閑話 舞とかすみ(1)

「さて、隠岐ちゃん?しっかりとお話するのは初めてだよね〜?」

「・・・。」

「だって隠岐ちゃん、私の事避けてたし?」

「・・・気がついていたか。」


 時間は舞とかすみが二人で話し合う所まで遡る。

 

 舞の部屋に入室してすぐに舞はそう切り出した。

 普段は緊張した様子など微塵も見せないかすみは、普段とは違い体が固くなっている事に気がつく。

 もっとも、見た目にはまるで変わりは無いが。


「(私が緊張してる?物理的には負けはしない。だけどこの圧力は何?)」

「そんなに緊張しなくても良いよ〜?だって、戦ったら私すぐに殺されちゃうしね〜?」

「(読まれた!?異能!?いや、異能が発動したような気配は感じない!私の雰囲気で読み取られた!?しかし、それほど深くこの化け物と接した事はない筈!とするとただの勘!?)」

「違うよ〜?」

「!?」

「隠岐ちゃんの思考を読み切ってるだけ〜。」

「(馬鹿な!?それほど話をした事は無い筈だ!!なぜ!?)」


 驚愕しているかすみを笑顔で見る舞。

 しかし、その目は・・・


「隠岐ちゃん?隠岐ちゃん目立ちたく無いんだよね〜?だってあからさまに気配を消してるし?私が在学中でもほとんど学内で見かけなかったし、それに誰も違和感を覚えなかったよ?でもねぇ?なんでそうしたいのか、なんでそうしなければいけないのか、なんでそんな事ができるのか、それを考えていけば、力そのものは理解できなくても、その思考パターンは読み取れるよ〜?」

「っ!!」


 まるで笑っていない。 

 いや、目尻は笑顔をかたどっている。

 しかし、その奥にある目はまるで別だった。


 ”かすみの身体を透かしてその奥を見定めようとしている”


 かすみはそう感じた。


「あっはっは。私を見定めようとしたんでしょ〜?零ちゃんのために。もし害意があるなら、事故を装って排除しようとしたのかな〜?でもねぇ?私は零ちゃんにそんな事絶対にしないよ〜?だって私は零ちゃんを愛しているからね〜。」

「(っ!!全て読み取られた!!危険だ!やはりこの化け物は危険!!しかし、これで楔を打たれた!もし私が排除に動いたら、おそらく斬来にバレる。この女は多分

すでになんらかの方法を確立している!!)」

「せいか〜い。流石は隠岐ちゃん!すごいねぇ!!」

 

 舞の言葉に冷や汗が止まらないかすみ。


「・・・何が凄い、だ。桐谷、お前何手先まで読んでいる?」

「う〜ん・・・どうだろうねぇ?それなりには分かってるつもりだけど、答え合わせして良い?」


 舞の言葉に、かすみは頷きを返す。


「まず、今の状況からかな。零ちゃんの為に脅威の排除をしようとした所から考えると、隠岐ちゃんは零ちゃんを憎からず思っているんだね・・・もっと正しく言うと隠岐ちゃんは零ちゃんに惚れている、だね。何があったかまでは分からないけど・・・そうだなぁ、物理的な排除を考えていたところから考えると、多分隠岐ちゃんはすっごく強い。にも関わらず零ちゃんと戦って負けたから、かな?それも惨敗。で、負けた事にショックを受けた。」


 少し舞の雰囲気が変わる。

 ふんわりした雰囲気は消え、透徹したような表情となり、その状況にかすみはさらに気圧される。


 里一番の天才である忍びであるかすみは、当然様々な訓練、その中でも心の訓練もなされていたが、それでも動揺に心が揺さぶられる。


「でもそのショックには好悪両方があった。負けて傷ついたプライド、そして、己を凌駕する男に対する憧憬。ぐちゃぐちゃになった心は零ちゃんを見定めようとした。」

「・・・」


「普段の零ちゃんは自堕落。でも、本当は誰も彼も助けようとするお人好し。だからそこで見た筈。零ちゃんがいろんな人を陰ながら手助けしたところを。」


「零ちゃんはそういうところを人に見せたがらない。にも関わらず隠岐ちゃんは見ている。そこからそういうのが得意な人というのが分かる。となると、探偵?諜報員?でも、零ちゃんに挑もうとするくらいだから普通じゃないと思う。教員ができる位に人間の社会体制にも熟知しているところや雪羅ちゃんや夜夢ちゃんを同好会を通じてようやく受け入れてたところから考えるとあやかしなんかでもない。そうすると・・・例えば超能力者とか。でもあんまりぴったりこないね。もしそうなら結城ちゃんにもっと早く接触しているだろうし。隠れるのに特化する超能力ってのもあんまりよくわかんないしね。その上で隠岐ちゃんのあり方から考えると暗殺なんかもできる・・・」

 

 ごくり、と音がなる。

 知らず知らずのうちに唾を飲み込み喉を鳴らしていたかすみ。

 冷や汗が止まらない。


「『忍者』とか?」


 ビクッ


 かすみの身体が一瞬揺れる。

 

 そして驚愕の表情をその顔に貼り付けた。

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