ここは薄暗く湿っぽい洞窟の中。静夜は意識が朦朧とする中、頭の中である警告が鳴っていた。


(出ていけ!!)


そんな危険信号を発するが思うように体が動かせない。いつの間にか手枷をはめられていたようで自由に身動きを取ることが出来ない。

「アハ………シ……」

洞窟の奥から不気味な青年の声が聞こえ振り返るとそこには姦姦蛇螺が立っていた。姦姦蛇螺の体からは悍ましいほどのどす黒い妖気が溢れだしているのに気が付いた静夜は思わず後退るが、壁に背中が当たりこれ以上逃げることが出来ない。

姦姦蛇螺はニヤリと笑いながら静夜に向かって手を伸ばしていく。

「やめろ……やめてくれ!!」

静夜は必死に抵抗するが手枷の所為で思うように体が動かず、迫り来る魔の手に頬が触れる。そのまま姦姦蛇螺は愛おしそうに頬を撫でる。

「ズ……」

「い、いや……触らないで……」

どんどん追い詰められていく静夜は目に涙を浮かべカタカタと震えだす。姦姦蛇螺はそんな怯える静夜の表情を見て目を細め嬉しそうに微笑む。その微笑みにゾクリとした感覚が背中を駆け抜け思わず吐き気を催してしまう。

(どうして、何もしてこないんだろう……)

そんな疑問がぐるぐると頭の中を駆け巡る。嫌な汗が止まらない静夜の顎をクイッと持ち上げた姦姦蛇螺は囁くように言葉を発した。

「シズ…………ヤ」

「どうして……どうして僕の名前を?」

「………ワカラナイ? カナシイ……」


「分からないって……何を言って……」

(あ、あれ……? なんで僕はこいつのことを知っているんだ?)


突然頭の中に流れてきた記憶。それはまるで走馬燈のように静夜の記憶が一気に流れ込み思わず頭を抱える。

「う……うぅ……頭が痛い……」

「……静夜」

姦姦蛇螺は静夜を優しく抱きしめ耳元で囁くように言葉を発する。その声色はまるで愛しい家族に囁くように優しく甘い。

「……オモイダシテ……僕ダヨ?」

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ」

突如襲いかかる頭痛と吐き気に悲鳴をあげた静夜はそのまま意識を手放してしまった。だが、姦姦蛇螺はそんなことお構い無しにギュッと力強く抱きしめる。そして愛おしそうに静夜の頬を撫でながらさらに言葉を紡いだ。

「シズ……ヤ…………僕ノ愛オシイ家族…………」

「テメェ何してやがる」

突如聞こえてきた声。姦姦蛇螺は声のする方へと視線を移すと、そこには怒りに顔を染めた京が立っていた。

「あ、アァ…………」

「そのガキから離れろ」

「ヤダ……僕ハ静夜トズット……イッショニイル……」

「いい加減にしろこのクズ蛇野郎が。消されてぇのか?」

京の言葉に姦姦蛇螺は肩をビクッと揺らし、無言のまま後ずさる。そして、まるで静夜に名残惜しそうに何度か振り返りながらもその場を去っていった。その様子を見ていた京は大きな溜め息をついたあと、頭をガシガシと書いた後に壁にぐったりと寄りかかる静夜に視線を落とした。

「……こいつは厄介なことを持ち込みやがって」

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