第3章 思っていたより忙しい

第24話 来ちゃった♡てへ♡

 はてさて、ひと悶着あったものの、正式に同好会がスタートする。

 まぁ、ぶっちゃけ面倒だとは思いはするが、なんとかなるだろ。


 それに【普通】!

 うむ!【普通】は素晴らしい!!

 

 これでようやく俺の【普通】人生が始められる!!

 いや〜、楽しみだな!!














 と思っていたのだが・・・


「来ちゃった♡てへ♡」

「いや、なんで!?」

「「・・・」」


 俺は玄関前に立っている舞さんを見て首を傾げる。

 雪羅と夜夢は無表情だ。

 ・・・いや、苛々してんな。

 妖気と魔力が漏れてる。


 なんでこうなった?

 今日は土曜日。

 俺は、同好会が決まった日からの事を思い返す・・・







 来週から同好会を始めるために、場所の掃除や改装をしていたりして、それなりに忙しくはしていた。

 面倒なりに、なんとなく秘密基地を作っているような楽しさもあり、暁月も四之宮も雪羅も夜夢も、心なしか隠岐せんせまでも楽しそうに見えた。


 瞬間湯沸かし器やらポータブル掃除機、携帯充電用にコンセントの延長コードやらも入れて、のんびり過ごせる空間。

 うむうむ!

 素晴らしい!

 なんならソファとかも入れたい!

 そして、暇つぶしに横になるのだ!


 異世界に行った時に手に入れたアイテムストレージがあれば、持ち込みは余裕だろう。


 金?

 金なんざ余裕である!

 なにせ、俺はそこそこの小金持ち。

 難しい依頼の報酬は高額だからな。

 

 暁月だって仕事で得た金があるし、予算は潤沢だ。


 まぁ、ソファを入れたら、流石に学校にバレると面倒・・・いや、待て。

 

 ここは隠岐せんせの結界内だ。

 まず、他の生徒や教員はこないだろ。

 人払いやらなんやらも組み込んであるらしいし、防音だってあるだろうから、多少騒いでも気が付かれない。


 お?

 いけるんじゃね?

 これ、買っちゃう?

 買っちゃう?


 そう思った俺は、みんなにそれを話し、了承を得た上で、いそいそと家具店に向かう。

 今日は金曜で平日の授業後。

 雪羅と夜夢は先に帰し、家のあれこれをして貰い、暁月と四之宮は部室・・・同好会でも部室というのだろうか?ま、いっか。

 部室の改装。

 先輩は生徒会。

 そうそういつも居られないらしい。

 で、俺だけ家具店へ。



 っと、思っていたが、


「なんでいるの、隠岐せんせ?」

「・・・別に。一応同好会の顧問だから。課外活動という名目。」

「あ、そう。」

 

 ふ〜ん?

 せんせったら、なんだかんだで乗り気じゃん?

 

 もしかして、友達いなくて寂しかったん?

 それとも寂しい青春送ってたから、その補充?

 可愛いところあんじゃ、あぶね!?


 いきなり隣にいる隠岐せんせから苦無が飛んできた。

 まっすぐ顔に飛んでくるそれを躱しざまに掴み、そのまま懐に入れる。


「あぶねぇじゃん!」

「なんかイラッとした。変な事考えてる顔だ。」


 大当たり!


 ま、いいや。

 隠岐せんせだって、普通になりたかったんだろ、多分。

 じゃなきゃ里を抜けたりしねぇだろうし。

 お仲間ってこったな。


 その後は、家具店でソファを見る。


 ・・・うむ!

 素晴らしい座り心地!

 そして寝心地である!

 お値段は・・・おお、少々お高いが、まぁ問題ない。


「これで良いかねぇ?」

「まだ試していないことがある。斬来、ちょっと横になって。」

「こうか?・・・おい?何してる?」


 俺がソファに寝転ぶと、隠岐せんせが何故か俺の上に寝そべってきた。


「・・・うん、二人寝そべっても大丈夫。ちょっと動く・・・よし、十分耐えられる。」

「いや、その必要ある?」


 何故か反動をつけて動く隠岐せんせ。

 ぎしぎしとソファが揺れる。


 ていうか店員が戸惑ってるけど?


「ある。何かあった時、すぐさま横になれる必要がある。」

「例えば?」

「・・・治療、とか?」


 いや、なんで疑問形なんだよ?

 

「万が一があった時。」


 万が一・・・そ、そうか!

 昔の仲間が襲撃してきた時のためか!


 たしかに、せんせのお仲間ってのは同じ忍者だもんな。

 暁月や四之宮に手傷を負わす可能性だってあるか。


 先輩なんて、戦闘能力あってないようなものだろうし。

 なるほどなぁ。


「そうか、流石はせんせだな!」

「・・・そう?」

「おう!」


 俺がそう言って親指を立てると、隠岐せんせは満足そうに頷いた。


「・・・任せる。万が一、起こして見せる。」

「いや、なんで!?」


 なんでわざわざ起こすんだよ!?

 しかし、隠岐せんせは首を傾げた。


「?万が一性行為、でしょ?」

万が一傷病者が出た時だ!」


 やはり小首を傾げたままだ。


 一体、何を想定してるんだ!?









 ソファは俺の家に届くように配送を依頼した。

 流石に、今から持って帰るとは言えん。

 余裕でできるけど、怪しまれちまうし。


 一応、余分に金を積んで、今週の日曜に届くことになった。


 隠岐せんせと別れ、俺は自宅に帰る。

 暁月と四之宮も掃除が終われば帰るように言ってあるし。


 いよいよ来週からのんびりできるってもんだ!


 昼も放課後も入り浸ってやるぜ!

 流石に毎放課は厳しいから、それまでは変わらず逃げ回るしかねぇけど。

 にしてもいったい、いつ落ち着くんかねぇ?




 そして、翌日。

 

 ピンポ〜ン♬


 チャイムの音がする。

 まだ、朝食食べ終わったばっかだぞ?


 こんな朝早くに非常識だな。

 

 雪羅は洗い物、夜夢は洗濯物を干している。


「俺が出る!は〜い!」


 そして、玄関に向かうと、そこには


「あれ?舞さんどうしたの?」


 舞さんがいつものニコニコ笑顔で立っていた。


 そう言えば、週末に時間欲しいって言ってたな。


 そうこうしている間に、雪羅と夜夢も気になったのか玄関に来た。

 舞さんは笑顔のまま、無言で俺に紙切れと封筒を渡してきた。


 なんだ?


『零くん?ごめんなさい。私には止められませんでした。これから舞をよろしくね?襲われないようにくれぐれも気をつけて。理恵子』


「は?」


 そして、もう一通の封筒を開けると、そこには・・・住民票が。

 それを見る。


「は?」


 思わずもう一度声が漏れる。

 だって、そこには・・・


 世帯主 斬来 零士

     

     九重 雪羅

     八田 夜夢

     桐谷 舞


とある。


 俺はそれを読み終え、顔を上げる。


 舞さんは満面の笑顔だ。


「来ちゃった♡てへ♡」


 来ちゃったって・・・引越して来ちゃったって事かよ!?

 住民票、どうやったんだ!?

 俺、何もサインしてないんだけど!?

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