第45話 私なんてどうでもいいんだ side美奈

 「・・・四之宮さん。また時間を貰えないかな?」


 今日も先輩がクラスに来た。

 前に告白されてから1週間経過している。


 夏ももうすぐそこで、先輩は今年受験だっていうのに、こんな事をしていて良いのだろうか?


「四之宮ちゃん!いってらっしゃ〜い!!」


 クラスの友達の女の子達がそう言ってはやしたてる。

 

「すげぇな先輩・・・あれだけ断られても、まだ行くのか・・・男として尊敬できるぜ・・・」

「あれほどの男を惑わすとは、流石は【癒やしの妹】だな・・・」


 男の子達もそんな事を言っているのが聞こえてくる。


 ・・・私は、そんな風に周りに言われるのが好きじゃないのに、


「・・・四之宮ちゃんも、あの変な先輩なんてやめれば良いのにね?」

「だよねぇ・・・まぁ、あの先輩、なんでか学校の有名人に言い寄られているし、良い所もあるんだとは思うんだけど・・・でも、ねぇ?」


 そんな言葉が聞こえて来た。

 思わず身体が固まる。


「ああ、あの普通のクセに【氷姫】や【小悪魔】、それに生徒会長を侍らせている先輩だろ?あんなのの何が良いんだろうな?」

「俺の方が絶対イケメンだって!!」

「ははは、そりゃ知らねぇけど、それでも今そこにいるこの人の方が絶対良い男だとは思うぜ?」

「だよな!」


 思わず、魔力が噴出しそうになる。

 ・・・なんにも知らないクセに!!

 あなたたちなんかに、零士さんの良い所は絶対にわからない!!


 それ以上言うのなら、黙っていられない!!


「ちょ・・・」

「俺はそんな風に陰口を言うのは嫌いだな。」

「「あ・・・」」「「す、すみません!!」」


 口を開きかけた私を遮って、目の前の先輩はそう言ってクラスを見回す。

 本当に、良い人なんだな・・・


「来てくれるかな?」

「・・・はい。」


 私は、先輩と一緒に校舎裏に移動した。




「さて、それじゃ今日も俺の気持ちを口にしようかな。」


 そう言ってにこりと笑う先輩。


「・・・あの。」


 先輩が良い人だって分かったので、私も断るのは心苦しく感じる。

 だから、聞いてみる事にした。


「何かな?」

「なんで先輩は断られたのに、告白し続けるのでしょうか?」


 すると、先輩はきょとんとしたあと、にこりと笑った。


「好きだからだよ。あきらめられないくらい君が好きだからだ。」

「っ!!」


 思わず、身体が震えた。

 ああ、この人は私と同じなんだ。

 狂おしいほど好きなんだ。


 私をそう思ってくれているんだ。


「俺と付き合って下さい。」

「・・・ごめん、なさい。」

「・・・そっか。じゃぁ、また今度告白するよ。」

「・・・」


 また断ってしまった。

 罪悪感でいっぱいになる。

 だけど、私だって私の気持ちは譲れない。


 だから先輩の気持ちを受け入れるわけにはいかない。











「なぁ、四之宮?なんか最近、お前ぼ〜っとしている事が多いけど、本当に大丈夫なのか?」


 今日もまた、同好会の時間に零士さんが私を気遣ってそう聞いてくれる。

 

 大丈夫


 いつもならそう答える。

 だけど、少し、そう、少しだけ魔が差してしまった。


「実は・・・三年生の人に告白されていまして・・・」

「へぇ?告白されるとかすげぇな!」


 零士さんが気にしてくれるか、試してしまったのだ。


「サッカー部のキャプテンなんです。」

「ほぉ。良いやつなのか?」

「・・・サッカー部のキャプテン、ね。見た目も整っていて、性格も良いと評判よ。サッカーの実力もあるから、たしか大学もサッカーでの推薦で行けるんじゃないかって話だったわ。」

「ほぇ〜。」


 結城先輩が私に変わって人物紹介をしてくれた。

 零士さん・・・どんな風に思ってくれるかな?


 そんな風に考えていた私。

 だからかもしれない。


 バチが当たっただろうか。

 傲慢に試そうとした事の。


「へぇ〜?そうか〜。評判良いなら、まぁ良いか。で?どうするんだ?」

「え・・・」


 零士さんは、


「ん?だって付き合うかどうかで悩んでたんだろ?」


 私の気持ちなんて、


「悪いやつなら許さん!って言ってたかもしれねぇが良いやつだってんなら、応援するぜ?」


 分かってくれていなかったのを目の当たりにさせられたのだから。


「・・・っ!!!」

「あ、ちょ!?四之宮どこへ!?」


 私は部室を飛び出した。

 泣きながら飛び出した。


 だから、どこかからバチンッって大きな音が聞こえて来たのも気のせいに思えた。



 

 

 










 部室を飛び出し、あてもなく彷徨う。

 

 ああ、そっか・・・零士さんは、私なんてどうでもいいんだ。

 

 そりゃそうだよね・・・だって、零士さんのそばには、いっぱい綺麗な人達がいるんだもん・・・


 私みたいな子供じゃなくて、大人の綺麗な人達が・・・


 諦めた方が、良いのかな・・・報われない想いを持ち続けるの良くないのかな・・・


 私を好きだって言ってくれる人と一緒になった方が、幸せになれるのかな・・・



 ふらふらと歩く。

 どこまでも歩く。


 気がついたら、この街で一番大きな公園。

 日も暮れて、すでに公園内は街頭の下くらいしか暗くて見えない。

 


 闇。

 まるで私の心の中のようだ。



 わたし、どうしたら、いいの・・・?


 涙が止まらない。

 

 どうしよう・・・どうしたら・・・


 え・・・?


 何か公園の中心が青く光っている。

 あの光・・・何・・・?


 って、これ、魔法陣!?

 え?え!?


 一瞬強い光で目が眩む。

 そして、


「・・・ここがミナやレイジがいる世界・・・?なんだか不思議な光景ね。」


 そこに居たのは、


「・・・え?嘘・・・」


 思わず声が盛れる。

 だって、そこに居たのは、


「・・・あ!?ミナ!!」

「・・・ミルさん!?」


 私達のパーティの聖女、ミルさんだったのだから。

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