第16話 考えてやらなくもないんだからねっ!!

「あなたと彼の関係は勿論知っています。ですが、それは私には関係ありませんよね?それにそこまでの強制力は持ち得ない筈ですよ?」

「それはあなたの主観でしょう?ウチに取っては十分あります。」

「それこそ九重さんの主観よね?」

「「・・・」」


 気まずい。

 というか、この空気なんとかなんねぇかな?

 

 いや、違うか。


「雪・・・九重さん。俺、ちょっと先輩の仕事手伝うわ。」


 まぁ、手伝う気にはなってたからな。

 雪羅が気を使って俺を守ってくれようとしたんだろ。

 あんまり気にしなくても良いぞ?


「・・・ッチ!」


 ・・・あれ?

 こいつ今舌打ちした?

 なんで?


「・・ならええ。寄り道せんとはよ帰って来ぃや。」


 雪羅はムスっとしたまま、後半を耳元で離してその場を離れた。

 そんな雪羅の姿に、周りは呆然としている。


「・・・男嫌いの氷姫が・・・」

「あんな・・・あんな耳打ちを・・・?」


 あ、そっち?


「・・・色々思うところはあるけれど、斬来くんありがとう。じゃ、行きましょう?」

「へいへい。」


 俺は呆然としている周りを放置し、先輩と一緒に教室を後にした。








「で?なにすれば良いんすか?」

「あら?人がいないところでは親しげなのね?」

「ま、そっすね。少なくとも、俺は友達だと思ってますんで。手助け出来る事くらいならしますよ。」

「・・・そう。」

 

 心なしか嬉しそうにも残念なようにも見える複雑な表情をして先輩は進む。

 それにしても、本当に何するんだ?


 やって来たのは、生徒会室。

 中には誰もいない。


「いや、本当に何をさせようってんです?」

「なんだと思う?」


 にっこり笑ってそういう先輩。


「帰りますよ?」

「ごめんごめん。これよ。」


 俺は先輩に渡された書類に目を通す。


「・・・生徒会長補佐制度の申請書?なんですこれ?」


 俺の言葉に先輩は表情を真剣にした。


「あのね・・・生徒会長って結構色々仕事があるのよ。で、あなたにはそれを補佐する仕事をして欲しいの。」


 ええ?

 めんどい。

 やりたくない。


「お断わりしま」

「ちなみに断ったら、私はあなたの勧誘に毎放課教室へ赴く所存よ。泣きついたり、色仕掛けも辞さないわ。勿論公衆の面前でね。」

「・・・」


 まじか。

 どんな脅しだまったく!

 そんなもんでこの俺がどうこうなるとでも?

 見くびらないで欲しいもんだぜ!


 そんな面倒な事をされるなら、考えてやらなくもないんだからねっ!!


「勿論、いつでもじゃないわ。私が本当に手が足りない時なんかだけで良いの。一応あなたにもメリットが何点かあるわ。」


 先輩の提示するメリット。

 それは

・ 教師への評価向上

・ これを理由に、教師なんかやクラスの煩わしい手伝いなんかを断る口実になりえる。

・ 食事を生徒会室で取れる。

というものだった。


 まあ、一点目はどうでも良い。

 そこまで評価を高めようとも思っていないしな。

 二点目もまぁ、惹かれなくもない。

 文化祭や体育祭で面倒な役職につかなくても良さそうだし。

 そして三点目。

 実はこれが一番魅力的だ。

 ここなら、誰かが押しかけてきたりしないし、落ち着いて飯が食える。


「・・・本当に困った時、だけで良いんすよね?」

「ええ。それで構わないわ。」

「なら、良いすよ。俺以外にもいるんですか?」

「いえ、試験的なものだから、あなただけよ。」

「了解っす。」


 しめしめ。

 なら、ここが取り合いになるって事もあるめぇ。


 やったぜ!!







side琥珀


 なんて思っているのでしょうね、おそらくは。

 

「じゃ、帰ります!遅いと雪羅がうるさそうなんで!」


 と言って生徒会室から出ていった彼を尻目に私はほくそ笑む。


 私がした提案には実は四点目のメリットがある。

 主に私の、ね。


 それは彼と二人で食事を取れる可能性が高まるって事。


 彼が目立ちたくないのは分かっている。

 でも、ライバルは強力。


 もう、九重さんも八田さんも、暁月さんや四之宮さんだって積極的になっている。

 だからこそ、彼は余計に逃げ回ろうとしている。


 そこで私の提案。

 

 人目の付かないここでの食事。

 色々騒がしくなって困っている彼なら、飛びつくに決まっているじゃない。


 そして、私もそこに便乗して一緒に食事も出来る。

 ライバルもここには勝手に入って来ない。

 

 まさに一石三鳥。


 先生方には既に根回しは済んでおり、本人の了承が得られ次第開始しても良いと言われているしね。

 そのために今日、昼や放課に彼のところに行かずに根回しに尽力していたのだから。


 うふふ。

 絶対に負けないわよ。


 どうせ彼はこの件を帰宅後に九重さん達に話すに決まってる。

 してやられたって顔が拝めないのは残念ね。


 九重さん?

 肉体関係があったとしても、それで決着とはいかないわよ?

 特に、彼の場合は。


 私は、私の武器で戦うわ。


 そして、彼を仕留めて見せる。


 九重さん、暁月さん、四之宮さん、八田さんはとても魅力的な女の子達。

 私は自分の容姿が優れている自覚はあるけれど、あの子達に勝っているとまでは思っていない。

 負けているとは思わないけれど。


 それでも、やりようはあるし、やりあえる自信もある。


 ・・・心配なのは、先輩・・・桐谷先輩ね。

 一体どんな手を打ってくるのかわからない。

 

 あの人は天才よ。

 能ある鷹は爪を隠すを地で行く人だもの。

 私が唯一といっていい尊敬をしてきた人。

 それでも、





 あの人ほど怖い人を私は知らない。





 それは、いくら九重さんや八田さん、暁月さんや四之宮さんが物理で強くても同じ。

 あの人の怖さはそんなところに無い。


 それほどの天才であり、自分の考えを実行できる人なの。

 

 ”いつの間にかみんなが納得して、あの人の計画通りに事が進んでいる”


 何度そんな事があったかわからない。


 でも、負けられない。

 絶対に彼を手に入れてみせる!

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