第38話 こいつが・・・こいつがっっっっ!!!! side琥珀

ピンポーン

 

 自宅のチャイムが鳴った。

 こんな時間に?


 今日は色々あった。

 隠岐先生が学校に仕掛けたセンサーに侵入者がかかったらしい。


 私達の中の誰かが狙いらしいけど、一体誰を狙って来たのか・・・


 っと、いけないわね!


「はい?どちら様でしょうか?」

「わたくし、☓☓☓☓商事の者ですが。」

 

 ☓☓☓☓商事?

 あの一流商社の?

 一体、なんの用なのかしら?


「どういったご要件でしょうか?」

「いえ、少しお話があるんです。琥珀さんに、ね。」


 !?

 な、なぜ・・・なぜ私の旧姓を!?

 いけない!逃げないと、


「あ〜、逃げない方が良いですよ〜?もし逃げたら、あなたの学校の生徒、教師に次々と不幸が降りかかりますので。」

「っ!!」


 そんな・・・関係ない生徒や先生の命を・・・仕方がない、か。


「・・・逃げません。それで、ご要件は?」

「さっさと開けろ。まずはそれからだ。」


 ・・・これは、ちょっとまずいわね・・・








「・・・というわけで、同行してもらおうか。」

「拒否権は無い、ってわけね?」

「その通り。」


 家に入れたく無くて、玄関で話しをする。

 

 どうやってか、私の超能力に気が付き、それを利用しようとしているようだ。

 ようやく、手に入れた平穏な日常だったのに・・・


 私は、着替えなんかの最低限の荷物を持ち、彼らについて行く。

 心の不安と共に。


 荷物の準備中、九重さんからLINKが来た。


『狙いはあなたかもしれない。今どこにいる?』


 ちょっと遅かったわね。

 残念だけど、既に手遅れ。


 私の挙動を伺っている者が二人もいる。


 顎でクイッとジェスチャーを送られた。

 誤魔化せって事ね。


『今は自宅。』


『零士の家に来なさい。』


 ・・・本当に、残念だわ。


『大丈夫よ。あなたが心配する必要はないわ。』


 そう書き込みした後、準備を再開し、いざ自宅を出ようとした時だった。


 Pon!

 

 再度通知が来る。

 監視役がチッと舌打ちして、また顎で示しながら、


「大丈夫、とでも送れ!さっさとしろ!!」


 そう言われ、そのまま送る。


 その後は、スマホを置いていくように言われたので、彼らの指示に従った。














「ここは・・・?」


 そこは、郊外にあるアパートだった。

 部屋には、布団が一組と、PCが一つだけ。

 

 部屋に入るように言われ、入室すると、彼らはおもむろにPCを立ち上げた。


『よう。お前が溝口、いや、もう結城だったか?結城琥珀か。ほぅ、中々美人じゃねぇか。』

『ちょっと!?』


 そこには、長めの髪を立たせ、ワイルドな格好にサングラスの軽薄そうな若めの男と、夜の店でも似合いそうなイブニングドレスを来た派手な若い女が写っていた。


「あなた達、どなたなのかしら?初対面だと思うのだけれど?」

『なんだ知らねぇのか?俺は☓☓☓☓商事を陰から支配するモンで・・・お前がガキの頃にお前ら母子を狙うように指示したヤツだ。』


 ドクンッ!!


 心臓が大きく鼓動する。


 つまりこいつが・・・こいつがっっっっ!!!!


「お前がお母さんを死に追いやったヤツかっ!!」


 私の叫び声に男はゲラゲラと嗤った。


『おーこわ!まぁ、結果としてはそうなるなぁ。お前の馬鹿親父が俺の隣にいる相棒に良いように騙されてな?ペラペラとお前達母子の秘密をしゃべってくれたからよぉ?ありゃ傑作だったぜ!!』

『ほーんと!馬鹿だよねぇ?すっごく稼げるって言ったら、すーぐ食いついたもん!!それに、あの馬鹿、エッロイ目であたしの事見てさぁ?良い年してほーんと馬鹿!!キャハハハ!!!』

「お前!お前ら!!!絶対に許さない!!!」


 PCを殴ろうとしたのを、周りの奴らに止められる。

 凄い力!

 こいつらも普通じゃない!?


『ま、そんな事はどうでも良い。それより、よくもまぁ生きてたもんだぜ。のうのうと普通に暮らしやがって。あの頃、飼い犬だった俺たちが、会社のためだからやれって非合法な事ばかりやらされて、どれだけキツかったか・・・つーわけでよぉ?逃げたお前にもおんなじ苦しみを味わって貰おうってすんぽーよ!』

「誰が協力するか!!!」


 叫ぶようにそう言うと、そんな私を見て男は軽薄に笑った。


『ん?別に良いぜ?そうしたら、お前の周囲の人間が軒並み死ぬだけだ。ま、女は色々使い道があるだろうから死なねぇとは思うが・・・死んだほうがマシ、とは思うかもなぁ?』

「くっ!!!」


 なんて卑怯なの!!


『安心しなさいよ?あんたも似たような使われ方するだろうし?まーでも、あんたは超能力あるし?壊されないような相手にだけはあてがってあげるわ!脂ぎったオヤジとか!!あはははは!!』

『おいおい、それなら先に俺に味あわせろって!な?一回だけだから!』

『え〜?・・・仕方がないなぁ。じゃあ、アンタの後、アンタとの事覚えていられるのもムカつくから、部署の全員にヤラせるなら良いよ。』

『マジかよ!!あんがとな!!』


 意識が遠のきそうになる。

 こんなクズどもに手籠めにされるかもしれない。

 それだけじゃなく、非合法な何かをやらされる可能性が高い。


 ・・・死んじゃおうかしら。


 そしたら、お母さんにまた会えるかな?

 

 ・・・斬来くんに想いを伝えられないの、やだな・・・


『おいおい?何泣いてんだよ?あ〜、言っとくが、お前が死んだらお前の周りが地獄を見る事になるから。勝手に死ぬんじゃねぇぞ?』


 ・・・死まで封じられた、か・・・


『まぁ、安心しろよ。みぞぎが終わったら、ちゃ〜んと仲間に入れてやっからよぉ?』

『それまで壊れないでね〜♬』


 それで通信は切れた。


 そこからは地獄だった。


 ずっと見張られている生活。

 一応、あの軽薄な男に言われているらしく、私を監視している男達は私には手を出しはしない。


 不味いご飯が一日三回。

 入浴はシャワーのみ。


 布団に入っても、心配でほとんど寝られない。


 数日して、見張りの男から少しだけ情報を得られた。

 

 ☓☓☓☓商事の会長は既に亡くなっており、あいつが成り代わっていて、あの会社はあいつの支配下にあるそうだ。

 あいつはこれまでに非合法な事をする専門の会社の飼い犬をしていたらしいが、下剋上をして乗っ取った。


 その時の経営陣は軒並み殺さているらしい。


 あいつが指揮するのは、全国から集められた超能力者の集団らしく、これまで相当非道な事をしてきたそうだ。


 見張りもそんな彼らの末端の者らしい。


 ああ、どうしてこんな事になってしまったのだろう。


 斬来くんやみんなが恋しい。

 恋の鞘当てをして楽しいんでいたあの日常が恋しい。


 私は、このまま陽の当たらない所に沈み込んでいくのだろうか・・・






 誰か、助けて。

 

 斬来くん、助けて・・・会いたいよぉ・・・

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