第12話 国難 国境確定

近未来社会派小説


 外務大臣の村田の大きな仕事は、国境の確定であった。北のR国・西のK国・南のC国との交渉に日々明け暮れていた。

 まず前進したのが、西のK国であった。ここはK国近くの歴史的には日本の領土であるA島をK国が実効支配をし、軍隊の無線基地を設置している。第2次世界大戦後にK国元首がRラインを設定し、A島を自国領土として支配したのである。戦後の混乱期で、日本側は抵抗を示すことができなかったのである。

 そこで、村田は飯田と次のような話し合いをもった。

「総理、A島を奪還したとしても、K国との争いがずっと続くだけです。それよりは、他の案件を含めてK国と交渉して、全てをチャラにするということではどうでしょうか?」

「慰安婦問題や強制労働を追求しないという確約を得られれば、充分国益につながるね」

「もうひとつ、日本国内にあるK国人による不動産所有を認めない。すでに所有している場合は、売却をする条件をつけさせます」

「対馬にあるK国人所有の不動産のことですね」

「そうです。このまま野放しにしていたら、対馬もK国領と言われかねません」

「確かに・・・そうなると、K国内の日本人所有の不動産も手放すことになるのでは?」

「K国に進出している日本企業の多くは、賃貸契約を結んでいますので、さほど問題にはならないでしょう」

 飯田内閣の3年目は、まずK国との交渉でまとまった。A島譲渡ということで、右翼連中が騒ぎ、村田外務大臣が暴徒に襲われるところだったが、警備当局の手際のよい行動で鎮圧された。慰安婦と認定された方や強制労働の対象者にはK国政府から相応の見舞金が支給された。もちろん、それは日本から送られた基金から出たものである。K国の慰安婦少女像も撤去され、毎週水曜日に実施されていた日本大使館前でのデモもなくなり、K国との交流は正常に戻っていった。

 次は、C国との交渉である。

 当初、C国は日本との領土問題は存在しない。という姿勢を見せていた。しかし、国連の安全保障会議で、日本からB諸島付近でC国が領海侵犯をしているという事実を突きつけられ、領土問題があることを認めざるをえなかった。これはT島近海のC国の動静を注視しているA国のバックアップもあって、安全保障会議の議題になったのである。

 ここで、日本側は衝撃的な提案を行った。それはB諸島を国連の管理下におこうという提案である。人が住むのは難しい険しい崖が多い土地で利用価値は少ない。大事なのは、海域の漁業権である。国連管理下になれば、島の周囲は公海となるので、漁業権が消滅するわけではない。むしろ、C国の軍艦を気にして操業するよりは安心していられるというメリットがあった。

 この提案に対して、C国側はある条件を出してきた。それは国連軍の駐留である。その国連軍を日C国混在で構成しようというのだ。このことは国連大使だけでは決定できないので、村田外務大臣が総理に相談にきた。

「C国はなんと言ってきているのですか?」

「双方、一個小隊を駐留させてはどうか? ということです」

「職務の内容は?」

「無線とレーダー監視です。基本的に攻撃施設は設置しません」

「手持ちの武器はありか?」

「ありでしょうね」

「施設は共用ですか?」

「いいえ、別個にしたいと言っています」

「それではだめだ。別にしたのでは、縄張り意識が出て、友好にはならない。それに非常時に破壊されたのでは話にならん」

「共用でやっていけますか?」

「共用でなければ意味がない。二国間の友好をここから始めるんだ。ということを強調して交渉してください」

 安全保障会議では、二転三転しながらも、ほぼ日本側の交渉どおりとなった。C国としても日本やA国の動向がうかがえるというメリットがあるので、プラスと考えたのだろう。日本にとっても、C国人と交流できることは、彼らを理解するメリットができるし、何といってもB諸島付近を巡視船でパトロールする必要がなくなり、与那国島や石垣島周辺のパトロールにシフトできるのは大きなメリットとなった。A国としてもC国のT島侵攻がなければ何も手だしをする必要はない。この国連軍の駐留はA国にとってもプラスとなったのである。


 さて、問題はR国との北方領土問題である。この件も国連の安全保障会議で議題に上げようとしたのだが、R国は日本と平和条約を結んでいない。未だに、戦後の状態と同じだということを主張し、全く交渉にのってこなかった。

「村田外務大臣、R国はどうですか?」

「のれんに腕押し状態です。全く相手にしてくれません」

「だろうな。しかし、北方四島をこのままにしておくわけにはいかない。前田官房長官、何かアイデアはないか?」

「K国みたいに譲渡して、他を得るということはできませんか?」

「何を言う? A島と北方四島では価値がまるで違う。それに他を得るといっても、他に何があるのだ!」

「そうですよね。資源豊かな北方四島を手放すわけにはいきませんよね。もし、そんなことしたら総理も外務大臣も命を狙われますね」

 しばし、沈黙が流れた。そこに村田外務大臣の秘書がメモをもってきた。国連大使からの連絡で、(R国、共有で妥協しないか)ということが書いてあった。

「国連大使からです。R国が共有で妥協しないか。と言ってきたそうです」

「共有って、今ではR国人が全て土地を所有しているじゃないですか!」

前田官房長官が呆れた顔で問い詰めた。だが、飯田が助け船をだした。

「いや、そうでもない。一番近いD島は軍の管轄で、個人の土地はないはず。またE島やF島といった住民がいる大きな島でも、土地を売りたいという人はいるけれど、なかなか売れないと聞いたことがある」

「それならば日本の資本を入れて、活性化を図ろうというねらいですね」

 二人のやりとりを聞いて、村田外務大臣が口を開いた。

「そんなところでしょう。R国には北方四島を開発する余力はありません」

「前田さん、北海道とE島の距離は?」

「およそ25kmです」

「青函トンネルより短い?」

「そうですね。トンネルを掘れば・・」

前田はニコッと微笑んだ。

「村田さん、光が見えてきましたよ」

「共有で、トンネル工事を認めさせることですね」

「村田さん、よろしくお願いします。この案ならば現地在住のR国人も歓迎するでしょう」

 この後、紆余曲折があったが、飯田内閣4年目にはR国との交渉がまとまった。トンネル工事が完成するのはだいぶ先のことだが、フェリーで自由に行き来することができるようになって、墓参団の多くが訪問を果たしていた。不動産売買も活発になり、日本の不動産業者も進出するようになったのだ。

 R国も日本との平和条約締結交渉に前向きになってきたのが、最大の効果だった。

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