第3話 面白いことを言う

「休み時間に本を読んでるタイプじゃ、絶対ないんだけどなぁ」


昨日から読み始めた大好きな小説家の新刊を読んでいたら、杏奈が声をかけてきた。

本を閉じて友達との会話に移行する。


「まあ、私、馬鹿だからなねぇ」


通信簿を見せる度にお母さんに鼻で笑われている。


「うん。それもそうなんだけど」


否定してくれないんだ。

ちなみに、杏奈は毎日バレー部の練習を遅くまでしているのに、成績も良い優等生だ。


「桜って、ウチらのグループにもテンションを合わせてくれるでしょ?ものすごく盛り上がった5分後に静かに本を読んでるのを見ると軽くビビる」

「そりゃ、どっちも楽しいから」


読書も友達との会話も、どちらも楽しい。

そこに優先順位はないし、つける必要もないと思っている。


「ハハっ。このクラスで一番自由なのって桜かもね」

「ありがとー」


なんか褒められたのでお礼を言っておく。

そのタイミングで2時限のチャイムが鳴る。

杏奈が自分の席に戻り、相川先生が数学の授業を始める。


10分経過。

ふむ。

分からん。

黒板に板書された数字の羅列が呪文に見えてきた。


「はい。この問題分かる人〜」


クラスの3分の2が挙手をする。

こいつらマジか。

授業に真面目に取り込みすぎだろ。

こうなってくると、休み時間に本を読んでいる桜ちゃんが手を挙げないわけにはいかないだろう。

20人はいるんだ。わざわざ私を指名しないだろう。

恐る恐る手を挙げる。


「お!桜!いけるのか!?」


相川先生が嬉しそうにそう言う。


「お、おぅ・・・」


先生相手に友達に対する男子みたいな返事をしてしまった。


・・・ヤッバー。


なんせ、正解を辿り寄せる蜘蛛の糸さえない状態だ。

間違えることさえできない状態で、どう戦えば良い?

脳をフル回転させる。


「・・・」


笑いをとって有耶無耶にするしかない!

ダウンタウン様!私に笑いを分けてくれ!

何か一言で面白いことを言うんだ!


「・・・桜、どうした?」


相川先生が心配そうに聞いてくる。

クラスメイト達も、ザワザワしている。

大丈夫。この程度の逆境、ダウンタウン様がついている私にはへでも無い。

さあ!抱腹絶倒の私のボケを聞けぇ!


「・・・3」


「・・・違います」


渾身のシュールなボケは滑り散らかした。

\



休み時間、あの地獄のボケはなんだったのかを、友達全員に問い詰められた。


「お笑いを舐めるな」


私の心の葛藤を説明を聞いたお笑い好きの杏奈に怒られた。

ダウンタウン様、すみませんでした。

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