閑話 乙女心 結城 琥珀の場合
・・・ふう。
今日は驚きの連続だったわね。
まさか、彼を追いかけたらこんな事になるだなんて。
彼とあの子達の関係もそうだし、私が尊敬していた先輩が彼の関係者だった事もそうだし、自分の知らない世界があった事もそう。
腹が立つ事も知ってしまったけれど、後から知るのよりかはずっと良かったわ。
まさかあの『氷姫』が彼のメイド・・・それもおそらくは肉体関係のある同居のメイドだなんて!!
彼女は男嫌いで通っていたから完全に盲点だったわ!
それにあの『小悪魔』もそうよ。
男の夢と欲望を詰め込んだようなあの子。
あんな子が彼と一緒に住んでいるだなんて!
・・・それにしても、まさか私がそれを知ってこれほどのショックを受ける事になるだなんて夢にも思わなかった。
子供の頃からこの能力のせいで、まともな恋も知らずに育った私は、恋愛なんてくだらないと思って生きてきた。
誰と誰がどこでどうしようと好きにすればい良い、そう思ってきた。
”どうせ私には関係が無い”と。
何故そうなったのかは分かる。
私に能力が発現したのは5歳位の頃だった。
知っていたのは、私の両親だけ。
お母さんは幼い私にいつも言っていた。
『琥珀ちゃん良い?あなたの能力は他の人に知られてはいけないわ。普通に暮らせなくなっちゃうからね?お母さんと約束よ?』
『うん!』
お母さんは私と同じで超能力者だった。
あいつはそんな母の能力の事を知らなかったのだけど、私が能力を持って、そして他の人とは違う事でショックを受けていた時に、実は自分も超能力が使えると打ち明けて、私の心を守ろうとしてくれた時に知ってしまったの。
でも、そんな私達はあの男に裏切られた。
『あなた!なんで・・・なんで!?』
『別に良いじゃないか!母子で超能力者だなんて、テレビが放っておかないだろ?金だってがっぽり稼げるんだ!幸せな家庭の為と思えば、問題無いだろ?』
『そんなわけないでしょ!!』
お母さんは激怒した。
そんな事をしたら、まともに暮らせなくなるからやめろと。
絶対に許さないと。
離婚も辞さないというと、あの男・・・父は一旦は納得して謝り、考えを撤回した。
かに見えた。
でも、それはまやかしだった。
「こんばんわ。☓☓☓さんだね?」
小学3年生位のころ、ある日突然見知らぬ男に、当時の名字で声をかけられた。
私は、お母さんから知らない人に声をかけられても応じるなと言われていた事もあり、無視して通り過ぎようとした。
「ごめんねぇ?ちょっと一緒に来て貰えるかな?」
しかし男は私の前に立ちふさがり、腕を掴まれそうになる。
私は怖くなり固まって動けない。
しかし、
「ぐあっ!?」
「琥珀!来なさい!!」
いきなりお母さんが現れて、男を突き飛ばし、私の手を掴んだの。
今思うと、あれはテレポートと呼ばれる力だったのだと思う。
すぐにそのまま自宅にテレポートした私を、お母さんが抱きしめた。
「お母さん・・・何が起こっているの・・・?」
「琥珀・・・ごめん・・・ごめんねぇ・・・なんでこんな事に・・・」
部屋の中には大きな旅行カバンが2つほどあった。
当時からそれなりに頭が回った私は、それが逃げる準備だと気がついた。
「ねぇ、お母さん、どうして?」
「それは・・・それは・・・」
言いよどむお母さん。
言えなかったのだろう。
だって、こんな風になったのは、全て、
ガチャ!ガチャガチャガチャ!!
玄関のドアを開けようとする激しい音。
そして、
「開けてくれ!なんでだ!!良いじゃないか!その組織に入れば大きな報酬が貰えるらしいんだぞ!?なんで分かってくれないんだ!!」
そんな
それで全てを悟った。
”ああ、
あいつは金に目がくらみ、ここだけの話、などと私とお母さんの事を言いふらし、その結果ヤクザ・・・だと思うのだけど、妙な組織の人間に目をつけられてしまい、取り込まれてしまったのだ。
「どいてろ!」
そして、そんな声と共に大きな破砕音でドアが壊される。
ドカドカと入ってくる大きな男達と、血が繋がっているとはすでに思いたくもなくなった父の姿。
私は怖くて震えていた。
この先どうなるのか、当時の私は分からなかったから。
でも、そうはならなかった。
「・・・ここまで、ね・・・良い琥珀ちゃん?良く聞きなさい?そこのカバンの中にはお手紙が入っているわ。それをこれから会う人に見せなさい?そうすれば、もう大丈夫だから。」
「・・・お母さん?」
涙を流しながら微笑んで私を見るお母さん。
ぎゅっと抱きしめられる。
その手は震えていた。
「さようなら琥珀ちゃん。元気で生きてね?幸せになって?」
「・・・お母さん・・・?」
それは別れの言葉だった。
そして、
次の瞬間、ふっと世界が変わる。
そこは田舎だった。
どうやら、お母さんにテレポートさせられたらしい。
「お母さん・・・お母さん!?」
私は泣いた。
何故か、もうお母さんに会えないのが分かったから。
ずっとそこで泣き続けた。
「・・・お嬢ちゃん、どうしたの?」
そこに、一人の女の人が現れた。
その人は、どこかお母さんに似ていて、凄く優しそうだった。
でも私は、実の父親に売られるという事実に人間不審になったのか、すぐに逃げ出そうとした。
でも、
「・・・あなた、もしかして翡翠の娘?私の孫、なのかしら・・・?」
"翡翠"
それはお母さんの名前だった。
私は、すぐにその人の心を読んだ。
そして、その人がお祖母ちゃんだと知った。
その後は、お母さんに言われた通りカバンの中から手紙を取り出して渡した。
お祖母ちゃんはそれを読み、すぐに涙をこぼす。
ああ、やっぱりもうお母さんには会えないんだ。
その事実でまた涙がこぼれた。
「琥珀ちゃん?私はあなたのお祖母ちゃんです。これから一緒に暮らしましょう?もう、何も心配する必要はありませんよ?」
「・・・お母さんは?」
「・・・あの子は、あなたを守ったの。だから、もう大丈夫よ?」
「・・・」
それが何を意味するのか。
私には、分かってしまった。
そして、私はお祖母ちゃんと一緒に暮らすことになった。
お祖母ちゃんはどうやったのか、私の戸籍を改ざんし、私は【結城琥珀】になった。
おそらく、お祖母ちゃんも何かの能力者だったのだろう。
その後、私はある程度の年齢になるまで、お祖母ちゃんと二人で暮らし、高校の進学の為に単身で今住んでいる街に来たの。
そして、あの日、何があったのかも分かった。
「・・・一家蒸発・・・室内に血痕・・・事件か?、か。それと・・・海上のミステリー、突然の死体・・・男性10人と女性1人、女性の遺体には弾痕が、・・・お母さん・・・」
過去の情報を色々調べてみたら、この2つが繋がった。
おそらく、お母さんは抵抗して撃たれた。
で、最後の力で全員を海の上にテレポートさせ・・・
私は、それから能力は絶対にバレないように使うようになった。
お母さんはみだりに使うなと言っていたけれど、自分を守るためには必要だった。
私は、自分の容姿が優れていると自覚している。
そんな私を見る男の目。
反吐が出る。
私は、私の父のせいで男性不信になっていたのだ。
もっとも、普段はおくびにも出さないけれど。
それもこれも、自分を守る為に必要だったから。
いつしか私はみんなに慕われる生徒会長と呼ばれるようになっていたわ。
で、出会ったの。
彼に。
彼との出会いはまぁ・・・腹ただしかったけれど、自分のせいでもあるので仕方がない。
恐怖も感じる一幕もあったけれど、嫌悪は無かった。
それに命も助けられたし。
命をたすけられた後は、彼を観察した。
最初はどちらかと言うと、興味しかなかった。
なにせ能力が通じなかったから。
でも、それはいつしかもっと本能的な物に変わったみたい。
なんだかんだと私につきあってくれる彼にちょっかいをかける事が多くなった。
それに、彼の私を見る視線には、欲望を感じなかった事もある。
まぁ、それはそれで私に魅力がないのかと腹ただしくは思うけれど、それ以上に口ではあれこれ言っても、最終的には協力してくれたり、気にかけてくれていたり、めんどくさいと言いつつも助けてくれたり・・・彼はもうちょっと色々考えるべきだわまったく。
気がついたら、私は
それが今日!
まさかあんな事になっているだなんて!!
彼が既に経験済みというのには・・・思うところはあるけれど、でも、おかげで一つ気がついた事もある。
それは『氷姫』と呼ばれるくらいに綺麗な九重雪羅さんも言っていたあの言葉。
そして彼の境遇から推察できること。
彼はおそらく・・・
なら、尚更負けられない。
初めて好きになった男の人。
絶対に私が手に入れる。
だって、彼を治すのは私でありたいから。
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