閑話 乙女心 桐谷 舞の場合

 はぁ、だから私は反対だったんだよねぇ。

 零ちゃんは魅力たっぷりの男の子だからさぁ?

 こうなるのは目に見えてたんだよ〜。

 でも、これは予想外だったなぁ〜。


 【天才美少女エクソシスト】の暁月真奈ちゃんに、私の在学中に唯一認めた美人で切れ者の後輩である結城ちゃん、それに可愛くておっぱい大きい暁月ちゃんの妹ちゃんに、【大妖】のレベルにある雪女と同レベルの夢魔?

 なんの冗談?


 あ〜あ、私が零ちゃんの初めてを貰う予定だったのにさ〜?

 まぁ、私も初めてだからちょっと思いきれなかったからいけないんだけどね〜。


 でも、こんな事になったのは、それもこれも家を出る許可を出したお母さんがいけないんだ!

 何が、


『零くんは従兄弟でしょ!?もっと現実的な歳の近い彼氏をみつけなさい!!』


 だよ!!

 

 良いじゃん別に誰を好きになっても!


 お母さんの目に零ちゃんが私に釣り合わないかどうかは知らないけど、年齢なんか関係ないじゃん!

 

 私はいつでも思い出せる。

 零ちゃんが我が家に来た時の事を。


「・・・あの、斬来零士です。よろしくお願いします。」


 まだ中学校に上がる前の零ちゃん。

 私はすっごく可愛いって思った。


 でも、零ちゃんは家に来てから、自分の事よりも家事を手伝ったりおつかいに行ったりばかりで、自分の事は二の次だった。


 お母さんから聞いていたけど、零ちゃんのお父さんは酷い人で、零ちゃんにネグレクトをしていたらしい。

 それもすっごく憤慨ものなんだけど、それ以上に”子供”をしていなかった零ちゃんにもっと甘えて貰いたかった。


 だからかまった。

 かまいまくった。


 そうすると、だんだんと零ちゃんの心の壁が剥がれて来たのか、私には辛辣に物を言う事が多くなってきた。

 でも、それで良いの。

 だって、そうは言いつつも、零ちゃんの顔に本当の笑顔が見えるようになってきたから。


 後は、零ちゃんには勉強も教えたな〜。


 零ちゃんったら、今まで全然勉強をしていなかったらしく、ほとんど勉強ができなかったから。

 でも、頭が悪いわけじゃない。


 私が教えたら、ぐんぐんと知識を吸収していったもん。


 それは、天才って言われる事が多い私が驚くほどの速度だった。

 

 だから私も途中から楽しくなっちゃったな。


 そんな零ちゃんだったけど、ある時を境に、急に大人っぽい雰囲気を纏うようになったの。

 私もそれなりに男の子から告白されて来たから分かるんだけど、それはその年頃の男の子と比べてもずっと大人っぽかったんだ。


 今日の話を聞いて分かった。

 時期もばっちり。

 異世界に転生されてたからなんだね。


 そういえば、その頃から、零ちゃんは学業と並行して色々な依頼の品を作る私の手伝い・・・というか、私を気にかけてくれた気がする。


 マッサージしてくれたり、ご飯を作ってくれたり、気分転換に付き合ってくれたり。


 気がついたら・・・零ちゃんの事、好きになってたんだよね〜。


 だからますますかまうようになっちゃった♡


 あ〜んしてあげたり、わざとバスタオルだけで脱衣所から出てきたり、入浴中にお風呂場に入って行ったり、一緒に添い寝してあげたり、たまにおっぱいで顔を挟んであげたり、お尻で顔を踏んであげたり。


 零ちゃんは可愛い反応を見せてくれるんだよ?


 ただ、一回だけ怒った事があったかな。

 いつだっけ?


 たしか〜・・・ああ、そうだ!


 寝起きドッキリをしかけようと思って、零ちゃんが寝てる部屋に忍び込んだんだけど、ぐっすりと眠る零ちゃんの”零ちゃん”がすっごく大きくなってたから、”がぶ”ってやった時だ!


『いってぇえええええええ!?な、な、な!?何してんだ!!!』

  

 その後、すっごく怒られちゃった。


 まぁ、分かってやってたんだけどね〜。

 だってさぁ?


 




 零ちゃん、心が壊れているから。








 そこまで考えた時、感情的になっていたのか思考が加速するのが自覚できた。

 化けの皮が剥がれていくのが分かる。

 だって、大事な零ちゃんの事だから。






 零ちゃんは”愛情”は理解できている。

 なので他人を思いやる事もできている。

 でも、”男女の愛”は理解できていない。


 だから、その時も怒っただけでそれで終わり。

 普通だったら照れるか、そこまでやったらHできるって思うだろうし、私の事が好きじゃなければ気まずくなったりしたり、順序を気にするなら告白するだろうし、嫌いだったら嫌だと言うだろう。

 

 でも、零ちゃんはその後、普通だった。

 本当に普通で、何事もなかったかのようだった。

 

 本当にいびつだ。


 

 この事に気がついたきっかけは単純な事だった。


 私は、零ちゃんを好きになってから、何度も好きだって言ったんだけど、一回もまともに受け取らなかった事に違和感を感じて、結構早い段階で図書館にある心理学の本で調べて気がついたの。


 なんというか、私これでもかなり見た目は美人だし、モテるし、スタイルも他の子から羨まれるくらいには良いし、零ちゃんとも打ち解けている自信もある。

 だから好きになって貰う為に”からかう”のレベルを越えて零ちゃんにちょっかいをかけてきた。

 

 それでも、零ちゃんの”男としての愛”には届いていない。

 いや、届くも何も、暖簾のれんに腕押しだ。


 零ちゃんは私が誰にでもそういう事をしているわけではない事にも気がついているし、私が好きな人にしかしない事も理解している。


 そして、零ちゃん自身も、私を好きではある。

 ただし、【女】としてでは無く、【人】として。


 でも、零ちゃんは嫉妬もする。

 私が大学や高校で告白された、なんて話をすると、ムスッとする。


 にもかかわらず、そこまでされているのに男女の愛情を理解していない。

 ちぐはぐだ。


 推測出来る事としては、物心ついてからの父親からのネグレクト、そして母親の愛情を知らずに生きてきて、無理矢理自立するしかなく、頼れる者も少ないまま危険に晒され生き抜いて来た事によるもの。


 今日、私の推測が裏付けできた。


 暁月ちゃんと四之宮ちゃんとの事。

 零ちゃん自身の身の上の詳細。

 

 ・・・本当に、零ちゃんの父親への怒りが膨れる。

  

 それにあの二人・・・九重雪羅ちゃんと八田夜夢ちゃんが身体の関係になっていても届いていなかったから。


 あの二人は、間違いなく零ちゃんを愛している。

 にも関わらず、零ちゃんがあれほど男女の愛情的な心が動いていないのはおかしい。


 零ちゃんがあの二人を大事に思っているのも分かっているし、親愛の情があるのも分かる。

 だから求められて身体の関係にあるのだろうし。


 ああ見えて、零ちゃんは欲望のままにHしたりしない。

 するなら私でしている。


 それくらいの事はしているし、誘ってきた。


 多分、今なら、私を抱く事も出来るだろう。


 今日の私以外の三人でもそれは同じ。


 でも、それは大事だから抱く、だけで、愛しているから抱く、ではない。


 あの、九重ちゃんが言った言葉が蘇る。


『で、あなたがたは主の事を知ってどうされるのです?だと思うのですが?』


 あの言葉の真の意味は、?という意味だ。


 私以外の三人もそのメッセージに気がついただろう。



 




 思考が更に加速する。







 だが、甘い。


 そんな事で、私の心は揺るがない。

 とうの昔に気がついていたのだから。


 だから、身体の関係がある事はアドバンテージにならない。


 零ちゃんは私のものだ。

 親ですら見抜けない私を、彼だけが本当の意味で見てくれる。


”舞さん、無理して周りに合わせる必要無いんじゃない?自分らしく生きたらいいじゃん。別に俺は嫌わないっすよ?どんな風でも舞さんは舞さんじゃないっすか。”


 これは、零ちゃんに言われた言葉。


 私が、周りの思考速度に合わせる為に、いつものように敢えて天然のふんわりキャラを装う事に少し疲れていた時に言われた大事な言葉。


 零ちゃんはそれを中学生の時にはもう言えた。


 家族に疲れた様子を見せないようにしていたのに、それでも零ちゃんだけは気がついてくれていた。 


 だから好きになったのだ。


 絶対に負けない。

 

 あの子は私のものだ。

 立ち塞がるのであれば、だれであろうと蹴散らすのみ。




「あら?舞、帰ってきたの?零くんはどうだった?」


 帰宅してお母さんに話しかけられていつもの私に戻る。


「う〜ん?変わんないよ〜?いつもと同じ零ちゃんだった〜。ねぇ、お母さん?ちょっと考えてる事があるんだけどさ〜?」


 敵は中々に強大なんだよね。

 だから次の手を打つんだ。


 私には、他の子のように学校という接点は無いからな〜。

 なら、打てる手は一つだけだね。


 お母さんに希望を伝えると、驚いた顔になる。


「え!?それじゃ零ちゃんが出ていった意味がないじゃないの!ダメよ!絶対ダメ!!零ちゃんに迷惑かけたり、また監禁しようとしたりするかもしれないし!!やっぱり行かせたのは間違いだったかしら!?」


 あ、そう言えばそうだった。

 前に、零ちゃんがどうしても家を出て一人で暮らすとか言ってた時に、監禁しようとしてお母さんに零ちゃんの家に行くの禁止されてたから、今回の事女の同居人がいる事に気がつくのが遅れた原因だったっけ。


 半分は冗談だったんだけどなぁ〜?

 もう半分は本気だったけど。


 でも、もっといい方法考えちゃったからね〜。


「まぁまぁ、そう興奮しないでさぁ?私にも色々考えがあってね〜?」


 まずは、お母さんの説得からかな。



***************

これで一章閑話も終わりです。

さて、零士を取り巻く環境はどう変わっていくのでしょうか?

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