異世界から聖女を転移させた』事と、『その聖女は君たちの知り合いである』事が大きな情報だったんだよ。というか、自分で出した結論だとしてもあまりにも荒唐無稽な上、私にとっては喜ばしくない結論だから、できれば外れていて欲しいと思っているよ。まぁあまりそういった経験も無いのだけど。」


 苦笑しながらそういう舞に、美奈は言葉が出ない。

 おそらく、教えてほしいと行っても、舞は確証が出るまでは教えてくれないだろう。


「ま、それはいいさ。それよりも、これからだ。零ちゃんはかなり良くなって来ている・・・あと一息だろうね。本題だけど、私達はみな、これまで私の推論に沿って行動して来た。雪羅ちゃんの妖力、夜夢ちゃんの魔力、私の霊力、かすみちゃんの気力の譲渡・・・まぁ、君には気分の悪い話かもしれないが、これには身体を通じて行った。」

「いえ、それはすでに知っていますから大丈夫です。」

「うん。そして、琥珀ちゃんには精神感応テレバスによる心への干渉。つまり、身体を通しての力の譲渡ではなく彼の心に直接愛情をぶつける方法。」

「・・・つまり先輩は・・・」

「ああ、まだ清い身体のままだよ。まぁ、本人は早く抱かれたいだろうけどね。」


 そんな言葉に、美奈は少し赤くなりながらも、頷く。

 彼女とて、琥珀と同じなのだ。


「そして次は君だ。言葉と、態度で彼に示して欲しい。そこに少しだけ魔力を載せて。」

「魔力を?」

「ああ。魔力や霊力は、どうも身体そのものよりも魂に直接作用し易いようだ。特に、自分が気を許した相手には。なんというか・・・壁を透過する、という感じだろうか。」


 そんな言葉に、美奈は目を丸くして驚く。

 『この人は、本当に天才なんだ』と改めて思わされたのだ。


「そこまでいけば本当にあと一押しだろう。そして、私達にはまだ『彼女』がいる。」

「・・・お姉ちゃん、ですね?」

「ああ。」


 美奈は内心少しほっとした。

 姉を押しのけてまで、自分だけ幸せになるのは気が咎めていたのだ。


「よほどの何かが無い限りは問題無いはずだが・・・イレギュラーというのはそういうときにこそ首を掻きに来る。お互いに気をつけよう。まぁ、この後零ちゃんは、君を送ると言い出す筈だから、そのときにでも彼に言葉と態度で魔力を譲渡してあげて欲しい。」

「わかりました!!」


 力強く頷く美奈に舞は表情をへにゃりと変えた。


「・・・うんうん!一緒に零ちゃんを支えようね〜?あと、零ちゃんの零ちゃんってばすっごいから、覚悟しておいたほうが良いよ〜?ま、私も零ちゃんしかしらないんだけどさ。」

「れれれれれれれれれれれ零士しゃんの零士しゃんって・・・はわわわわ!!!そそそそうなんですか???」

「うん、色々周りに聞くとそうみたい。何故かそれが聞こえていたらしい大学の男の子が何人も泣きながら崩れ落ちていたけれど。『大学の女神が巨大なモノを持つ若い男に快楽堕ちさせられた!!!』って何それって感じ?それに体力も底なしだからね〜?私達、いっつも腰砕けになっちゃうし。」

「かかかか快楽堕ち!?わわわ私もいずれ零士さんに・・・みゃああぁぁぁ!!」


 舞は、顔を真っ赤にしながら両手を頬に当ていやんいやんとしている美奈を見てほっこりする。


「(・・・さて、これで大体良い推移をしている・・・筈。後はこのあと、確証を得るだけ、なんだけど・・・何?何か勘が訴える・・・この感覚は何?)」


 舞は表情をそのままに、内心の不安を押し殺すのだった。

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