第3話 なんでこうなった?(3)

「あら?そこにいるのは斬来くんではないの?」

「ぐっ!?」


 鈴の音のような凛とした透き通る声。


「結城会長、お知り合いですか?下級生に見えますが・・・」


 そいつの近くに居たヤツがそんな事を言っているが、こちらはパニックだ!


 嘘だろ!?

 なんでこのタイミングでこいつが!?

 つーかこいつも地雷なんだっての!!


「ええ、ちょっとした知り合い「・・・おつかれっす会長。さよーなら。「お待ちなさい。」ぐえっ!?」


 この野郎!!

 すっと脇を抜けようとしたら襟首引っ張りやがった!!

 喉が閉まって苦しいじゃねぇか!!


「か、会長?」


 おいおい!

 役員共が突然の暴挙に唖然としてやがるじゃねぇか!!

 や〜め〜ろ〜や〜!!!


「何故そんなに急いでいるのかしら?少し手伝いでもしていきなさいよ。ちょっと話したい事もありますし。」

「いや〜すんません!小生しょうせいのような凡人では会長様のような天才JKのお手伝いなどと恐れ多くて!!って事で失礼・・・・・・あの、離して下さいません?」

「・・・」


 ・・・やっべぇ。


 なんかこいつ眉がピクピクと動いてやがる。

 多分、切れる一歩手前だなこりゃ!

 

 こいつとは色々あってそういう事が分かるくらいには知っている。


 ちなみに、こいつの名前は結城ゆうき 琥珀こはく


 自他と共に認めるミスパーフェクトだ。

 黒髪のロングで、出るところはしっかり出ていて引っ込むところはばっちり引っ込むスタイルを維持するバケモノだ。

 顔立ちも怜悧と言って良く、当然学校の人気者だ。


 特にこいつの場合は役職もあって信望者は多い。


 ここで目をつけられるわけにはいかん!!


 なんとか逃げねぇと・・・あ!?そうだ!!


「あ!?会長!襟元に虫が!?」

「え!?」


 俺の言葉に驚いて、俺の襟首から手を離し、自分の襟元を払う


「居たような居なかったような・・・って事で失礼!!」

「しま・・・こら!逃げるな!・・・くっ!相変わらずわね・・・」


 

 俺はダッシュで逃げる。


 はぁ〜。

 しっかしなんなんだ?

 なんで今日はこんなにエンカウントしやがる?


 もう、これ以上は勘弁してく<Prrrrrrrr!>


 ・・・電話?

 なんだよこんな時に・・・って、あ〜、


「・・・はい。」

『あ!?もしも〜し!零ちゃん?私私!』

「あ〜、わたしわたし詐欺には間に合ってますんで、それじゃ」

『ちょっと零ちゃん!?酷いじゃないの!詐欺じゃなくてお姉ちゃんですよ〜?』

「・・・分かってますって。なんですか舞さん?」

『もうっ!お姉ちゃんって呼んでよ!!』


 なんでこんなタイミングで電話してくるかね、舞さんは。


 この電話の人は桐谷きりや まいさん。


 本当の姉ではない。

 今年大学二年生になる人で、俺の従姉妹に当たる人だ。


 一時期、というか中学生の時に、この人の実家に居候させて貰った事がある。

 電話の通り、ちょっと面倒くさいところはあるが、血縁という事もあってか、俺と同じ茶髪をロングにしており、スタイルは夜夢に匹敵するほどのバインバインだ。


 おっとり系お姉さんとして近所で評判で、近隣の男どもを恋愛的な意味で蹴散らしている。

 いや、近隣だけじゃねぇか。

 大学でも快進撃を続けているとかなんとか聞いたな。


 誰かと付き合ったとか聞いたことがない。


「で、なんなんです?」

『なによもう、冷たいな〜、お姉ちゃん悲しい!!』

「・・・すみませんね冷たくて。で、何かあったんですか?」


 ちょっと冷たいかもだが、無理矢理会話を変えないと話が進まねぇからなこの人は。


『もう、仕方がないなぁ。今度はちゃんとお話してね?あのね?以前お願いされていたアレだけど、出来たよ〜?』

「お!?マジすか!?すっげー!さっすがは天才!」

『へへーん!そうです!お姉さんは凄いのです!!』


 おお!ダメ元で頼んでたヤツが出来たのか!

 すげぇなこの人!

 やっぱ流石だぜ!


 ちなみに、俺が頼んでいたのは、ちょっとアルバイト・・・仕事?で使う特殊なものだったりする。

 おそらく、この人じゃないと作れない類のものだ。


「んじゃ、今度取りに行きますよ!あざっす!」

『ん?私今から・・・』



 舞さんが何かを言いかけたタイミング、ちょうどいつも利用するスーパーマーケットの前まで来た時だった。


「あり?ご主人様?」


 スーパーの出入り口から夜夢が買い物を済ませて出てきたのだ。


 あ!?まずいな。


「じゃ、そういう事で。」

『あ!?ちょっと零ちゃ、ツー、ツー』

 

 アブねぇアブねぇ。

 万が一夜夢の声でも聞こえようもんなら、どうなるかわかんねぇからなあの人。


 ちょっとブラコンが過ぎるんだよなぁ・・・いや、姉弟じゃねーんだけど。


 っとそれより・・・


「・・・夜夢か。つーか早くね〜か?俺、かなり急いで帰って来たんだが。なんで私服でもういるんだよ?」

「にっしし!昼からサボっちった♡」

「お前なぁ・・・」


 まったくこいつは・・・一年生のうちからサボりかよ。


「これなら一緒に帰っても良いよねぇ?」

「ったく、しゃーねーな。」

「やった♡」


 俺は腕を組んでくる夜夢から買い物袋を奪い取り、自宅まで帰宅する。


「おかえりなさいませ、主様。」

「・・・お前も早いっての。つか、なんで俺よりも早く帰れるんだよ。」


 玄関の前にすでにメイド服に身を包んだ雪羅が居た。


「秘密です。お荷物をこちらに。」

「・・・はぁ。あんまり無茶すんなよ?」

「心得ております。・・・夜夢、離しなさい。主様の歩く邪魔です。」

「え〜〜やっだよ〜だ!!」

「・・・夜夢、離せ。」

「や〜だ〜。」


 あ、これヤバい奴だ!

 

 ほら!

 雪羅から冷気が漏れて来ているし、夜夢も力を高め始めた。



 ・・・このせいだよなぁ・・・気が付かなかったのは。 

 マジでこいつらは・・・すぐ喧嘩しやがるんだよ・・・こいつらに気を取られなけりゃ気がついたんだろうけど・・・


 何に気が付かなかったかって?

 それはこれだ。


 背後に気配。

 急いで振り向くも時すでに遅し。

 そこには三人の人影があった。


「零士!!どういう事よこれは!!たまたま行く方向が同じでたまたまあんたの家の前に来てみたら!!」

「そうです零士さん!なんですこれ!!どうしてそこに八田さんがいるんですか!!お姉ちゃんも零士さんの事を知っているみたいですし!!」


 いやこっちのセリフなんだけど?

 お前ら、まさかつけてき来たのか?

 ダメでしょストーキングしちゃ。

 先生に教わらなかったの?


「やれやれ、どうもあなたの様子がおかしいと来てみたら・・・これは一体、どういう事なのかしら?有名な二人もいるし・・・そこのメイド二人もすっごく見覚えあるし。」


 ていうかね?なんであなたも、教えていない筈の俺の家を知ってるの?

 役職、悪用しちゃったの?

 悪いことは”めっ!”だよ?


「零ちゃん来ったよ〜・・・って、あら〜・・・可愛くて綺麗な子がいっぱい居る〜・・・ちょっと零ちゃんからしっかりと聞かないと!場合によっては零ちゃんが枯れるまでお姉サンド♡(意味深)しなきゃね〜・・・ってありゃりゃ?結城ちゃんまでいる?」

「あら・・・お久しぶりですね桐谷先輩?これはこれは・・・うふふ、ちょっと本気を出す必要がありそうね。」


 ・・・あかん。

 俺、舞さんの幻覚まで見え始めたわ。

 あ、俺幻覚効かなかったわ!じゃ、夢だな!

 いかんいかん、夢は寝ている間にみないとな!


「すまん、ちょっと寝るわ。」

「かしこまりました主様。」

「わかったよーご主人様♡」

「「「「おいっ!ちょっと待て!!」」」


 ははは!リアルな夢だなぁこれ!!


 ははは・・・はぁ、なんでこうなった?

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