⑥
「おーーい! 静夜! いたら返事してくれ!!」
「静夜さーーん! いないんですか!?」
森を歩き回ること三十分。何度も何度も名前を呼びながら歩き回るが、手がかりひとつ見つけることができない。
「これだけ探してもいないなんて……」
森の中は静まり帰り、鳥の声はおろか虫の音も聞こえない。聞こえるのは森を抜ける風が草木を揺らす音のみ。
「お嬢。一旦コテージに帰ろう。輝と枢にも協力してもらったほうが……」
「おい。おまえ達。こんなところで、何してやがる」
突然かけられた声に振り向くと、鋭い眼光の青年が立っていた。
(どうしてこんなところに人が……?)
流架が口を開こうとした瞬間、李が手を握ってきた。僅かに彼女の小さな手が震えているのに気づき、安心させるように手を軽く握り返した。
「おい。人の話を聞いているのか? ここで何してやがる」
「ああ、済まない。ちょっと人を探していて……」
「人探し?」
「ああ、この森で、男の子を見かけなかったか? 俺と同じ灰青色の瞳をした男の子なんだけど……」
「知らないな。そんなやつ。ここらには人なんざ滅多に入ってこない」
「そうか……あんたこそ滅多に人が入らない森にどうしているんだ?」
「そんなの俺の勝手だろ! 早くこの道から出ていけ!!」
青年の地を這うような低い声にゾクリと背筋を駆け抜ける冷たい瞳。これはヤバいと思った流架は李の手を無意識に握りしめていた。
「分かった。今日のところは引き揚げよう……あんたも早くこの森を出た方が良い」
「大きなお世話だ」
捨て台詞を吐き、青年はくるりと流架たちに背を向けるとまた森へと続く道を歩き出そうと足を進めようとしたが中に立ち止まった。
「少年を探していると言ったな。今思い出した。そいつなら、青い顔しておまえたちが来た方向へ数時間前に戻っていったぞ」
「しまった。入れ違えになったか……ありがとな」
流架が青年の背中にお礼を言うと、彼は黙ったままひらひらと手を振った。完全にふたりの気配がなくなると、青年、
「おい。おまえが連れて来たガキを追って厄介なのが来たぞ。どうするんだ?」
リィン
「どうしたものかしらねぇ……あの子、姦姦蛇螺がかなり気に入ってしまって食べようとしないから勿体ないことしちゃったわ」
鈴の音と共に現れたら女性がふぅと溜め息をつきながら京の隣に立つ。
「まぁ、邪魔されないように結界は張り直す必要がありそうね」
「だな」
ふたりの声は森に吸い込まれるように溶けていった。
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