第33話 なんで・・・俺は・・・

「つーわけで、住人が増えました。カンパーイ!」

「「「「乾杯」」」」


 無事俺の家に着き、舞さんと隠岐先生の歓迎会をする。

 

 雪羅がいつもより少し豪勢にしてくれたようだ。

 

 グラスをグイッと煽る。

 ってこれ、大人のシュワシュワじゃねぇか!!


 舞さんや隠岐せんせはともかく、雪羅と夜夢もグビグビと飲んでいる。

 ・・・ま、いっか。

 目くじらたてる程でもねぇし。


 俺も異世界で散々飲んだしな。


 まぁ、向こうのはシュワシュワしなかったけど。

 

 今の隠岐せんせはいつもの陰気な感じじゃない。


 きちんと髪をくくって束ね、綺麗な素顔も見せているし、何より・・・


「何、斬来?じっと見て。」

「・・・なんでもねぇっす。」


 うん、パイオツカイデー。

 いや、どうやってこんなん隠してたの?

 サラシしても無理でしょこれ。

 ナイナイ詐欺だわ。


 だが、盛っていないと断言できる。

 なにせ、ゆったりする為かYシャツの上2つのボタンを外しているからな。

 深い谷間がこれでもかってくらい見えている。


 前に隠岐せんせと戦った時にも服がボロボロになってたから、ある程度誤魔化してるんだろうなと思ってはいたが、当時は特に興味も無かったし、周囲も暗かったし、顔しか見てなかったんだよなぁ。

 

 まさか、これほどのブツを隠し持ってたなんてな。

 流石は忍び。

 しっかりと忍ばせてたわ。


 顔はあの時しっかりと見たから、綺麗なのは知ってはいたが・・・明るいところで見ると、まぁ美人さんだこと。


「・・・駄肉が増えた。駄肉が・・・おのれ・・・」


 雪羅が酔っ払ってんのか、そんな隠岐せんせの胸を睨みながらブツブツと言っているのが怖い。

 

 そんな雪羅を見て、舞さんと夜夢がケラケラと笑っている。

 俺はそんなんようせんわ。


 多分、凍らされるし。


 つーかさー、雪羅もそんなに気にする必要ねぇってのになぁ?

 俺は別にそんなんで女を判断しねぇってのに。

 

 胸が小さかろうが、雪羅にはきちんと女としての魅力があると思っている。


 美人だし、家事もばっちりだし、いつも俺の事を気にかけてくれてもいる。

 嫉妬する事もあるし、とばっちりを食らう事もあるが、それでもそんなもん、欠点ではなく可愛いもんだ。


 夜夢だってそうだ。

 

 スタイルが良いってのはたしかに長所だが、それが全てじゃねぇ。

 夜夢の明るさにはこっちも元気を貰っているし、あいつの構ってはなんだかんだで受け入れちまうしな。


 こいつらの事を考えると、なんだか胸が暖かくなる。

 

 らしくねぇとは思うが、今では無くてはならねぇもんだと思っている。


 ま、それに関しちゃ舞さんだってそうだがな。

 暁月や四之宮、それに多分先輩だってそうだし。


 舞さんには散々世話になったし、純粋に好きだって言われりゃ嬉しいもんだ。

 暁月はガキの頃に助けられたし、まっすぐさは好ましい。

 四之宮だって、苦楽を共にした仲だしな。

 

 先輩だってそうだ。

 俺も逃げ回ったが、それに懲りず絡んできてくれたのはなんだか嬉しい気もする。

 

 隠岐せんせの事はまだよくわからねぇ。

 それでも、初めて相対した時のあの雰囲気、全てが敵だという感じ、あれは里を抜けてから追手に気が休まらず、いつ命を失うかに怯えていた事への裏返しじゃねぇんだろうか?


 なら、助けてやりたい。


 俺にできることならなんとかしてやりたい。


 俺の価値なんてそんなもんだ。

 ただ強いだけでしかねぇ。

 

 なら、自分の傘の下にいる奴らをしっかりと守る、それが俺の仕事だろう。


「・・・き、おい、斬来、大丈夫?」


 っと、いけねぇいけねぇ。

 ふわっと来てたわ今。

 久しぶりに体に入れたからか、回るのはえぇな。


 らしくもねぇ事考えちまってたな。


 気がついたら、みんな飯を食い終えていたようだ。


「いやわりぃわりぃ。大丈夫っすよ。さぁて、風呂入って寝るかね。」


 俺は風呂に行き、そして何故か今日は誰も来なかったので気を抜いてベッドに横になった。



















 ・・・ん?

 誰だ?


 夜中に誰かが部屋に入ってきた気配で目が覚める。

 

「起きたのか。」

「隠岐せんせ?」


 どうやら隠岐せんせのようだ。

 また、俺の命を狙いに来たのか?

 そういやそんな事言ってたな。


「残念すけど、俺、気配には敏感なんすよ。」

「・・・そう、か。」


 何故か、俺がそういうと、隠岐せんせは顔を歪めた。

 まぁ、そりゃそうだな。

 せんせにしてみれば、奇襲が失敗したようなもんだし。


「斬来。」

「なんすか?」

「そっちに行く。」

「?良いすよ?」


 失敗したなら戻れば良いのに。


 そして、隠岐せんせが寝転がっている俺の眼の前まで来る。


「斬来・・・痛ましい。」

「え?」


 何が?

 つーかなんでそんな悲しそうな顔してんの?

 失敗したからか?


「お前・・・いや、何も言うまい。斬来、私をお前に仕えさせて欲しい。」

「はぁ?」


 なんで?


「本当は、こんなに簡単に言わないつもりだった。でも、九重も、八田も、桐谷も・・・よく耐えている。これほど悲しくなるとは・・・桐谷の言った通りだ。」

「どういう・・・」


 よくわからん・・・が、せんせの悲しそうな、今にも泣きそうな表情を見ると何故か胸が痛くなる。

 なんで・・・俺は・・・


「お前は・・・救われねばならない。父親から、異世界から、そして戦いの傷から。」


 ドクンッと音が鳴る。

 意味はわからない。

 だが、何故か苦しくなる。


「斬来、何も考えなくて良い。私もまた、手助けする。この契りを持って我が身、我が心を貴方に。」

「隠岐・・・せんせ・・・」

「かすみ、これから家ではそう呼んで欲しい。これより私もまた、貴方の家族であり貴方の忍び。主よこの身を捧げる。だから、気を休めて欲しい。」


 隠岐せんせに抱きしめられ、顔が胸に包まれる。

 そして・・・わけもわからず流れる涙をそのままに俺は・・・




****************

後は閑話を挟んで三章終了です。

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