第41話 よくわかんねぇけど・・・まいっか!!

「それじゃ、今日からお世話になるわね。」

「あいよ。」


 先輩が俺の家に住む事が決まってから数日。


 今日は先輩の引っ越しの日だ。


 あれから毎日のようにぶ〜ぶ〜言ってた暁月と四之宮も、諦めたのか手伝ってくれるそうだ。


 人手も増えたので、先輩の家に行って手伝うのは俺と暁月、俺の家で受け入れ準備・・・つーか、空き部屋の掃除の仕上げをするのが夜夢とかすみさんと舞さん、昼食の準備を雪羅と四之宮って感じに手分けする事ができた。


 ありがてぇ。


 先輩の荷物はもうほとんどダンボールに詰まっているし、その数もそれほど多くは無いそうだ。

 なぜなら、タンスは服が入ったままアイテムストレージに入れられるし、家電も梱包はいらねぇ。

 それに、本棚や棚なんかも、本や物がある状態で入れちまえば良いからだ。


 三人でどんどんストレージに入れていき、何もない部屋となった後、先輩は部屋の中央で目を閉じて佇んでいた。


 まぁ、色々思い返しているのかもしれねぇな。


 どれだけの期間ここに住んでいたのかは知らねぇが、やっぱりそれなりに思う所があるんだろうさ。


「・・・ありがとう。行きましょう。」


 こちらを見てそう言う先輩の顔は、寂しさがどこか残る表情だった。


 移動は徒歩・・・と行きたいところではあるが、少し距離があるので、タクシーで向かう事にした。

 

 費用は俺持ちだ。

 金はあるからな。

 

 先輩は自転車を持ってはいるが、ストレージにインした。


 俺の自宅に着くと、舞さんが入り口で待っていた。


「ようこそ結城ちゃん。あ、零ちゃん?ちょっと結城ちゃんと二人でお話させてくれないかな〜?先に話しておきたい事があるんだ〜。」

「え?」


 なんでだ?

 そんなん、入ってからでよくねぇ?


 しかし、舞さんはそんな俺の耳に口を寄せ、


「どうせなら、『ようこそ!』なんて言ってあげたら?家主としてさ?」


 とボソボソと言われ、ふむ、と考える。


 う〜む。

 確かに、これからは先輩の家にもなるんだもんな、ここは。


 なら、そう言うのも良いかもしんねぇ。


 舞さんの言葉に納得し、暁月を連れて先に家に入る。


「私も、桐谷先輩とお話したかった事があります。」

「んっふっふ〜♬だろうねぇ〜。」


 そんな言葉を聞きながら。













「ようこそ!これからよろしくな先輩!」

 

 結構話し込んだようで、30分くらい庭で話しをしていた二人。

 何を話していたのかはわかんねぇが、玄関ドアを開けて入ってきた先輩にそう言うと、先輩は何故かかなり穏やかに微笑み、


「ええ、これからよろしくね?零士くん?」

「ふぇ?」


 何故か名前で呼んできた。

 なんでいきなり名前?


「そりゃそうでしょ〜?これから一緒に暮らすじゃないの〜!」


 そんな疑問が顔に出ていたのだろう。

 舞さんがそう言って俺の肩をバンッと叩いた。

 えらく『家族』ってところを強調しながら。


 しかしなるほど、家族、か。

 かすみさんの時にも思ったが、俺はその言葉に弱いらしい。

 妙に心が暖かくなりやがる。


「・・・そうだな。じゃ、あらためて、よろしく、え〜っと・・・」


 あれ?

 先輩って名前なんだっけ?


 名字は覚えてるんだが、下の名前って・・・あれ?


「・・・え〜?零ちゃん、それはないんじゃないの〜?」

「あれ?え?あ〜っと・・・う〜んと・・・」


 やっべぇ!

 マジわかんねぇ!!

 

 そんな俺を、仕方がないヤツを見るような目で見ながら先輩は苦笑した。


「・・・はぁ、琥珀、よ。これからはそう呼んで欲しいわ。私をあなたの家族と認めてくれるのなら。」


 あ、そうか!

 琥珀、琥珀、ね!!


「いや〜、すんません!琥珀先輩!よろしく!」


 そう言って手を差し出す。

 握手のためだ。

 

 しかし、


「アホか。そこは『先輩』はいらんやろ。この朴念仁。死んだ方がええんとちゃう?」

「あっはっは〜♬そりゃそうだよ雪羅っち!だってレージだもん!ミスター唐変木だよ?」

「・・・レイジ、戦う技術ばかりではなく、少しは乙女心も勉強する。」


 後ろからそんな声が聞こえてくる。 

 振り返るまでもない。

 

 この罵倒・・・雪羅と夜夢とかすみさんだ。


 駄目なの?なんで?

 つ〜か酷くない?

 泣いちゃうよ俺?

 

 ちゃんとその後バブらせてくれる?


 バブゥ!


「零ちゃん?家族に『先輩』なんてつけるの?」

「そうね。きちんとして欲しいわ。家族なのでしょう?」


 ・・・あ〜、たしかにそうだわ。


「・・・じゃ、よろしく、琥珀・・・さん?」


 俺が困ったようにそう言うと、先輩はにっこり笑って握手をしてくれた。


「うふふ。別にさんもいらないけど、今はそれで良いわ。よろしくね?零士くん?」


 ・・・なんだこれ?

 すっげ〜恥ずかしいんだけど?


「ぐぎぎ・・・」

「む〜っ・・・」


 それに暁月と四之宮?

 なんだか、乙女がしちゃいけない顔してるのはなんで?


 よくわかんねぇけど・・・まいっか!!

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