第2話 なんでこうなった?(2)
「え・・・嘘・・・零士・・・?」
聞き覚えのある声。
過去を思い出させる声。
その瞬間、思わずギクリと固まってしまった。
こいつが転校して来てからずっと避けていたのに、見つかってしまったのだ。
いや、まだだ!!
俺はサッと顔を伏せ、足早になる。
「人違いです。」
「いや、本当に人違いならその反応は無いでしょうが!!何逃げようとしてんのよ!!」
そのまま振り向くこと無く、速やかに立ち去ろうとした俺の肩をガシッと鷲掴みにし、怒ったように俺に顔を寄せる女。
赤黒い髪をショートカットと日本人場馴れした北欧系の整った顔。
スタイルは・・・まぁ、平均的な女子高生より、多少あるかな、位の胸。
活発そうな感じ。
やっぱ間違いない。
やっちまった!!
だが俺は諦めんぞ!!
「逃げていません。人違いです。」
「嘘!!じゃあなんで顔そむけてるの!?こっち向きなさいよ!!」
おい!?
人の顔を掴んで無理矢理視線を合わせようとすんなよ!?
つ〜か顔ギリギリ言ってっから!!
痛てぇっての!!
「お、おい・・・暁月さんあいつと親しげに・・・」
「え?え?あれ?暁月さんってあんなきつい言い方したっけ!?」
あ!?
やべぇ!!
「っ!!じゃ、じゃあ俺・・・僕はこの後用事があるので!!」
「あ!?ちょっと待ちなさいよ!!って速!?」
無理矢理顔から手を離し一目散にダッシュ!!
うおおぉぉぉ!?
まずい!
恐れていた事態が!!
あいつは俺の幼馴染と言っても過言では無いだろう。
昔俺がいた田舎に住んでいた
俺がこうなる前に父親の仕事の都合で海外に移住した。
当時は仲が良かった・・・というよりもあの田舎には近所に同じ年頃の子はおらず、あいつは当時の俺よりもずっと優秀だった。
落ちこぼれの俺をいつも気にしてくれていたんだ。
あいつが海外に行く時にはお互いに大泣きしたもんだ。
っと、まぁ、それは良いんだ!!
そこは問題じゃない!!
今問題なのは、あいつが転校して来て以来、学年を代表するような人気者だって事だ。
あいつに絡まれたら俺まで目立っちまう!!
普通じゃいられなくなる!!
俺は急ぎ自分のクラスを目指す。
あいつが転校してきたのに気がついた時の事は今でも覚えている。
学年が上がって、なんか美少女が転校してきたってクラスの奴らが騒いでいて、付き合いもあったので、仕方がなくそいつらと転校生がいるクラスへ見に行って驚いた。
見た目はかなり大人になっているが・・・それよりももっとあいつをあいつたらしめている特徴があって、すぐにあいつだって気がついた。
だから、それ以降あいつの視界に入らないように気をつけていたのに!!
「くっそ〜〜〜!!!俺のアホ!!!」
気を抜きすぎだろう俺!!
クラスに帰ると、なんだかざわついていた。
何人かの俺とよく話をする奴らが、暁月と知り合いなのかとか聞いて来やがったから、人違いじゃないかって誤魔化したが・・・誤魔化せただろうか?
はぁ、今日は早く帰ろう・・・
昼放課。
この学校には学食がある。
安くて上手いと評判ではあるのだが、俺には無縁だ。
なにせ、俺用に雪羅がいつも弁当を作ってくれているのだ。
だから食堂に行く必要は無い。
「斬来、たまには俺たちと一緒に飯食わないか?」
「ああ、悪いけど、ちょっと授業でわからんところがあってな。ちょっと職員室に用事があるんだ。だから行けねぇ。」
「なんだよ?お前、そんな真面目だったか?それとも、もう受験勉強か?まぁ分かった。じゃあまた今度な?」
「おう。」
こうやって、友人・・・と呼べるかわからんが、たまに誘ってくれるクラスの奴らからの誘いは断っている。
いや、一年生の時はこれでもときどきは行っていたんだ。
だが、今年は行くわけにはいかない。
なにせ、暁月を筆頭に色々地雷があるからな。
なんにせよ、教室で食べるのも危険だ。
暁月が俺を探している可能性がある。
どこかいいところは無いものか・・・
色々探して、
クラブハウス裏だ。
ここには、ちらほらとしか人はいない。
暁月もこんなところまでは来ないだろう。
いや、そもそもあいつは人気者だ。
おそらく、周りに誘われて食堂で食べているだろう。
うん、今日もうまそうだな。
流石は雪羅だ。
「いただきまー「あれ?もしかして零士さん?」・・・」
俺は両手を合掌した状態で固まる。
まさかの地雷発見。
それが、
「こんなところで一人でご飯なんですか?」
「いや・・・まぁ、たまには一人で食べたくてな。」
そう、それがこいつ、
こいつとは俺が中学生の時に色々あって、知り合うことになった。
いや、正確には、こいつがこの学校に入学してから、まさかの同じ高校に通える範囲の場所に住んでいるという事を知ったのだ。
ちなみに、俺がここに通っているのがバレたのは最近だったりする。
下校中ばったり会って、久しぶりだったこともあってか大泣きされたんだ。
俺は例によって噂で聞いて知っていたので、会わないように気をつけてたんだが、あんなん避けれるかよ・・・
四ノ宮には、学校内ではあまり話しかけないように言ってある。
文句を言っていたが、男嫌いの噂もあるからな。
俺のせいで男が近寄るようになっては忍びないって無理矢理納得させたのだ。
ちなみに、こいつは一言で言えば戦友とでも言うのだろうか。
この時代、この世界でこういった表現は不思議な感じではあるのだが、俺たちにはあっている。
まぁ、それは良い。
それよりも今、良くないのは、
「あれ?珍しいね四之宮さん?男の子と話してるのって。知り合い?」
「ほんとだ!しかも先輩じゃない!?美奈ちゃんもしかしてカレシ!?」
「「「うそ〜〜〜!?」」」
これだ!!
こいつも、可愛いんだよ!
しかも、胸でっけぇもんだから、男からはすっげー人気がある!!
入学した時、男どもは騒然として、その胸を見て愕然としてたもんな。
まぁ、俺は別の意味で愕然としたのだが。
「零士さん?よかったら、ご一緒しませんか?」
赤黒いセミロング髪と整った顔が流れるようにスッと近寄って上目遣いにそんな風に言う。
「い、いやいや、友達と一緒のところを邪魔したら悪いからな。それにさっきも言った通り俺は今日、ちょっと一人で飯が食いたかったんだよははは!って事で・・・アディオス!!」
「あ!?ちょっと零士さん!?」
パパっと広げた弁当を片付け、ダッシュでクラブハウス裏を後にする。
・・・ぶねぇ!!
まさかこんなところでエンカウントしちまうとは!!
あんな人目のある所で、あいつと親しげにしてたらすぐ噂になっちまう!!
逃げて正解だ!!
・・・にしても、あいつの髪色、暁月によく似てやがんな。
これで顔立ちが西洋風だったら、完全に姉妹だって誤解してたぜ!!
性格は全然ちげーからそんな事はねーだろーけどな!!
・・・思えば、こん時、しっかり考えるんだったよなぁ。
焦り過ぎてそこまで考えなかった。
性格なんてもんは境遇によって変わるし、そもそもハーフなら顔立ちが違ってもそこまで不自然じゃねぇんだし。
父親か母親どっちかの血に偏ればそりゃ違って来るよなぁ・・・
結局、俺は教室に戻ってこそこそと食事を取った。
今回は気配をしっかりと把握し、どちらが来ても分かるようにしてな。
ま、その心配はいらなかったんだが。
「さっき教室覗き込んでたのって暁月さんだよな?やっぱ美人だよなぁ!!」
「おお!それな!しかし、誰探してたんだろうな?聞いてくれたら教えたのに。」
これが、教室で飯食ってた他の奴らの会話だ。
すなわち、あいつは一度ここに来ているらしいから、もう来ねぇ!
・・・あぶねぇ。
ニアピンじゃねーか。
昼放課も終わり、下校の時間になる。
変に残っていると、暁月か四之宮に捕まるかもしれん。
さっさと帰るのが吉、か。
そう思って、すぐに昇降口に向かう。
そして、靴を履き替え、急いで校門へ・・・
「あら?そこにいるのは斬来くんではないの?」
「ぐっ!?」
マジか!!
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