第4話 ブラックコーヒー

脚本が無事完成したので、私以外の部員が忙しくなった。


優しい連中なので、私に意見を求めてくれるけと、演技や裏方のことは良く分からない。放って置けばいつもそれなりのクオリティになっているので、私はニコニコみていれば良いんだ。

そうしているのにも飽きてきたので、自販機に向かう。


自販機は良い。

人間の店員と違って接客にハズレがない。

怒っているのかと不安になる店員から買うより、無機質でも、誰にでも平等に商品を出してくれる自販機の方が私は好きだ。


ラインナップは見なくても分かるから、道中で何を買うか考える。


(缶コーヒーかカルピスだな)


割と難しい二択だ。

うーん。

軽く唸りながら歩いていたら、知った顔を見かけた。

摩耶ちゃんだ。


「おーい」


俯いて歩いていたら摩耶ちゃんは、不安そうに顔を上げる。相手が私だと分かった途端、ニコニコ笑って駆け寄ってくれる。


「桜ちゃん、お疲れ様です」

「あ、お疲れ様です」


同級生に礼儀正しくされたことに、くすぐったさを感じながら、私も返事をした。


「摩耶ちゃんは、また図書室?」

「うん。ちょっと自動販売機に飲み物を買いに」

「私も私も。一緒に行こ」

「うん」


摩耶ちゃんとの会話にはストレスがない。攻撃的なことも難しい話もしない。

人によってはつまらないと感じるらしいが、この刺激の無さが好きだ。


「ねぇ。缶コーヒーとカルピス、どっちが良い?」


なんともテキトーな質問だと我ながら思う。良いってなんだよ。


しかし、摩耶ちゃんはノータイムで答えてくれた。


「んー。桜ちゃんが飲むなら缶コーヒーで、私が飲むならカルピスかな」

「なんで?」

「缶コーヒーは格好いいイメージで、カルピスは子供っぽいイメージがあるから」


格好いいイメージ。

私に?

照れるなぁ。

缶コーヒーって言っても、甘いやつなんだけど。


「そっか。じゃあ、お互いそうしよ?」

「うん」


自販機に着いて、缶コーヒーのボタンを押す際、いつも飲んでいる甘いやつではなく、ブラックのボタンを押してしまった。


「桜ちゃん、ブラック格好いい」

「えー」


摩耶ちゃんはお子様だなぁみたいな顔をして一口飲む。


苦っ。

こんなもん、よく飲む奴いるな。


しかし、一度格好つけてしまった手前、今更引き下がれない。


帰り道もチビチビ飲んだけど、完飲できる気がしない。


摩耶ちゃんに別れを告げて演劇部室に戻る。


「うわーん!ぶちょー!」

「人をアンパンマンみたいに呼ぶな」


私が知る限りもっとも大人っぽいカナ部長に泣きつく。


「ブラックコーヒー、代わりに飲んでください」

「なんだ、間違えたの?気をつけなさいよ」


平然とグビリと一気飲みするカナ部長。


「そ、そんなスポドリみたいに・・・」


化物か。


「ハイハイ。で、脚本のことで聞きたいことがあるんだけど・・・」

「はい!なんでしょう?」


仕方ない。ブラックコーヒーを飲んでもらったお礼に、ちょっとは自分の意見を出してみるか。


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