第9話 税制改革
近未来社会派小説
財務大臣の千葉は、1年間かけて国民の税に関する意識調査を行った。
外国の例をあげて、税率50%の所得税の有無を調査した時には、さすがに賛成意見は得られなかった。だが、最高税率20%までの所得税であれば理解は得られると千葉は感じていた。
「総理、官房長官。税制の骨格がほぼ固まりました」
「待ってました。税制が変わらないと他の施策がすすまない。総理、いよいよですね」
「千葉さん、お疲れさまでした。確かに、今までは守りの政治でしたが、これからは攻めの政治ができます。それで、どういう内容ですか?」
「まず所得税ですが、年間総額所得100万円未満の場合は1%、そこから100万円ごとに1%ずつ増やします。200万円未満は2%、500万円未満は5%、1千万円未満は10%、そして1千万円以上は最高の20%になります」
前田官房長官が千葉の発言に反応していた。飯田はうなずきながら聞いている。
「低所得者でも納税できる率ですね。問題の必要経費は?」
「原則廃止です。自営業者に対しては、原材料費・輸送費・光熱費・従業員給与を差し引いた純利益を総所得として計上してもらいます」
「社長がバカ息子にスポーツカーを買い与えることは?」
「車両の経費は認めません。ただし、営業車両の購入については補助金で対応し、100万円限度で半額補助とします。もちろんスポーツカー購入に補助金はでません」
「お医者さんの往診用の車も同様ですか?」
「そうです。もちろん往診の実績のない医者には補助金はでません」
「法人税は?」
「法人税も同様です。問題は設備投資です」
「それも補助金ですか?」
「そうです。1億円を限度に半額補助とします。これで無駄な設備投資は少なくなります」
「結構、補助金の割合が増えそうですね。大丈夫ですか?」
「所得税や法人税だけでは足りません」
「それ以外にも改革をするのですか?」
「はい、まずは空き地・空き家対策です」
「持ち主の不明な空き地がたくさんいるのに、どうやって?」
「そこです。持ち主不明の空き地・空き家を国もしくは地方自治体が無償で買い取って整地を行い、その上で有効活用、または売却をするのです」
「田舎の一軒家が多いぞ」
「何も全てをすぐにするというわけではありません。使えそうな土地から始めればいいのです。例えば、温泉街の入り口にある廃ホテルを解体し、そこに道の駅を作れば観光客が増え、温泉街もうるおいます。今は強制代執行をやっても、その費用負担をだれがするかでもめています。それを公的機関がすればいいのです。役所にもアイデアが求められます」
「固定資産税を納めている空き地や空き家は?」
「税をおさめているなら、そのままで結構。ただ処分したいのであれば、適正な価格で買い取ります」
「民業圧迫になりませんか?」
「民間より高い価格で買い取りはしません。民間に見放された場所だけになるでしょうね」
「それならばペイできるな。これなら環境美化にもつながるな。それと相続人が多い空き家はどうなりますか?」
「結構そういう空き家が多いんですよね。そのほとんどが固定資産税が納められていないことが多いんです。この件については、買い取り広告を出し、申し出があった相続人から買い取ります。もちろん未納の分の固定資産税を納めてもらってからですが」
「それだと、だれも申し出がでないのでは・・?」
「でしょうね。持ち主不明の空き家と同じようなケースになると思います」
「話題になっているごみ屋敷はどうなる?」
「固定資産税を納めているならそのままですが、未納となれば買い取り対象になります。ごみ処理費用はそこから差し引きます」
「他にも新しい税がありますか?」
「はい、独身税です」
「独身税!」
官房長官は、素っ頓狂な声を出した。
「少子化対策大臣の大貫さんからも要望がありました。30才を越えた独身者は所得税率を倍にします」
「倍とは思い切った率ですな。年収1千万円以上だと40%か! これはすごい!」
「そうでもしないと、少子化対策は前進しません。教育の無償化も同様です」
「いいんじゃないの。それぐらいのインパクトがないと、日本中独身者だらけになってしまう」
うなずいていた飯田は、千葉財務大臣のアイデアに感心していた。しかし、前田官房長官は懐疑的で、
「一度結婚して離婚した場合は?」
「もちろん独身税の対象です。ただし、子どもがいる場合や死別の場合は対象外とします」
「別居している場合は?」
「それも対策済みです。別居税というのを考えています。個人的な理由で別居している場合は、独身税と同様の税率がかかります」
前田はやっと納得の表情を見せた。
最後に飯田は肝心な質問をした。
「この税制改革で税収はどのくらい伸びますか?」
「はい、見込みでは20%増しと踏んでいます」
「妥当な数字ですね。極端な増税では国民から反発がでます。しかし、独身税にはまいった。なぁ、官房長官」
「さすがに、そこまでは私も考えつきませんでした。後は国会対策ですね」
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