第3話 何かと約束
当然、二人ともそこそこいい年なので、息が切れる。息を整えてから、京終蜜が言った。
「あの…。傍目から見たら、おじさん同士の追いかけっこですよ? どうしたいんですか?」
「君が逃げるからだろう」
つん。
「ええ!? 小学生の鬼ごっこばりに追いかけてくるの、そっちですよね?」
そして、毎回、僕に捕まるのである。年下のくせに。
「君、そんなことでは、すぐ誘拐されてしまうよ?」
「はい、よく言われます」
改めて、全身を眺める。顔は可愛いが、ヒョロヒョロである。
「ああ…。うちの子みたい。心配だなあ…」
そりゃあ、血縁関係なので、似ているのは当然ではある。
さすがに、一卵性双生児という訳にはいかないが、ちょっと人の見分けがつきにくい存在には同一視されてしまうのではないかという危惧があるのだ。
「で、
「いや、ですから、僕は
何かイラッとしたので、軽くビンタしてやった。
「痛い!」
涙目。くう…。
「言っておくがな、貴公とうちの子は、叔父と甥だからな?」
貴公って、何だよ。自分で自分につっこむ。手首ガッチリガードのまま、引きずって歩く。
「何もしてないって言ってるのに…」
「うちの子が可愛くないのか!」
振り返って叫ぶ。完全に、頭のおかしなおじさんである。
暇さげな研究員に、町のカフェまで車で送ってもらった。
オレンジジュースとショートケーキ。成人男性には、阿呆みたいな取り合わせである。しかし、違和感がない。
「せめて、紅茶を頼めよ」
「あっ、紅茶はさっき飲んだばかりなので」
「ああ…」
オレンジジュースをストローで飲んでいる。普通に可愛いのである。
くっ…。どうせなら、息子とデートしたかった。頭を抱える。誘ったところで、「お母さんと行きます」と断られるのは目に見えているのだが。
「目、青いね」
「ああ、父も青いので。遺伝ですね」
あの美貌は、ぱっと見鬼と言われてもそうかと思えてしまえる。いや、でも、京終蒼の外見は、完全に神の象徴である。
「でも、普通、神様って世襲制ではないよな?」
ぽつりと呟く。うん? ただ、クラスにいる髪の毛が、灰色っぽかったり、栗毛だったり、その部類なのか。
「君、昔、何かと約束なんてしなかった?」
「『何か』ですか? 『誰か』じゃなくて?」
ああ、あるのだなと悟った。
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