第9話 高校一年生 夏 超能力って本当にあるんだな

 まぁ、そんなこんなで、俺は雪羅と新しい家に住んで、今の高校に通う事になったわけだが・・・とりあえず、夏までは平穏だったんだよな。

 

 雪羅はしっかりと家事をやってくれたし、金には余裕があったし。

 ん?なんでそんなに金に余裕があるかって?


 一応、親父からは変わらずそれなりの額の生活費は振り込まれていたし、何より俺が昔稼いだ金も残っているしな。

 それに、たまにアルバイト代わりに、昔の伝手から難しい霊や妖怪案件でどうしようも無い奴を受けてたからな。

 俺に回ってくるのなんて、本当にどうしようも無いってレベルのものばっかりだったから、高額の報酬をもらえたんで連続で受ける必要も無かったし。


 え?危険じゃ無いかって?


 まぁ、そりゃそれなりに危険ではあるぞ?

 でも正直、冥王竜と比べたら・・・なぁ?


 そんな感じで夏休みを迎えたわけだが、ここで問題・・・というか、予想外の事が起きたんだ。


「私ね?」


 そう、結城先輩だ。


 ありゃ、本当に突然だったな。


 確か、夕暮れ時だったな。

 アルバイトを終えた帰りだったと思うんだが、うちの学校の制服を来た女が公園の方から歩いて来たんだ。


 で、俺は夏休みなのに御苦労なこった、なんて思ってたんだが、ちょうど俺とすれ違うタイミングで、運悪く通りがかった車が、空き缶を引いちまったらしく、弾かれた空き缶がすげぇ勢いでその子の方に飛んでったんだ。


 感じ的に、中身は入っていなさそうだが、それでもスチール缶だと硬いし、万が一傷でも負おうものなら女子って事もあって寝覚めが悪い。

 だから俺は缶とそいつの間に手を差し入れて防ごうとしたんだな。


 まぁ、もう分かると思うんだが、それは結城先輩だった。


 先輩は、とっさのことで思わず反応しちまったんだと思うが、缶を念力?みたいなので防ごうとしたんだろうなぁ・・・間の悪い事に、俺の顔面に方向を変えたんだ。


 で、予想外の動きを見せた缶に俺も面食らって、思わず仰向けのまま倒れこんで躱したわけだ。


 結果、


「あ、白。」

「!?」


 見事にスカートの中を、あいて!?


 ちょ、先輩なにするんだ!?


「〜〜〜っ!だからあなたはもう少しデリカシーを学びなさい!!別にそこまで話す必要は無いでしょうが!!」


 ぐえっ!?

 く、首締めないでくれません!?


 んん!話を戻すぞ?


 ・・・なんだよみんなその目は。

 べ、別にわざとじゃないんだからね!!

 役得なんて思ってないんだからね!


 ぐはっ!?

 お、おいやめろ!

 なんでみんなで殴るんだ!!

 マジやめて!?





 と、とにかく!!

 俺の指摘に真っ赤に顔を染めた先輩は俺に怒ろうとしたみたいだが、そもそも缶を跳ね返したのもあってか、怒るに怒れない、そんな感じだった。

 だから俺は一応謝っとこうと思ったんだ。


「ああ、すみません。悪気は無かったんですが、いきなり缶がこちらに飛んできてですね?」

「〜〜〜っ・・・い、いいえ、仕方がない、わね。今のはお互いに忘れましょう。」


 そんな言葉を残して先輩は足早に立ち去った。


 そんときゃ、綺麗な人だな〜位にしか思ってなかったな。

 同じ学校みたいだけど、どうせもう絡む事も無いだろうって高をくくってたんだが、なんの悪戯かその翌日がたまたま出校日でな?

 下校の時にばったりと昇降口で会っちまってなぁ・・・


「あ、昨日の白い人。」

「〜〜〜っ!!ちょっとこちらに来なさい!!」

「へ!?あ、ちょっと!?」


 ずるずると引きずられて生徒会室まで連れて行かれたんだ。

 

「当たり前よ!ほんっっとあのときは・・・どうやってあなたを消そうかと真剣に悩んだわ。」


 こわっっっ!!

 

 



 ま、まあいい。

 話を戻すぞ?


 とにかく、生徒会室に連れ込まれた俺は、その時に先輩が当時うちの学校一の有名人の生徒会副会長の結城琥珀だって気がついてな?

 説教されるのかな〜面倒だな〜とか思ってたんだよ。

 だが、違ってたんだ。


「・・・やっぱり。昨日は気のせいかと思ってたんだけど・・・」

「何がですか?」


 俺を訝しげに見る先輩が、なにか警戒しているように見えてなぁ?

 てっきりパンツを見たのを言いふらされるのを警戒「いい加減にしなさいよ?」・・・はい。


 とにかく警戒しているように見えたから、どうしたものかと思ってたんだが、突然先輩が俺を睨んだかと思ったら、身体が動かなくなったんだ。

 と言っても、一応歴戦の戦いをくぐり抜けてきた俺は、これが超能力のたぐいだってすぐに気がついて、霊力を身体に張り巡らせ、無理矢理動かしたんだ。

 なにせ、異世界でそういうの使ってくるヤツもいたからな。

 魔王とか、その幹部とか。


 パァンッ!!


「きゃっ!?」


 すげぇ音がしたかと思ったら身体が自由に動くようになった。


「嘘!?なんで!?」


 すると、先輩が俺を見て焦るようなそぶりを見せたから、犯人は先輩だと思ってな?


「何したか知りませんけど、敵対するならそれなりの対応させて貰いますよ?」

「・・・」


 一応、忠告しておいたわけだ。


 その後はしばし無言が続いたんだが、


「・・・お互い、無干渉で、良いかしら?」


 先輩が厳しい顔でそう言ったんだ。

 俺にしても渡りに船だったからな。

 なにせ、結城先輩は校内の有名人だ。


 できれば、関わりたくなかった。


 だから、俺はそれに了承し、生徒会室を後にしたんだ。


「あの時、あなたの心を読めなかったものだから警戒したのよ。それに、まさか念動力を破られるとは思ってもいなかったから、本当に焦ったわ。その時は、あなたが私以上の超能力者だと思ったから、あなたが部屋から出ていったあと、冷や汗と安堵で動けなかったもの。」


 苦虫を噛み潰した表情の先輩。

 そりゃすみませんね。


 まぁ、それで終わり・・・といきたいところだったんだが、そうはいかなかった。

 

 夏休み最後の週だったかな?


 俺は本を買おうと思って、外出中だったんだが、すげぇ勢いで車が正面から走って来るのが目に入ったんだ。

 で、その車が歩道に突っ込みそうなのも。


 そこには小学生が驚きのあまり固まって、動けなくなっているのが見えたんだ。


 俺は駆け出した。


 正直、ギリギリだった。


 このままじゃ間に合わない!

 身体強化を!

 そう思った瞬間、小学生が突き飛ばされた。


 小学生は安全圏まで離れ、代わりにそこにいたのは先輩だった。

 先輩は安全なところまで飛んだ小学生を微笑むように見たあと、すっと目を閉じたんだ。


 無我夢中だったよ。

 絶対に間に合わせるって思った。


 だから、霊力も魔力も使って、自分に出来る最高速で先輩を抱きとめ、そして・・・


 ドォン!!!


 車に跳ね飛ばされたんだ。


 まぁ、俺はこれでもドラゴンとため張れる位には頑丈だからな。

 車が突っ込んだくらいじゃ屁でもねぇ。


「・・・あ・・・れ・・・?あなた・・・なんで・・・」

「足が滑ったんですよ。ツイてないったりゃありゃしない。」


 地面に叩きつけられた後、目を開けた先輩の驚いた顔と言葉に、適当にそう言ったんだが、すぐに目撃者が警察と救急車を呼んだようで、どこからかサイレンの音が聞こえてきんた。


「じゃ、そういう事で!先輩あとよろしく!」

「あ!?ちょっと!?」


 そんくらいはお願いしようと思って俺は逃げたんだがな。


 んで、上手く逃げ切ったと思ったんだが・・・新学期になって登校した時に先輩が昇降口で待ち構えていてなぁ?


「あなた、なんで逃げたのよ!お礼ぐらい言わせなさい!!」

「いやいや、たまたま足が滑っただけでして。」

「・・・そう。あなた、名前は?」

「小生、名乗るほどの者じゃぁございやせん。」

「あ、そう。で、名前は?」

「・・・」

「名前」

「・・・」


 その後は無言で見つめ合い。

 なんとか名乗らずにいきたかったんだが、だんだんと先輩が涙ぐんできたから・・・あてっ!?ちょっと何する、あだ!?せ、先輩やめて!?わ、わかりましたから!!


 ・・・まぁ、そこまで誤魔化す必要も無いかって思ってな?


「一年の斬来零士っす。」

「そう、斬来くん、ね。覚えておくわ・・・ありがと。助けてくれて。」

「なんの事ですかね?でも、怪我が無くて良かったっす。」

「あなた・・・いえ、良いわ。なにかお礼を・・・」

「あ、じゃあ、今後あんまり大っぴらに俺と話さないでくれません?あんまり目立ちたくないんすよ。先輩も分かるでしょ?」

「・・・そう、ね。分かったわ。じゃあ、できるだけ少ない人数の時か目立たなそうな時だけ声をかけるわ。」

「いや、分かってないじゃないすか・・・ま、いっか。じゃ、それで。」

「ええ、また。」


 っとまぁ、こんな感じだったかな。

 そうすよね?


「・・・そうね。まぁ、それからも話しかけようとする度に逃げ回ろうとするから、ほんっっっっとイライラさせられたけど、ね!」



 ・・・さーせん。


 ん?夜夢はいつ出て来るのかって?

 ・・・話さなきゃだめか?


 ・・・そうすか。

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