第4話

 さて、夏休みの宿題である。

 昔、美大でお世話になったおじいちゃん先生に、「私の死後、後任は是非とも京終蜜きょうばてみつ君にお願いしたい」と書き残されてしまったのである。これ幸いと、大学の関係者は依頼にやって来たのだった。もちろん、話し合いの席には、おうお先生が居た。

「教授なんて名のつくものになったら、将来、学長にされてしまう」と言って、おうお先生は断固「准教授」の就任を拒否した。

 まあ、正直、こちらも研究室を貰っても困るのである。

 けれども、次期学長に推されているらしいと気付いていないのは、おうお先生だけなのである。

 結果、僕は「特別講師」を任された。

 僕が受け持つ講義は二つだけである。一つは、新入生向けの必修のもので、これは毎回講師が変わる。自分の専門はこういうもので、こんな講義をやっていてと、まあ大学四年間の学問のガイダンスである。僕は適当に、代表作を紹介して、夏休みにたったの一週間で二単位が取れますよと予告してから終わるのである。

 おうお先生と僕は、横着した。

 課題は、「一週間で新作能をつくること」である。

 何をとち狂ったのか、黄檗英人おうばくえいとことおうみ君、おうお先生の一人息子は理学博士になろうとしている。しばらく、学生なので、夏になれば夏休みがある。能の師匠らにも相談したら、「面白そうで、大変よろしい」とのことだった。あわよくば、未来の「古典」ができるかもしれないとの腹積もりだったらしい。

 結果、発表会にはプロの能楽師がゾロゾロとやってくるのである。

 うん、学生には黙っておこう。


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