第5話

「神様もいい加減飽きてるんじゃないの。たまには、新しいのが見たいんじゃないのかな」

 坂木さかきさんに、美大で新作能をつくる話をしたら、どうせなら近くの神社の能舞台でも借りて奉納すれば良かろうという話になった。

「結構、大人になってから気付いたのだけれど、幼稚園から小学校の七年間、神社の前夜祭にダンスを奉納させられていたんだよね。学年ごとと子供会と二つ。昼のうちにね」

 神社の一部は広場になっていて、後ろには御神木の大銀杏がある。普段は根の周囲が柵で覆われている。祭の時にだけ、芝生になっている所に座ることができる。

 元々の坂に沿って、まっすぐな石段と、曲がった階段、車道として舗装された道とがある。社殿の前は、テラスのようになっている。

 大して人も住んでなかろうと思われるのに、祭の日だけは、数百人は集まる。さながら、円形劇場である。

「まあ、演じるほうも見られてナンボだよね」

 坂ではないし、能舞台だから、観客の視線はほとんど半分である。神社の関係者に話したら、簡単に承諾してもらえたのだった。

 新作能の元ネタは、谷川俊太郎『二十億光年の孤独』から「かなしみ」を指定した。さすがに、一週間で仕上げねばならぬので、お題を完全フリーにされても困るだろうとのおうお先生からのアドバイスによる。

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