第2話 お母さん

朝ごはんをしっかり食べれる体質に育ててくれたことにお母さんに感謝したい。


小学生の頃、私の身体は丈夫とは言えなかった。

体調が優れなく、体育の授業を度々見学していた結果、イジワルな男の子達にサボりだと責められた。

その時に庇ってくれたメンバーとは、今でも仲良くしている。みんな良い奴で、一緒にいて心地いい。


ちなみに、お母さんは変に「立ち向かえ」みたいなことは言わずに、健康に良いとされる食事を提供してくれた。


我が家の食事事情はスパルタだった。私は特にトマトが苦手だったけど、頑なに食べない私をお母さんは諦めなかった。

お母さんの勝利が確定したのは、トマト鍋の時だった。


「トマトを鍋にする意味が分からない!」

「分かる!」

「分からない!」

「分かる!」


そんな、発展性のカケラもない言い争いをお父さんが止めてくれて、仏頂面で食卓についた。

ただでさえ食感が気持ち悪いトマトを液体にぶち込んだら、さぞ地獄になっているに違いない。これから死地に向かうレベルの覚悟を決めてお箸を伸ばした。


「・・・」


黙ってもう一口食べる。

もう一口、もう一口、もう一口。


「カッカッカ」


この変な笑い声はお母さんだ。バラエティ番組で笑っている時はまだ可愛いんだけど、ほくそ笑んでいる時は、吸血鬼みたいな声になる。


「分かったよ。美味しいよ」


そう言って、お箸を動かす。

そんなこんなで、神永家のトマト戦争はお母さんの勝利で終わった。

\



「桜!お弁当!」

「あ!ごめん!」

「今日は部活あるのよね?」

「うん!帰りは7時くらいになると思う!」


今日は日直だから早めに出なければならない日だったのに、目覚ましをいつもの時間に設定してしまっていた、うっかりさんこと神永桜です。


そんなうっかりさんの母親は、昨日の食卓で私がボソッと言ったその情報を覚えている、しっかりさんだった。


「桜。アンタ今日、日直なんでしょう?」


お母さんいわく幸せそうに寝ていた私に声をかけて良いものが躊躇ったらしい。


(こんなに堂々と寝ているということは、私の勘違いなのかしら?)

と、自分を疑ったそうだ。


「後で文句言われてもいいから起こしたら5秒くらいフリーズしてから飛び起きたから、間違ってなかったって安心したよ」


朝ごはんの、シャケのおにぎりとしじみの味噌汁を食べながらそう言われた。


「いつもすまないねぇ」

「それは言わない約束でしょ」


こんなくだらないやり取りができるのも、お母さんが起こしてくれたからだ。


「こんなんで、割と感動するお話を書けるのが不思議ね」


独り言っぽいから返事をしなかった。

いや、理由はそれだけじゃなくて、恥ずかしかったからだった。

声には出さずに心の中で呟く。


『それはね。お母さんが私を健康に育ててくれたからだよ』

「・・・はっは」


小さく笑ってしまう。

こんなキザなことほ、私が物書きとして成功して、2人きりでお酒を飲み交わしている時くらいしか言えないだろう。


私は今、17歳。

少なくとも、あと3年は言うつもりはない。

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