閑話 琥珀と舞(2)

「さて、それじゃ結城ちゃんに心構え一つ教えちゃお〜。」


 先輩の言葉にうなづく。

 

「まず、根本的に零ちゃんは家族を求めている。それも、心からの愛情を持ちあえるような家族をね。だから、恋人である、という事よりも、家族であろうとしなきゃ駄目よ?」


 ・・・なるほど。

 彼の生い立ちは先日彼の言葉で聞いている。


 あのときは、なんとも言えない気分になったけれど、今は違う。


 あの時よりもはっきりと、彼を助けてあげたい、彼を癒やしてあげたいと心から思えるもの。

 

「その為には、まずは呼び方を変えましょう。だって家族だもの。今は教師であるかすみちゃんの事すら学校以外では名前で呼んでいるしね。呼び方は大事だよ〜?」


 それはそうね。

 呼び方は大事だわ。


 説明されなくても分かる。

 【教師】や【上司】、それに【先輩】や【後輩】、【従姉妹】や【幼なじみ】というのは、心の一線を引くためにあるのだもの。


 だから、その言葉を使わず、名前で呼び合うのは、その一線を消す意味もあるわ。

 

「で、私もそうだけど、雪羅ちゃんも夜夢ちゃんも、かすみちゃんも一番の目的は零ちゃんを癒やしてあげる事にある。戦い続けて疲弊している彼の精神、自分ですら気がついていなかった心の傷を埋めてあげたい、そう思っている。」


 先輩が少し早口で話し始めたわ。

 雰囲気も表情も言葉遣いも少し変わった。


 おそらく、これが本当の先輩なのだろう。


 まぁ、だからといって私には変わりはないけど。

 だってそうでしょう?


 この女性ひとが普通じゃないのは明々白々なんだもの。

 

 私にとっては、先輩が普通じゃない事よりも、先輩が彼を助けようとしている事の方がよっぽど大事。

 だから、どうということはない。

 

 何も変わらないわ。


「彼の心は、かなり癒やされて来ている。君も理解している通り、我々との繋がりにより、彼の心は愛情を理解できる前段階まで戻った。だが、それには身体の関係がありきだった。次は、君だ。君の能力が必要だ。」


 精神感応能力テレバス


 それが必要という事ね。

 この能力は早い話が、彼の心と繋がるという事。

 これによって彼は【肉体関係による愛情の理解】から、【心を介しての愛情の理解】へと変わるって事かしら。


「そう。物理的な繋がりから精神的な繋がりに移行する事によって、彼の精神はまた変容する。まぁ、それだけでは無いがな。彼女たち雪羅ちゃん、夜夢ちゃん、かすみちゃんのそれぞれの妖力や魔力、それに気力、そして私の霊力といった事が彼の魂に直接的に作用している事も関係しているのだろう。身体を繋げた際に渡すように言ってあったからね。君が能力を使って彼の魂の奥底に繋がる時に、君の力もまた彼に届くだろうさ。」


 ・・・なるほどね。

 流石は先輩だわ。

 結局、最初にそれが無ければ、私の能力だけでは彼の心、いえ、魂には繋がらなかった、という事ね? 


「君の考えている通りだ。そして、他の面々にも言っている事ではあるが、最終的に必要なのは夜夢の能力、おそらくサキュバス特有の【夢に入る能力】つまり精神に直接作用する能力と、後は彼のトラウマ・・・その払拭が必要となる。だが、その前に、君の能力でその下地を作っておかねばならない。そこまでかの世界の神が予測できていたかは分からないが・・・夜夢くんをこちらの世界に来させたのは、おそらくその為だろう。私は、そう結論づけた。」


 そうか。

 だから、彼女はこちらに来られたのね。

 斬来くんの話では、彼女が手に終えなくなった向こうの神が追い出した、みたいな言い方だったけど、神様も斬来くんを助けたい、そう思っていたってことかしら。


「おそらくそうだと思われる。その為に二度目の時には彼だけを喚んだのだろうさ。そうすれば、彼が夜夢くんともう一度出会い、その結果それが可能になるサキュバスクイーンにまで進化すると読んでね。でなければ彼以外の仲間も、もう一度召喚しない理由にならない。もし召喚していたら、無駄道をせず、もっと楽に敵の元へ行って、安全に倒していただろうし。」


 なるほど・・・よくそこまで考えられるわね。

 凄すぎよ先輩。


 それにしても、異世界の神、か。


「・・・先輩?異世界の神は、そこまで私達こちらの世界の人間がその考えを理解できて実行すると考えたと思います?」

「私はそう思っている。なんらかの方法でこちらの世界の事を知ったか、それとも・・・そもそも未来が見えるのか。そこまではわからないが・・・」


 ああ、そうか。

 そういう方法もあるのかも。


 だって神様だし。

 ま、いずれにしろ、


「分かりました。それではよろしくお願いしますね・・・舞さん。」


 私がそういうと、先輩・・・舞さんはにっこりと笑っていつものふんわりした雰囲気に戻った。


「うんうん!さっすがは琥珀ちゃんね!頼れる後輩、いや、家族だね!!」


 すぐに私の意図を読んでくれる。


 怖い女性ひと、でも、それ以上に味方であれば頼れる女性ひと

 それがこの女性家族


 斬来くん、いえ、零士くん?

 あなたは絶対に逃げられないわよ?


 だって、私達家族が逃さないもの。

 

 でも安心して?

 それ以上にあなたを幸せにしてあげるからね。

 

 この、誰よりも頼りになる先輩家族と一緒に、ね?

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