日常と百合、時々シリアス

ガビ

第1話 お茶くみ

「うわ、ビックリした」


部室に行くと、成海が床で寝ていた。


仰向けで。


一瞬驚いたけど、基本的にかまってちゃんの成海だ。放っておいて、いつもの席に座って、ノートパソコンを起動する。


今日で完成できたら良いな。

早く書きたいけど、年代物のパソコンなので立ち上がりが遅い。待っている間、暇だったので、未だに床でうつ伏せになって寝ている成海に声をかけてみた。


「成海ちゃーん、作家先生が来ましたよー。お茶を淹れてくださーい」


今の演劇部は私の脚本待ちなので、私以外は部室にきていない。でも、暇レベル10(MAX10)の成海は、やることも無いのに部室に来ては、私にかまってもらおうと変なことをしている。


初日は、黒板消し落としという可愛らしいものだったけど、徐々に、部品を全て逆さまにしたり、カーテンをはずしたりと、変なことしかしなくなったので、「そんなに暇なら、お茶汲みでもしてなさい!」とやらせてみたら、案外巧かった。


「ちっちゃい頃から、お母さんに仕込まれた」

「マジか。じゃあ、お茶っ葉は私が買ってくるから、成海淹れてよ」

「いいよん」

という会話があった。

確かにあった。

なのに、今日も変な遊びは続いている。


未だに床に背中を預けている成海のオデコにデコピンする。


「あいったー」

やっと声を出した。


「そんなに痛くないでしょ。ほら、摩耶ちゃんにおすすめしてもらった良いお茶っ葉買ってきたよ」


最初はお母さんに聞こうとしたが、我が家で麦茶以外のお茶が出たことがないのを思い出してやめた。

そこでお鉢が回ってきたのが、同じクラスの小さくて可愛いお嬢様の摩耶ちゃんだ。


あの子のお家にお邪魔した時は驚いた。マジものの日本家屋だった。ヤクザの親分の家なのではいかと勘繰ったくらいの立派な豪邸で出してもらった名前の分からないお菓子は、あれ以来スーパーとかでは見ていない。


「本物のお嬢様がおすすめしてくれたお茶っ葉だから、間違いないよ」


ノロノロ起き上がった成海は、「そんな立派なものの味が桜に分かるかなー」と舐めたことを言いながら給水室に消えていった。


「ふう」


これで落ち着いて脚本が書ける。

あとは、ハッピーエンドにするだけだ。

\



10分ほどカタカタやっていたら、お茶が出来上がった。


「お上がりよ!」


少し前に流行った料理漫画の決め台詞と共に、成海がテーブルに置く。


「ふむ」


文豪気分で飲む。


「・・・」

「どうですか?先生」


ニヤニヤして聞いてくる成海。


「うん。あの、風味が爽やかで、良いね」


中身のまるでない感想に成海は、カラカラ笑う。

クソー、馬鹿にしやがって。

悔しいやら情けないやら、よく分からない感情になりながらも脚本を書く。

この天才役者にいつまでもお茶くみをさせるわけにもいかないから。

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