夜の車内の笑顔

バルバルさん

だけど、なぜ……

 これは年齢はよく覚えていませんが、多分十歳にはなっていなかった頃の話です。


 詳しい時間は覚えていませんが、記憶の中の周囲の暗さなどから考えて、深夜の事だったと思います。


 僕が目を覚ますと、車の中に寝ころがっていました。暗い車内は何とも言えない不気味さで、車の前面の窓から入ってくる、薄暗い明かりが一層気味悪さをあおってきました。


 そして、そのまま後部座席の窓の外を見て、震えあがりました。


 僕が寝転がっていた車は車庫に入っていて、色んな農機具だとか、農薬だとか……まあ、農業用の物が雑多に置いてあったのですが、後ろは相当暗くて、その時は見えませんでした。


 外が暗いと、窓はよく僕の顔を映していました。


 それだけでも、当時の僕は相当怖かったのですが、その窓に映ったぼうっとした僕

の顔が、にやりと笑ったではありませんか。


 それがもう、怖くて怖くて……たまらず、車内から逃げて家に走ったのだと思います。そこら辺の記憶はあいまいです。


 まあ、今こうして文章を打っているので、無事帰って、無事に寝て、無事に朝を迎えたのでしょう。


 さて、10代後半までこの記憶は、恐怖の記憶として僕の中で中々整理が付けられなかったのですが、今は普通に「ああ、あの時はなんか窓の反射のせいで、にやりと自分が笑ったように見えたのだろう」と、整理をつけました。

 とはいえ、整理が付けられるまで僕の中でこの記憶は相当な恐怖であり、しばらく鏡のように自分の顔を映す物が見られませんでした。


 しかし、それでも整理できない謎が一つ残ってしまって、なんとも気味の悪い思いを抱いています。




 何故、当時の僕は暗い車庫の車の中に寝ころがっていたのでしょう?




 僕の親はそんな風に、寝ている子供を車内においてどこかに行くような人ではなく、また僕も、怖いもの大嫌いなのでそんなところに一人いるわけは無く。


 なぜ、当時そんな場所にいたのか?


 その答えが、今も見つかりません。


 夢と断じるには、あまりにも、あの笑顔は生々しく記憶に残っている。

 現実だと断じるには、その状況が異様に感じる。

 答えなど出さなくても良いですが、やはり気になる物で。



 僕は、何故車内にいたのだろう?

 今も、悩んでいます。

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