第1話 なんでこうなった?(1)

 そもそも、なんでこんな状況になっているのかを先に話しておこうと思うんだ。


 いや、まずは俺がどこの誰か、が先か?


 え〜、こほん!

 

 俺の名前は斬来零士きりきれいじ


 どこにでもいる普通の高校生・・・を目指す高校二年生だ。


 まぁ、こんな風に言うと、自意識過剰じゃねぇ?とか、遅れてきた中2病か?とか言われちまうかもしんねーんだけど、別にそういうわけじゃない。


 俺には少し・・・いや、ちょっと・・・もしかしたらかなり変わったところがあるのだ。


 それについてはおいおい話すとして・・・今こんな状況にあるまでの今日の流れを話そうか。

 じゃないと多分わかんねーからな。



 本日の朝はいつも通り始まった。


「主様、コーヒーです。」

「ありがとな雪羅せつら。」

「いえ、これもメイドの仕事ですから。」


 朝起きてから朝食を食べた後、俺の前にコーヒーを置き、離れていく女性。


 氷の様な深い青の長髪とスラッとした体躯。

 いや、胸は手のひらに収まるくらいはある。

 下品にならない位のぷっくりした臀部に、すらりとした長い足。

 そして、表情はあまりないがキリッとした美人。


 触れたら凍らされそう、なんて思うほどの美しさ。

 こいつを知る男はみんなこう思うだろう。


 、と。


 こんなメイドが居たら、なんて思う人は多いんじゃなかろうか。

 彼女の名前は九重ここのえ 雪羅せつら

 訳あって俺のメイドをやっている。


 俺は雪羅から出されたコーヒーを飲みながら、テレビから流れるニュースを目で追う。


「ご主人様〜?コーヒー飲んだら一緒にがっこー行こ〜?」


 ガチャッとドアが開き、そこから別のメイドが入って来る。


 そのメイドは、先程の雪羅とまったくタイプが違う。


 メイド服の内側からはち切れんと言わんばかりに押し上げる、『爆』がつくほどのお胸様を持ち、スカートの丈も短く、大きな臀部とムチムチな太ももと、それでいて綺麗な足を晒しており、その顔立ちはとても可愛らしい。


 雪羅が凍らせるほどの美人だとしたら、このメイド・・・夜夢は蕩けさせる美少女とでも言うのだろうか。

 いや、むしろかな。


 こいつは八田やた 夜夢やむという

 雪羅と同じように理由があって俺のメイドをやっている女だ。


「あのなぁ、行くわけねぇだろ?お前と一緒に行ったら、”あいつ誰だ!?”ってなるでしょ?」

「いいじゃんそんなのほっときゃ。」

「そう言う訳にはいかねぇだろうが。」

「なら、ウチと行きましょうか。そろそろ解禁で良いと思うし。」


 先程出ていった雪羅が部屋に入って来ながら澄まし顔でのたまう。


「だから良いわけねぇっつーの!!無理!ダメ!却下!!」

「ちぇっ〜!」

「ちっ!」

「・・・」


 そう言い、お尻をプリプリ揺らしながら部屋から出ていく夜夢と、こちらを舌打ちして睨んでいる雪羅。


 いや、仕方がねーだろ!


 雪羅も夜夢も目立つんだよ!!

 俺は平穏に暮らしたいの!


 もう、めんどくさいのは嫌なんだよ。


 




 さて、あいつらと時間差で学校に通学する俺。



 俺たちが通うのは全員同じ学校だ。


 一応、雪羅が三年生、俺が二年で夜夢が一年生だ。


 俺たちが通う学校は私立で、地元ではそこそこの進学率の学校だ。

 制服が可愛いとかなんとかでそれなりに人気もある。


 俺がここに通う経緯はまたそのうち詳しく話すとして、校門に近づくに連れ、目立つ塊を目にする。


「ああ、九重さん今日も綺麗だわ・・・」

「そうね。素直に推せる・・・」

「あの美貌で男嫌いってのが良いわよねぇ・・・憧れちゃうわ。」


 まずは、雪羅だ。

 雪羅はどうやったのか知らないが、校内では有名な男嫌いの美女で通っている。

 その上、特に親しい人も無く、その容貌と性格から氷の姫、略して『氷姫』の異名があるらしい。

 

 趣味やプライベートを知るものはいない、そう言われている女だ。


 雪羅を遠巻きに囲むように、男性と女性がうっとりと見ている。

 もっとも、雪羅はまったく愛想が無く、仕方がないやりとり以外は知らん顔だが。


「八田!今日も可愛いじゃん!」

「おお!八田おはよっす!!」

「おっはよ〜!今日もみんな元気だね〜!夜夢ちゃんも元気だよ〜!!」


 そして、もう一つは夜夢だ。

 夜夢を囲むのは男ばかりで、女性は皆無である。

 距離は近いが、夜夢に触れるヤツはいない。


 そして色々なヤツに声をかけられるが、名前で呼ぶ者もいない。


 というのも、学年カーストトップ(笑)の奴らが以前に、夜夢を名前で呼んだり、肩なんかに触ろうとした時、夜夢が真顔で「勝手に触るな」「名前で呼ばないでくれる?」と言ったらしく、その時の雰囲気があまりにも恐ろしかったらしいのだ。


 二人共、それぞれの学年の人気者でもある。


 まぁ、この学校には他にも何人か人気のあるヤツはいるけどな。


 例えば、生徒会長。

 眉目秀麗で成績優秀な女性。

 全てを見透かすような目を持ち、文武に渡って大活躍している。

 

 例えば、後輩の女の子。

 物静かな巨にゅ・・・スタイルの良い妹系として人気だ。

 男は苦手と公言しており、親しい男はいないと言われているようだ。


 そして、例えば、同級の転校生。

 留学先から帰国し、性格もハキハキしていて、男女ともに人気である。

 顔立ちも日本人離れしているハーフだが、日本語は完璧であり、いつも人に囲まれているらしい。


 まぁ、俺には関係が無い。


 俺については、今日も今日とて、特に取り巻きも無く、教室まではポツンと一人。

 教室についてからはぼっち・・・では無い。


 話すヤツはいるし、それなりに馬鹿な事も言いあう奴もいる。

 仲が良い友達、と言えるまではいかないが。

 だって休日に会ったり遊びに行ったりはしてないし。


 だが、それで良い。


 あまり深入りされてボロが出るのも困るし。


 ・・・はぁ、これまでの生い立ちが本当に恨めしい。

 なんで俺だけこんな苦労をせねばならんのだ!!


 あ〜・・・めんどうな事を全部忘れられたら良いのに・・・


 そんな風に考えていたからだろうか。


 それは放課に廊下を歩いていた時だった。


 「お~い、斬来~!次、急遽移動教室だってよ~!」


 クラスメイトが俺に手を振り教えてくれた。

 ありがてぇ、知らなかったら一人で教室でポツンとしてたところだぜ。


 なんて考えながらテクテク歩いていたのだが、


「キリキ・・・・え・・・嘘・・・零士・・・?」


 突然名前を呼ばれた。

 その方向を見ると、俺を凝視している女が居た。

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