閑話 舞とかすみ(2)
「『忍者』とか?」
ビクッ
かすみの身体が一瞬揺れる。
「うん、忍者だね。それが一番しっくり来る。私は物語にある忍者くらいしか知らないし、実際にいるかどうかまで分からないけど多分それだ。で、隠岐ちゃんは自分が警戒していた私が零ちゃんと共に暮らす事になったのを危険視した。で、見定めて場合によっては暗殺しようとした、どう?」
「・・・」
無言。
何も言えないかすみ。
「(・・・なんというヤツ。やはり私の勘は正しかった。桐谷は知力の化け物だ。ほとんど話した事の無かった私の内面、動きをほぼ正確に・・・それだけでなく、存在そのものが想像上のものであるという前提で忍びという事まで当てるとは・・・恐ろしい・・・)」
目眩がするかすみ。
同じ知を有する人間という生き物として、あまりに違い過ぎる。
「で、ここから先が知りたければ、私の問に答えて欲しい。」
完全に笑顔を消した舞。
雰囲気が更に変わる。
「あなたは、彼をどうしたい?」
舞の雰囲気に気圧されそうになる。
しかし、それでも、その問には答えねばならない。
「・・・助けたい。斬来の心は壊れている。私は、彼に仕え、その心を治したい。」
それだけは絶対に。
そこでようやく舞の雰囲気が少し柔らかくなった。
「・・・そう。なら話そう。私も彼を治したい。今現在、私は彼を治すために
「・・・それは?」
「私を抱いた後と抱く前で、彼には違いが出た。愛情は未だ分かってはいないものの、己の心の変質には気がつけるようになっている。おそらく、彼はあの二人を抱く前にはそれすらもまったく気がついていなかった筈だ。しかし、二人を抱いた事で違和感を覚え、それが私によって増幅された、といった感じかな。」
「それは、自分が女を愛する事が分からない、という事?」
「そう。その状況に違和感すら無かったものが、違和感を感じるようになった。そして、私との行為でそれが強化された。三人分の愛情を身体・・・いや、おそらく霊力や妖力、魔力を経由して彼の魂に直接的に作用しているのだろう。空いた
「・・・。」
「そこで貴方だ。貴方もまた彼を愛している。だから、協力して欲しい。あの二人は私が説得する。後で個別に説明すれば分かってくれる筈だ。あの二人も共に頑張っているのだから。我々に共通するのは一つだ。”彼の心を癒やして幸せになって欲しい”、違う?」
「・・・そうだ。」
「知っているかい?彼は、寝ている時でもいつでも警戒を解かない。心を許している私達がいるこの家の中でさえ、だ。彼の心の奥底には、【傷つけるもの全てから己を守る】というのがあるのだろう。その傷の中には、物理的に自分を傷つけるもの、そして私達のように己が心を許している者が害される事によって自分の心が傷つくというのもあると私は考えてる。何故かわかる?」
「・・・幼少期の父親からの虐待、母親との死別、暁月や九重との別れ。」
「正解だ。そしてそれは彼の強さの原因でもある。」
父親からの虐待
母親との死別
心の支えだった真奈の転居
親しくなれた雪羅親子との別れ
幼少期に零士が自らの魂を変質させてでも己の心を守ろうとした結果。
それが零士の強さの秘密だった。
すなわち、
”強くならなければみんないなくなる”
零士は自分の状況をそう置き換えて強さを得たのだ。
「・・・分かった。私も協力する。」
かすみはしっかりと舞の目を見てそう宣言した。
そこに気後れするものはない。
舞も零士を助ける為に必死だと気がついたのだから。
「・・・ありがと隠岐ちゃん。がんばろ?雪羅ちゃんや夜夢ちゃんだって同じなんだから。」
そこでいつものふんわりした雰囲気に変わる舞。
お互いに笑みを見せる。
「どうすればいい?」
「うん、まずは隠岐ちゃん!今夜零ちゃんを夜這いしよう!!」
「・・・は?」
先程までのシリアスな空気をぶち壊すようにいう舞に唖然とするかすみ。
「根拠はあるんだよ?きちんと隠岐ちゃんの愛を零ちゃんに伝えて、その上で証明する為に抱かれる。これで零ちゃんの心にきちんと伝わる筈だから。あ、忍者って霊力みたいなのって無いの?」
「・・・気力、と呼ばれる物はある。」
「じゃ、それをしっかりとその時に渡してあげて?それで零ちゃんの様子が変わったら私の仮説が正しいって事になるし。あ、でも本心を言って抱かれるかどうかは隠岐ちゃんに任せるよ。もし隠岐ちゃんが必要だって感じたらで良いよ?」
「・・・分かった。」
「じゃ、これからよろしく!」
「よろしく、桐谷。」
笑顔で握手する二人。
この後、居間に戻り零士と雪羅と夜夢から許可を貰い、かすみはこの家の家族になったのであった。
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