第11話 国家営業部

近未来社会派小説


 官房長官の前田は、財政改善のための秘策を日頃から考えていた。税金以外で、何とか国庫をうるおすことはできないかと思っていたのである。そこで、ある秘策を携えて飯田総理に提案した。

「総理、国家戦略として、流通のハブ化をすすめたいのですが・・」

「ハブ化? どういうことですか?」

「今、アジアでの飛行機のハブ空港はK国です。日本からも地方空港からK国に飛び、そこで乗り換えて東南アジアやヨーロッパに飛んでいます。しかし、今K国は経済危機で航空会社も瀕死の状態です。そこで成田空港をハブ化して、アジアの中心としたいのです」

「しかし、成田は目いっぱいだと聞いているが・・」

「二つの問題をクリアすれば可能になります」

「二つの問題?」

「一つ目は空港の24時間化です。今は夜間の離着陸ができませんが、地方自治体や地域住民からは容認の動きが出てきています。相応の補償は必要ですが、可能性は高いです」

「もう一つの課題は?」

「例の滑走路の中心にある反対派の地権者の土地です」

「あーあれね。あれで、ずいぶん遠回りさせられているんだよね」

「その地権者が最近話し合いに応じる姿勢を見せているそうです。解決に結びつくかもしれません」

「時が解決してくれるか・・」

「ただ懸念がひとつあります。発着枠を増やすためには、滑走路がもう1本いります」

「作るのに時間がかかるな」

「そこで、当分の間は国内線を羽田に集約し、羽田から成田へのシャトル便を飛ばせば、国際線の発着枠を確保できます」

「1時間に1本のシャトル便があれば、充分できるな。外国で乗り換えるのにモノレールで30分もかかることを考えれば、許容範囲だな」

「それと貨物船のハブ化を進めたいと思っています」

「それはシンガポールにかなわんだろう」

「現実はシンガポールの牙城です。しかし、K国のP港にも貨物船が集中してきています。その分だけでも日本にもってこれないかと考えています」

「候補は博多か?」

「さすが総理。博多は国際港としての機能を充分もっています。後は、利用料金の見直しとソフト面の充実を図ることです」

「ソフト面というと?」

「主にアフターサービスと区分けのスピードアップです。コンテナ管理では、すでに好評を得ていますので、それを大きくアピールしていきたいと思っています」

「確かにチャレンジする意味はあるな。国土交通大臣と詰めてみてください」

「了解しました。国家営業部の活動を開始します。うまくいけば、がっぽり入ってきますよ」

「取らぬ狸の皮算用にならないようにな」

 官房長官は自分の考えが総理に受け入れられたので、意気揚々と部屋を退出していった。

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