閑話 因果応報と破滅と

 部屋に備え付けてあるモニターが点灯する。

 そこに映し出されたのは、会議室だった。

 

 そこには、社長を含め、役員どもが呻き倒れている状況が写っていた。


『こっちは終わった。』


 女の声が響くが姿は見えない。


「あ、そう?」

 

 ガキの様子から、こいつの仲間らしい。


『全員、そいつらの仲間。全て知っていて協力していた。』

「そっか。じゃ、そいつらはもういらね。責任とらせなきゃ。俺が・・・」

『大丈夫。私が代わりにやっとく。』

「・・・そっか。他の社員は?」

『何も知らないらしい。』

「じゃ、そいつらは逃がすか。」

『そう言うと思って、すでに行動済み。侵入時にマイがここのセキュリティを乗っ取り、空調システムを使用し、ここ会議室と|そこ《地下室以外の酸素の濃度を下げ、全員意識を失わせているから楽々。私の分身と家事が終わって手伝いに来たセツラとヤムが、今せっせと外に運び出している。』

「あ〜、そりゃありがてぇな。」


 ・・・何を言ってやがる・・・?

 一体、何を・・・


「盗聴器の具合はばっちりだったな?」

『感度良好。そこのクズ共の言葉はしっかりと聞こえていた。流石はマイの特製。それにしてもこいつらに情状酌量の余地は一切無い。社会のゴミ。』

「だよなぁ?俺も一切躊躇せずに済んだわ。」


 盗・・・聴・・・?

 こ、この部屋の・・・か?

 いつだ?どうやって仕掛けた・・・?


「じゃ、終わったら一階で。面白いもん見せてやるよ。」

『楽しみにしてる。後5分くらいで終わると思うから、セツラとヤムにも伝えて置く。』

「よろしく。」


 プツッ


「さて・・・と。」

「ひぃぃぃぃぃ!?」

「・・・」


 ガキの皮を被った化け物が近づいて来る。


 相棒は鼻を抑えたまま悲鳴をあげ、後ずさろうとするが、足が折れているので這ってしか動けない。

 相棒は漏らしている事もあり、小便の上で藻掻いているだけだ。


 そして、逃げられねぇのは俺も同じ、か。


「先輩を酷い目に遭わせようとしたんだ。生きて帰れるなんて思ってねぇよな?」


 その目、その言葉に、背筋が凍る。


 こいつは違う。

 俺達とは違う。


 おそらく、俺以上に命を奪っている。


「・・・お前、何人くらい殺してきた・・・?」


 気になり、痛みを我慢し、聞いてみる。

 今、この瞬間にも俺は殺されるかもしれねぇ。

 だが、どうしても気になった。


「ん?そうだな・・・あやかしや魔族なんかも命は命だよな・・・何万とかじゃねぇか?」

「・・・そうかよ。」


 言っている意味はよくわかんねぇが、桁が違う。

 俺たちは、とんでもねぇのに手を出しちまった。


「次は真っ当に生きるんだな。じゃ。」

「いや、いや!来ないで!!なんでこんな目に!!せっかく地獄から抜け出したのに!!」

「ん?お前らが他の人を同じような目に遭わせようとしたからだぞ?ふっ!!」

「あ・・・そん・・・な・・・」


 トン


と、額に手を当てたと思った瞬間、ビクンッと相棒の身体が揺れ、そしてそのまま動かなくなった。


「何か言い残す事はあるか?」

「・・・ねぇ。やれ。」


 相棒が死んで、もう生きる意味はねぇ。

 俺には、相棒しかいなかったんだから。


 ドスッ


 胸に衝撃。

 だが、痛みは無い。


「後10分くらいでお前の鼓動は止まる。そういう風に衝撃を伝えた。せいぜい、悔い改めるんだな。」


 そう言って表情一つ変えず、ガキは部屋から出ていった。


 俺は、這いずって相棒に覆いかぶさった。

 そして、目を見開いている相棒の目を、なんとか閉じようと、自分の唇を使った。


 相棒の死に顔を眺める。


 何故か、涙は出ない。

 どうせ、俺もそっちにすぐに行くからだ。 


 ああ、本当に、なんでこんな事になっちまったんだろうな?

 なんで俺はここまで腐っちまったんだろうな?


 俺もお前も、ただただ穏やかに生きたかっただけだったのに。


 あの時、お前が俺を助ける為にクソ野郎どもに汚されたって聞いて、あいつらを虐殺した時。

 俺は狂っちまったんだろうな。


『理不尽』


 それがその正体。


 奪わなければ奪われる。

 

 だから俺が理不尽を振るった。

 奪われない為に。

 

 だからこうして理不尽に命を奪われた。

 

 意味わかんねぇ。

 あんな化け物がいるなんて思いもよらなかった。

 奪った後、そこで復讐を終え、穏やかに生きていれば良かった。


 そうすれば、相棒と・・・愛する女と一緒に静かに生きられたのに。


 だんだんと心臓が苦しくなってきた。

 どうやら、あのガキの言う通り、俺の命は後少しなんだろう。


 ドゴーーーーーーーーーンッッッッッッッ!!!!


 凄まじい轟音とともに、建物が揺れる。

 

 そして、


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッッッ


 建物が大きな音をたて、部屋中にひびが入った。

 徐々に天井が崩れてくる。


 どうやら、このビルも終わりらしい。


 どうせあのガキが何かやったんだろ。

 

 ほんと、バケモンだぜ。


 俺は相棒に口づけする。


 また一緒に生まれたら、次は静かに生きようぜ?

 お前も、昔みたいに他人に優しく、みんなの憧れだったように生きてくれよ?

 じゃねぇと、またあのバケモンに殺されちまうからよぉ?


 今、そっちに行くからなあいぼ


 グシャッッッッッッッッッッッッ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る