第39話 いやはや、大変だったんだなぁ

「・・・一体、何が起こっているの?」

「わからん。だが、先輩が狙われたのは間違いなさそうだな。」


 部室での暁月の呟きに、俺は腕を組んでそう答え得る。


 結局、先輩はあの日の翌日から無断で学校を休み、今日で4日目だ。


 何度か連絡をしたがLINKは既読すらつかず、電話も応答しない。

 かすみさんに先輩の自宅を調べてもらい確認したが留守だった。

今、暁月たちにも情報共有している。


「結城の自宅内を確認したが、荒らされた形跡は無かった。自らの意思で行方を眩ませている可能性が高い。」

「・・・でも、それは結城先輩が望んで、というわけではないかもしれない、ですよね?」

「多分。」


 四之宮とかすみさんの会話。

 俺も同意見だ。


 先輩はいったい、何に巻き込まれたんだ?


「・・・で?零士、どうするん?」

「そうだねぇ。レージ?どうするの?」


 雪羅と夜夢に聞かれた。

 そんなもん、決まっている。


「なるようになるさ。」

「はぁ!?あんた何言ってんのよ!!」

「ちょ、ちょっと零士さん!?」


 暁月が激昂し、四之宮が狼狽する。

 だが、俺の意見は変わらん。


「あのなぁ、じゃあどうするってんだ?」

「どうって、探すとか・・・」

「先輩は祓魔師じゃねぇから霊力で追うこともできねぇじゃねぇか。」

「そ、そりゃそうだけど・・・」

「でも、なにか危険な事に巻き込まれてるんじゃ・・・」

「四之宮、だからってどうする?俺が転移に巻き込まれた時、お前は俺を探し出せたか?」

「・・・」

「あの時だってそうだ。結局、なにか情報がない限り進展しねぇんだ。」


 悔しそうな四之宮にそう言った時だった。


「だったら!無駄でも動けばいいじゃないの!!何よ!あんたがやらないなら私がやるわ!この薄情者!!」


 暁月がそう言って部室を出ていった。

 

「・・・零士さん、私もお姉ちゃんに付き合います。正直、ちょっとショックです・・・さようなら。」


 四之宮も後を追うように部屋を出る。


 二人の目には涙が浮かんでいた。


「・・・で、零士?」

「何言われようが変わんねぇよ。俺の意見はな。」

「あ、そ。なら、ウチは帰って夕飯作っとるわ。さっさと帰って来ぃえ。」

「そうだね〜。夜夢ちゃんも他の家事して待ってるね〜。かすみん、レージを頼むよ〜。」


 雪羅と夜夢も部屋を出る。

 

 ・・・さっすが。

 俺の事をよく分かってらっしゃる。


「で、主?」

「予定は変わんねぇさ。案内してくれる?」

「御意。」


 
















『みんなに心配させ、迷惑をかけたわね。ごめんなさい。』



 翌日の早朝。

 先輩からオカルト研究会のグループにLINKが来た。


 先輩からの弁明はこうだった。


 なんでも、昔母親と因縁があったなんらかの組織っぽい人達から勧誘されたらしい。

 それで、はじめは断っていたが、とある条件をだされて応じたそうだ。

 その条件とは、先輩の周囲の安全。


 つまるところは俺たちを人質の脅迫だ。


 先輩は、悩んだが、仕方がなく受け入れたらしい。


 連絡ができなかったのは、誰にも言わないように脅迫されていたからだ。


 で、自宅から少し離れたところにあるアパートに軟禁されていたらしい。


 特に乱暴などはされておらず、ちゃんと三食ついていたそうだ。


 組織の幹部とは顔合わせ済みで、これからの自分の人生に途方にくれていたところ、何故か監視がいなくなり、そしてその組織が無くなったのを知って、逃げてきたそうだ。


 いやはや、大変だったんだなぁ。

 うんうん。



 そして学校で。


「結城先輩!ご無事で何よりです!!」

「もう大丈夫なの!?」


 部室で先輩に駆け寄る暁月と四之宮。


 俺はそれを苦笑いして見ている。


 Pl!!


 音がしたので、そちらを見ると、かすみさんがテレビをつけていた。


『みなさんご覧下さい!!ビルが!!ビルが跡かたもなく崩れさっています!!なぜこのような事が起こったのでしょうか!?』


 ああ、これか。

 今朝からずっとこれだなぁ。

 テレビって同んなじのを何度もやるもんなぁ。


『昨夜、突然の崩壊音と共に崩れ去ったのが付近の防犯カメラの映像にありました!!現場は一流企業と言われる☓☓☓☓商事!現在、警察と消防による現場検証が行われておりますが、未だ瓦礫の撤去が終わらず、現在のところ死傷者の数はわかりません!!いえ、語弊がありました!!同企業の社長、〇〇〇〇さん及び経営陣と思われる方々の遺体は発見されております!!不思議な事に、これだけの事にも関わらず、生存者は100名を越えており、そのいずれも負傷無しという驚くべき状況にあります!!一体、何があったのでしょうか!?』


『警察の事情聴取を終えた生存者、☓☓☓☓商事の方ですが、インタビューに応じてくれました!一体、何があったのですか!?』


『・・・わからない。わからないんだ。気がついたら会社に残っていた者全員が外に出ていて、そして、いきなり会社のビルが崩れ落ちたんだ!!わけがわからないっ!!』


『時刻は21時を回っていたそうですね!?なぜ経営陣が全員いらっしゃったのでしょうか!?』


『・・・昨日、突然緊急で夜に幹部会議が開かれるって・・・主な幹部は最上階の会議室に・・・』


『あなた方はなぜその時間に!?』


『俺たち社員は残業があるから残っていただけで・・・いったい、何が・・・』


『ありがとうございました!!まだ、現場の混乱は収まっておらず・・・』



 ふ〜ん、経営陣だけ、ねぇ?

 そりゃ災難だったなぁ?


 Pi!!


 かすみさんがテレビを消した。



「だからね!?零士って酷いのよ!!結城先輩の事放っておこうってさぁ?」


 いや、そんな風に言ってねぇだろ。

 何盛ってるんだよ。


「そうです!結城先輩縁を切った方が良いんじゃ無いんですか?そうしましょう!」


 こらこら四之宮。

 可愛い顔して何黒い事言ってんの?


「ふふ・・・そう、でも、良いの。私は気にしてないから。そもそも、私は私の意思で、その人達について行ったのだもの。まぁ、結局その人達もいつの間にかいなくなって、軟禁されていたアパートから抜け出せたのだけど。いったい、誰が助けてくれたのかしらね?」


 そう言って、ちらりと俺を見る先輩。

 

 しかし、俺は知らんぷりだ。


 先輩はそんな俺を見て、くすりと笑った。

 そして、


「ああ、そうそう、それと、やっぱり女性の一人暮らしは危ないと思うの。だから・・・斬来くん、いいかしら?」

「・・・はい?」

 

 何が?


「私も、あなたの家に住まわせてくれる?」

「ほわっつ!?」

「はぁ!?」

「ふぇっ!?」

「・・・はぁ。」

「あ〜あ。」

「・・・フッ」


 なんでそうなるの!?


 暁月も、四之宮は俺と同じように驚いており、雪羅はため息をついて額に手を当てて、夜夢は苦笑し、かすみさんは少し微笑んでいた。


「いやいや!駄目だろそんなの!?」

「そうよ!言ってやりなさいよ零士!!」

「そうです零士さん!!ガツンと言って下さい!!」


 おお!

 勿論だ!!

 

 しかし、先輩はにっこり笑って俺に近寄り、


「お願い!!」

「!?」

「あ!?ちょっと!?」

「何やってるんですか!!!」


 いきなり抱きつかれた!?

 そして口を耳元に近づけ小声で呟いた。


「(ありがとう、また助けてくれたわね?残留思念、残ってたわよ?)」

「ひゅっ!?」


 うぇ!?

 まじかよ!!

 土壇場で新たな能力に目覚める主人公かっ!?


「(みんなに自慢して良いのかしら?目立ちたくない斬来くん?)」

「・・・あ〜、こほん!!やっぱり女性の一人暮らしは危ないよな〜!こんな事もあったし、俺の家で保護した方がいいかもしれん!うむ!そうしよう!!」

「ありがとう。」


 慌ててそう言ってごまかした。


「あんた、なに色仕掛けに負けてんのよこのバカ零士!!」

「そうです!!零士さんのバカ!!!!!いい加減離れて下さい!!!」

「ぐぇ!?」

「あら?」


 先輩から引き離され、暁月と四之宮にボコボコにされる。


 うう・・・だって仕方ないじゃないかぁ・・・


「零士のアホ。」

「ありゃりゃ。レージらしいね。」

「それでこそ我が主・・・」


 うるせぇ!!



****************

裏で何があったのかは閑話で。

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