「兄ちゃん、静夜先輩……朝ごはん持ってきた……って何これ!?」

哉太はふたり分の朝食を乗せたトレイを持って部屋に入ると、床で倒れている明日磨に驚きトレイを机の上に置いた。

「兄ちゃん!? 兄ちゃんってば!!」

慌てて駆け寄り体を揺するが、明日磨はすぅすぅと寝息を立てている。

「いったいどうなってんだ?」

「それはこの札のせいだな」

「流架さん!?」

流架は明日磨の額に貼られたお札を見て、「やっぱりな……」と小さく呟いた。

「やっぱりって?」

「いや、この札は『麻酔札』と言って、貼られた人間は三日間眠ってしまう代物なんだ」

「何故それを静夜先輩が……?」

「多分俺が酔った勢いで静夜に渡しちゃったかもな。でも大丈夫! こうやって、ゆっくり札を剥がすと……」

そう言うと流架は明日磨の額に貼ってあるお札を剥がすと明日磨はゆっくりと目蓋を開けた。

「兄ちゃん、大丈夫!?」

「……うっ……ん……」

目を覚ました明日磨は頭を押さえて辺りを見回した。すると、心配そうに見ている哉太と目が合った。

「か、な……た?」

「俺だよ。大丈夫?」

「……あぁ、大丈夫だよ」

まだ頭が重いのか起き上がる明日磨を哉太が支える。流架はそんな二人を見て安堵した表情を浮かべた後、真剣な顔で口を開いた。

「ひとつ聞きたいんだが……静夜は?」

そんな質問に明日磨は目を見開き、「え……?」と小さく呟いた。

「まさか静夜の奴、この窓から脱走したのか……!」

見るとコテージの窓の縁に泥がついていた。それは、静夜が窓から外に出た証拠だ。流架は急いで窓を閉めると、コテージを飛び出して森に走って行った。

「流架さん!?」

「静夜探しに行ってくるから待ってろ!!」

流架はそう言い残して森に消えて行った。そんな様子を静かに見守っていた小さな少女、李。李は何かを察すると流架の後をついて行った。



◆◆◆



「静夜……いったいどこにいるんだ?」

流架は森の中を走りながらそう呟いた。

「しっかし、この山ってこんなに広かったか?」

「静夜さんの霊力を察知できますか?」

「いや、それが色んな物が混ざってて静夜の霊力まで察知できない」

「そうですか……」

「……ってなんでお嬢がここにいるんだよ!?」

いつの間にか流架の後をついて来た李に驚いた様子でツッコミを入れる。流架は「とりあえず、何か手がかりでも」と思い探していたがまさか、こんな山の中まで付いてくるとは思っておらずビックリした様子でその後ろ姿を見た。

「静夜さんのことが心配だからです!」

「いや、それは分かるけど……お嬢は危ないからコテージで待ってた方がいいよ?」

「……わたしは足手纏いですか?」

少し悲しげな表情を見せる李に慌てて否定する。

「いや! そんなわけないだろ!?」

「じゃあ、一緒に行きます」

「ダメだ!」

「流架さんは、女の子ひとり山の中歩いて帰れと言うんですか?」

「はあ……分かったよ。その代わり俺から絶対に離れるなよ?」

もう何を言っても聞かないと思った流架は李の同行を認めることにした。李が嬉しそうに微笑んだ後、ふたりは静夜を探しに森の奥深くへ進んで行くのだった。

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