閑話 まどろみの想い人

「・・・ん・・・」

「・・・ぐ〜・・・か〜・・・」

「ふふ。」


 早朝。

 心地よい微睡みの中、目を覚ますと、暖かい何かが私にくっついているのを感じた。

 

 ふと、そちらを見ると、そこには私を抱きしめるようにして寝息を立てている零士くんが居た。

 思わず、笑顔になってしまうわね。


「・・・もう、心地よさそうな顔しちゃって。私の胸は良い枕になったかしら?にしても・・・うふふ。」


 彼の顔が私の胸にくっついている。

 私の胸の弾力で彼の頬が歪んでいるのを見て笑ってしまった。

 

 こんな風に、男性の顔が胸に当たっているのは勿論初めて。

 それを思うと恥ずかしいと思う反面・・・とても愛おしく感じた。

 これは、彼だからこそ、でしょうね。


 昨夜は、何も無かった。

 彼を抱きしめるようにベッドに引きずり込んだあと、彼はすぐに寝てしまい、私もそのあとを追うように眠りについた。

 

 父親以外の男の人と初めての同衾。

 緊張で寝られなくなるかと思ったけど、意外とすぐに眠りにつけたみたい。

 

 彼の顔をもう一度見る。


「ふふふ。」


 ああ、なんて可愛らしいの?

 彼は私を助けてくれた。

 何も聞かず、何も語らず、何事も無かったかのように。

 

 一応、私はあのあと、彼が何をしたのか隠岐先生に詳しく聞いた。

 聞く必要があると感じたから。


 彼は、いえ、彼と隠岐先生は私の為に、命を奪ったと聞いた。

 その事に思うところは・・・まったくない、とは言えない。

 やはり、気にしてしまうところはある。


 超能力者だって事で自分が特別だと思っていたけれど、やはり彼のように本当に特別な人間では無い私では、命を奪って何事も無かったように過ごすことはできないのだろう。


 だからと行って軽蔑することも恐怖する事もないけれど。


 だってそうでしょう?


 彼も隠岐先生も、私の為にそれを為したのだから。


 そして、彼らのように本当に優しい人が、それを何も思わず居られるわけがないのだから。


 隠岐先生は幼少時からそういう訓練を受けていると言っていた。

 ある程度心構えもあるでしょうし、そもそも彼女は大人だ。

 色々な経験を積んでいると想う。

 割り切ることもできるかもしれない。 


 でも、彼はおそらく違う。

 話によると、妖魔?というモノを祓う仕事はしているけれど、人を殺すような訓練はしていないと思う。


 だからだろう。

 彼はその罪悪感を心の奥底に封じている。

 何事も無かったかのように振る舞っており、事実異世界でもそういう経験があるのでしょうけど、やはり隠岐先生のように成熟していない私達では、割り切ることも難しいのだと思う。

 だからこそ、彼は昨夜に涙を流したのだろうから。


 なればこそ、私は彼に全てを捧げたい。


 罪悪感からではなく、私の本心として。

 

 彼を守ってあげたい。

 彼を安らがせてあげたい。

 癒やしたい。

 私の全てを捧げたい。


 愛おしい。

 ただ、ひたすら愛おしい。


 私の隣ですやすやと眠る彼が愛おしくてたまらない。


 ねぇお母さん?

 お母さんも、お父さんにそう感じてた?


 あんな父親だったけれど、それでも、そう思っていたの?


 今となってはわからない。

 

 でも、もし、この気持ちがそうだとしたら。

 

 そのときは、許して欲しい。


 彼を取り巻く環境は、私一人では支えられない。

 私一人では、彼の心を癒やすことはできない。


 私を含め、彼を想う女性達でなければ。


 先輩と話してよくわかった。


 彼には、私達が必要なのよ。


 だから、普通の恋路は歩めない。

 彼を中心に、彼を想う女性たちとともに、歩むしか無いの。


 許してくれる?


 人から後ろ指をさされるかもしれないような生き方になるのを。


「・・・ん〜・・・」

「ん・・・♡」


 彼の手が、私の胸を掴む。

 背筋に、今まで感じたことのないような快感が走る。


「もう・・・エッチなんだから。」


 思わず。彼の頭を撫でた。


 他の男になら、こんな風に触らせない。

 私は、彼にしか身体を許さない。


 というよりも、彼で無くては駄目なのだ。


 彼だからこそ、こんな風に思えるのね。


 たった一瞬でもこんな風に感じる。

 私は、それほど彼に心底参ってしまっているのだろう。


 だって、昨夜はあんなふうに言ったけど、


「・・・あなたの子供が欲しい・・・」


 そう、強く思ってしまったのだから。


 早く私も抱いてね?

 我慢できなくなっちゃう前に。

 愛する男が手の届く所にいるのだもの。

 抱かれたくない訳がないわ。


 初めてなのにそう感じるの。

 女としての本能なのかしら?


「・・・んあ?・・・あ、そうか・・・琥珀さん・・・おはよ・・・」


 彼が目を覚ます。

 まだ、ぼ〜っとしているみたい。


「おはよう零士くん。」


 かわいい。

 私はそう思いながら彼の頬に口づけをした。

 

 唇にしたいけど・・・それは初めてのキスをしてから、ね?


*****************

これで本章は終わりです。

ちょっと閑話が長かったですかね?

そしてシリアスさんも頑張ってくれました。

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