第25話 難聴系主人公を気取っても駄目だっつの!!

「うん、美味しいねぇ。紅茶淹れるの上手なんだね?」

「・・・」


 何食わぬ顔して居間で雪羅が淹れた紅茶を笑顔で飲む舞さんと、ムスッとしている雪羅。

 そして訝しげな顔をしている夜夢。

 困惑する俺。


 いや、するだろ?

 なんで俺の世帯に舞さんが入ってるの?


「あの、舞さん、ちょっといいすか?」

「ん?なぁに零ちゃん?引っ越し荷物ならもうすぐ来ると思うよ?」

「い、いや、そうじゃないんすよ。なんで家に住むことになってんの?」

「え?なんだって?」

「いやいやいや。」


 難聴系主人公を気取っても駄目だっつの!!


「う〜ん、そうだな〜、いくつか理由はあるんだけど・・・ど〜しよっかな〜?」

「いや、ちゃんと言ってくださいよ。一応、ここ俺の家なんで。」


 じゃねぇと雪羅と夜夢が爆発しそうだし、俺だって困る!


 ・・・いや、秘密がバレた今、そこまで困ることはねぇんだけど、それでも一応理由は知りたい。


「・・・そうだねぇ、いくつかある理由の内、一番大事な事以外なら教えてあげられるかなぁ〜?」

「・・・一番大事な事を教えて欲しいんですけど。」

「そうだねぇ・・・九重ちゃんと八田ちゃんには教えてあげられるかなぁ〜?」

「雪羅と夜夢に・・・?」


 どういうこった?


「まぁまぁ良いじゃない。ここに来た理由は単純だよ?まずは私が零ちゃんと一緒に居たい。」


 まぁ、そりゃ舞さんはそうだろうな。

 超絶ブラコンだし。

 姉弟じゃねーけど。


「で、続いて私の仕事にプラスになりそうだったから。」


 仕事にプラス・・・?


「九重ちゃんと八田ちゃんは高位の妖魔でしょ〜?色々意見なんかも聞けるかな〜って。」


 ふむ・・・たしかにな。

 霊具師としては、【大妖】レベルの二人の意見は確かに参考になるだろう。

 納得の理由だ。


「それとお母さんのため。」

「理恵子さんの?」


 どういう意味だ?


「お母さんって今、再婚を考えてるらしいの〜。で、お付き合いしている人がいるっぽいのよねぇ。」


 ああ、なるほど。

 理恵子さんは旦那さんを早くに亡くしている。

 元々霊具店は理恵子さんが経営しているから問題はなかったみたいだが、優秀な霊具師である親父さんが亡くなって、途方に暮れていたところを舞さんが霊具師になって経営を救ったって聞いている。


「だから私がいない方がむしろ先に進みやすいかなってね〜。」

「・・・なるほど。」


 そうだったのか。

 ならむしろ納得だな。

 舞さんは結構家族想いで優しいからな。

 それに理恵子さんの為にもなるなら、協力するのもやぶさかではない。


「後は〜、ちょっと二人だけに話するから、零ちゃんはこれをつけててね〜?」

「ん?」


 ヘッドホン?

 おお!?

 全然周りの音が聞こえねぇ!?

 すげぇなコレ!!

 舞さんの発明品か!?

 流石だぜ!!


 にしても、何話してんのかねぇ?

 俺には口をパクパクさせているようにしか聞こえねぇんだけど。

 後で、雪羅と夜夢、俺に教えてくんねぇかな?


 ん?

 舞さんが俺の後ろを指さしてる。

 後ろ向いてろってことか?


 やれやれ。




side雪羅。


「で?どういう理由なん?」


 零士が後ろを向いてから目の前の女に問いかける。

 この女は異常だ。

 霊具師とはいえ、霊力を操る以上、ウチと夜夢の力には気がついている。

 にも関わらず、平然としている。

 ウチたちのほんの気まぐれで殺されるかもしれないのに。


「・・・ん。まぁ簡単だよ。零ちゃんを治したいから。」

「「っ!!」」


 この女・・・零士を治すやて?

 

「・・・ねぇ、ちょっと貴方、レージの従姉妹だからってあんまり変な事言わないでよ。殺したくなるから。」


 夜夢がキレそうだ。

 身体から殺気が放たれている。

 まぁ、ウチも同じだ。


 零士がピクッと動く。

 止めようとしているのだろう。


 大丈夫や。

 まだ実行せぇへん。


 ちゅうか、ホンマに動いたら、強制的に零士に止められるやろう。

 せやから、そんな零士の肩をポンと叩く。

 夜夢も同じようにした。


 おそらく、ウチと同じ事を考えているのやろ。

 

 安心せぇ。

 あんたの大事な従姉妹には手ぇ出さへんから。


 零士の肩から力が抜ける。

 


 それでも、軽々しく治すなんてことを言って欲しくはない。

 ウチも夜夢も、頑張ってきたつもりだから。


 せやけど、零士は一向に治らない。

 その心は平坦なままや。


「別に変な事を言ってるつもりは無い。」


 ん?

 女の雰囲気が変わった。

 えらい雰囲気あるやん。

 こっちが素か。

 

「なら、どういう意味なん?」

「彼は幼少期とその生い立ち、家族に恵まれなかったせいで愛情、特に男女の愛について理解できなくなっている。」


 そうやね。


「だが、貴方達二人を受け入れている。それどころか身体までも。」

「「・・・」」

「しかし、それは貴方がたの”食事”の手伝いと、あなた達への友情に近い親愛によってなされているだけだ。」

「「!!」」


 ・・・痛いところをつく。

 ウチと夜夢はどちらも精気を貰い力を増す。

 しかしそれだけやない。

 定期的に取らねば、存在する力も弱くなる。

 通常の栄養の接種などでは代用はできない。


「だから男女の愛としての営みだと思っていない。少なくとも彼は。」

「「・・・」」


 ぐうの音もでない。

 この女の言う通りやから。


 視界が歪む。

 悔しい、そして悲しい。

 夜夢も鼻を啜っている。


 すでに殺気などない。

 ウチも夜夢も彼を狂おしいほど愛しているのに。


 零士はそれを理解できない。


 大事には思ってくれているんはわかる。

 それでも・・・こんなに悲しいことはない。


「それをあんたは治せる、言うんか?」

「いや、簡単な事ではない。だが、いくつか構想はしている。その為には私だけでは無理だ。だから、協力して欲しい。」

「・・・協力?」


 どういう意味?


「彼を治すのには一人では無理だ。そして、私がここの所考えているのは貴方がここに来た意味。」

 

 そう言って夜夢を見る。


 夜夢が?

 夜夢も首を傾げている。


「女神がどういう存在なのかは知らないが、わざわざ貴方をこちらに送った事、そこに治すヒントが隠されていると私は思っている。」

「・・・サキュバスの能力が必要って事?」

「いや、サキュバスの能力なのか、貴方の能力なのかはまだわからない。だからそれを見極める為にも、ここに住まわせて欲しい。」

「「・・・」」


 真剣にこちらを見る・・・桐谷舞。

 

「安心して欲しい。貴方がたが彼にどう接しようと私は止めない。まぁ、私も相応に接しさせて貰うが。気に入らないのはわかる。だが考えてくれ。大事な事はたった一つだ。【斬来零士を幸せにしたい】そうだろう?」


 ・・・そうや。

 零士は男女愛を知らん。

 結果として、本当の家族の愛も知らん。


 親が子を、妻を愛する、そんな単純な事が理解できひん。

 ウチら人外でも理解できたのに。

 

 それはとても不幸な事だろう。


 ウチも零士を愛して分かった。

 一緒にいることがこれほど幸せな気持ちになれるという事が。


 だから、零士にも感じて欲しい。

 

 ウチが頷く。

 視界に、夜夢が同じ様に頷くのが見える。


「ならば協力すべきだ。幸い、私は戦えない分考える力は誰にも負けないと自負している。共に彼を幸せにしようじゃないか。」


 ・・・ふぅ、仕方ない。

 残念だが、この女は優秀や。


 それもずば抜けて。


 認めざるをえん。

 なら、こちらも利用しよう。

 零士のためにも。


「分かった。」

「夜夢も。」

「そうか!・・・なら、これからは雪羅ちゃんと夜夢ちゃんって呼ぶねぇ〜?私も舞って呼んでねぇ〜。よろしくぅ!」


 さっきまでの冷たい雰囲気が消え、にっこりと笑いそう言った。


 ・・・本当に掴みどころがない女やな、舞は。

 だが、舞の零士への気持ちは本物や。

 そこは信用できる。

 これで少しでも前進すればええ。

 零士の為にも。


「よろしく、舞。」

「よろしくねぇ舞っち。」


 三人で握手をする。

 そして零士の肩を叩いた。






side零士


 ん?

 肩を叩かれた?


 さっき叩かれた感じと違うな。

 もうふり向いて良いってことか?


 最初殺気とか出してたからちょっと警戒してたんだが、無事に話がついて良かったぜ。


 あ、もうヘッドホン外して良いの?


「二人も納得してくれたよ〜。」

「「(こくり)」」


 マジかよ!?

 よくこの二人が納得したな!?


「ふたりともどんな話ししたんだよ!?」

「別に、舞は普通の事を言っただけ。」

「舞っちと協力するだけ〜。」

「舞!?舞っち!?協力ってなんのこと!?」


 呼び捨て!?

 この二人が!?

 いったい何を話したんだ!?


「ってことで零ちゃん、今日からよろしくぅ〜!」

「どうやったの舞さん!?なんでそうなったの!?」

「え?なんだって?」

「いや、雑ぅ!!」


 どうなってんだ〜〜〜!?

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