閑話 乙女心 四之宮 美奈の場合

 無言で零士さんの家から帰宅している。

 ちらりと隣を見ると、難しい・・・というか、ムスッとした顔をしてお姉ちゃんが歩いている。


 きっとわたしも同じ様な顔をしているだろうな。


 だって、零士さんったら、女の子二人と同居しているだけじゃなくて、もう・・・


 正直、ショックだった。


 これってわたしが子供だからかな?

 

 性行為に嫌悪感があるからじゃない。


 好きな人が他の人とそんな事をしたからこんな気分になっている、そう思う。


 色々な事情があるのは分かるし、あの二人も零士さんの事を好きだってのは分かってる。

 

 それでも・・・それでも!

 わたし以外の人とそういう事をしてほしくは無かった。


 



 わたしは、昔から男の人が苦手だった。

 小さな頃は何故かよく男の子から嫌がらせをされていたし、成長して来ると男子が胸ばっかり見ていたり、大声で触りたいとか言ってたのが本当に嫌だった。


 そんなわたしに転機が訪れた。


 そう、異世界召喚だ。


 わたしは、あの時、お母さんにお使いを頼まれてお買い物に行っている途中だった。

 いきなり周囲が光ったかと思ったら、気がついたときには目の前には見慣れない服を着た人たちと、同じ年頃の男の子。

 

 そう、零士さんだ。


 最初は途方に暮れていた。

 耳の尖った・・・エルフの人達も零士さんも色々と私達を召喚した人達に詰め寄っていたけれど、わたしは呆然として動けなかった。


 怖い。

 何よりも、自分の知らない世界にいきなり飛び込まされた事が怖かった。


 そんな時だった。


「なぁ、大丈夫か?怖いかもしれないし、おそらくきつい事になりそうだけど、このままじゃ事態は好転しない。一緒に頑張らないか?なぁに、大丈夫だ!見た所、年下っぽいし、何かあったら俺が身体を張って守るから!な?」


 そう言って零士さんが手を差し伸べてくれた。

 

 わたしは、自分でも不思議なくらいスッと差し伸べられた手に自分の手を伸ばした。


 零士さんはわたしが知っている男子とは違った。

 しっかりとわたしの目を見て話してくれて、何より頼れそうな笑顔を浮かべていたんだ。


 それからは、わたしは頑張った。


 初めての魔力の使い方。

 魔法や知識の習得。

 身体の動かし方。


 最初は慣れないことの連続だし、何よりも魔物とはいえ命を奪うことに抵抗があった。

 何度も涙も流した。


 でも、


『おお、四之宮。今日も頑張ってるな!俺も負けちゃいられねぇや!!』

『すげぇな四之宮!俺、上手く魔力が動かせねぇんだよ。やるなぁ。』

『なぁ、四之宮。確かに命を奪う事には慣れちゃいけねぇと俺も思う。だけどな?そもそも俺たちは命を分けて貰って生きているんだ。食い物とかでな?でも魔物は違う。人間を食うんだ。それも、食料にするためじゃなくな。だったら、害虫と同じだよ。それも人を本能で殺す凶悪な生き物、だな。俺たちが魔物を殺すことで助かる人がいるんだ。だからあの、名前の言えない【G】と同じでプチっと潰さねぇとな!』


 そう言ってあの笑顔でいつも気にかけてくれていた。


 だからずっと惹かれていたと思うんだけど、好きだと自覚できる出来事が起こったの。


「四之宮離れろ!!」

「えっ?きゃっ!?」


 ダンジョンの中で零士さんにいきなり突き飛ばされた。

 わたしが”転移トラップ”と呼ばれる罠を踏んでしまったの。


 いきなりどこかに飛ばされてしまった零士さん。

 わたしを庇って飛ばされた。


「零士さん!零士さん!?」


 わたしはパニックを起こしてしまった。


 そんなわたしを、同じパーティにいた聖女のミルさんが抱きしめて落ち着かせてくれた。


「ミナ。大丈夫よ。レイジは強いもの。きっとまた会えるわ。だから私達もここをさっさと攻略してレイジを探しましょ?」

「ミルさん・・・」


「そうだな。レイジは強い。正直、なんで俺が勇者なのか分からないくらい強い。あいつガキンチョの癖にクソ強いからな〜。そのうちなんでもない顔して『いやぁキツかったぜ!』とか言って現れるさ。俺たちは俺たちに出来る事をしよう。とにかくここを終わらせて、アイツの情報を探そう。」


 そして、勇者のヴェルゼさんもそう言って頭を撫でてくれた事でなんとか持ち直したの。


 そこからはいつも零士さんの事を考えていた。

 これまでどれだけ助けて貰ったか。

 どれだけ元気づけて貰ったか。

 自分だって急に召喚されて戸惑っていたし、心細くなってただろうに。


 凄く優しい。

 ヴェルゼさんと言い合っている時や国の人相手にする時なんかは凄く口が悪くなる事もあるけど、そんなの関係ない。


 零士さんがいない事がこれほど心細くて・・・悲しい。

 あの笑顔がみたい。

 いつもみたいに軽口を飛ばして欲しい。


 頑張ったなって頭を撫でて欲しい。


 ああ、そっか・・・わたし、零士さんの事・・・好きだったんだ。





 零士さんと合流できたのは、それから3週間後位だった。

 

「いや〜、マジきつかったぜ!飛ばされた先が魔窟でなぁ?魔物一杯で困った困った。ドジっちまったぜ「零士さん!!」って、うお!?ど、どうした四之宮!?」


 いつも通りの零士さんにわたしは思わず抱きついてしまった。

 今思えば赤面ものだ。


 だって、すぐそばには、


「・・・レージ、このひとだれ・・・?」


 サキュバスの子・・・八田さんがいたんだから。

 今とは違って、かなり痩せていて背丈も小さかったから、さっきまであの子だって気が付かなかった。


 でも、今日よく分かった。


 あの目。

 零士さんを見るあの目。

 昔は分からなかったけど、今は良く分かる目。






 女が、好きな男を見る目と同じ。






 結局、その子は魔族用の孤児院に預けられて、その後は魔王を倒して元の世界に帰る事になったの。


 ヴェルゼさんと零士さんがお互いにお別れの挨拶をしている間に、わたしはミルさんとお別れの挨拶をしていたのだけど、


「ねぇミナ?あなたレイジを好きなんでしょ?」

「あうっ・・・」

「帰ったらもう会えないかもしれないのよね?」

「・・・はい・・・」


 ”もう会えないかもしれない”


 ミルさんに言われたその事実に落ち込む。


 そんなわたしをミルさんが抱きしめてくれて、そして、


「だったら、ちゃんと言わないと、ね?後悔しないために。」

「・・・はい。」


 その言葉に、眼差しに、わたしの決意は決まった。


「それじゃな!ヴェルゼ!ミル!」

「さようなら!!」

「ええ、二人共元気で!」

「じゃあな!」


 目の前でヴェルゼさん達が消える。

 わたしと零士さんの身体も光っている。


「やれやれ、まったく大変だったなぁ。なんで俺はこんなんばっかなんだろうなぁ・・・っと、四之宮!どうなるかと思ったけど無事帰れて良かったな!向こうに帰っても元気でやれよ!」


 もうかなり姿が薄れてきている。

 急がないと!


「零士さん!あなたのおかげで無事帰れます!ありがとうございました!!」

「ん?そりゃ違うだろ?お前はお前で頑張ったんだ。お互い様だ。ありがとな?」


 ああ、やっぱり優しい・・・


「零士さん!わたし帰っても零士さんを探します!だから・・・」

「・・・お?そうか?ああ、そういや俺の住んでるところ言ってなかったな。俺が住んでるところは、」


 ああ、消えちゃう!!


「わたし、わたしあなたの事が!!」

「・・・県の・・・あ・・・」


 ほとんど何を言っているのか聞こえない!!


「好き!!」

「またな・・・」


 次の瞬間、元の世界に戻っていた。


「・・・伝わったかな・・・あの感じじゃダメだったかな?でもいいや。」


 まぁ、まさかの後から進学した高校で再会して、あの時の事を聞いものの、全然聞こえてなかったみたいだったけど、良いの。

 この時に思っていたのは一つだけだから。


 必ず探し出して、今度はきちんと想いを伝えよう!!


 って。







 まぁ、それで今日の事があったんだけどさ。


 でも、よくわかった。

 

 零士さんはモテる。

 ライバルはお姉ちゃんを筆頭に美人生徒会長さん、大人の美人さん、有名な美人な先輩に小悪魔って言われている八田さんと強敵ばかり。


 それも、どうも八田さん達は零士さんと大人の関係になっているみたい。


 でも絶対負けないもん!

 だってわたしの初恋だから!!


 もう引っ込み思案ではいられない。

 後悔はしたくないから。


 零士さん、覚悟して下さいね!!








 それにしても、零士さん・・・あの頃はわからなかったけれど、今日改めて見ていて気がついた事があった。

 

 それにあの人のあの言葉・・・それはわたしの考えを補強するのに足りると思う。



 おそらく間違い無い。


 なら、わたしが今度は助ける番だ!!

 そのためにも負けていられないよ!!

 頑張れわたし!

 

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