第8話 教育改革 

近未来社会派小説


 飯田内閣が2年たち、さまざまな政策が実施されるようになった。教育大臣の小嶋も4月からの新しい学校制度の実施に向けてバタバタしていた。秘書相手に確認の日々だった。

「20人学級の準備は大丈夫?」

「95%の学校が準備完了です」

「あとの5%は?」

「新興住宅地で4月の転入生が増えそうな学校があって、なかなか学級数が確定できていません」

「見込みより多くなった場合はどうするの?」

「教室はプレハブで対応できますが、問題は教員の確保です。20人学級の導入で、昨年度多くの教員を採用したので、講師になりそうな人材が極端に減っています」

「講師って非正規雇用でしょ。総理からは非正規雇用を極力増やさないようにって指示がきているのは知っているでしょ」

「しかし、現実的には・・・?」

「こうなると総理の言われていた奥の手を使うしかないか?」

「奥の手とは?」

「プロ野球でいうと無償トレードよね」

「トレード?」

「他の官庁や役所から期限付きで異動してもらうのよ」

「それでトレードですか? 教員免許はどうするんですか?」

「中学校の教員免許をもっていれば、臨時免許で小学校でも教えられるわ。中学校の教員免許をもっている公務員は多いでしょ」

「確かに・・・でも、集まりますかね?」

「頼りは防衛省よ。有事の際は防衛省に戻るという条件なら相当の人材が確保できるわよ」

「確かに・・・大臣はすごい」

「総理の発想よ。ところで給食の無償化は・・?」

 給食の無償化・サポートスクールの設置といった政策が次々と実施されていった。が、肝心の教育の無償化がまだだった。その財源の裏付けとなる税制改革がまだだったからである。


 4月からの見直しのひとつに小中学校の部活動の見直しを打ち出していた。

 簡単に言うと、部活動の地域移行である。そして、過度な部活動を抑制するために小中学校の全国大会を中止し、中学校は地方大会まで、小学校は都道府県大会までという制限を行った。

 当初は、各競技団体から底辺の拡大がはかれない。世界大会にでる野球やサッカー団体からはチーム編成をどうするのかと苦情がきたが、小嶋は

「U14やU12といったチームは各都道府県から推薦されたメンバーで、セレクションをすればすむこと。何も多額の費用をかけて全国大会をする必要はないと思うわよ」

と押し切った。各競技大会はしぶしぶ従うしかなかった。

 部活動の見直しは学校現場に混乱もあったが、時を経るにつれて、好意的に捉えられるようになった。なんといっても教員は経験のない部活動の担当をしなくていいのである。部活動の指導をしたい教員は、地域のスポーツ団体に所属して指導にあたることが認められていた。大会の数も制限されたので、土日の休みも確保されるようになったのである。

 昨年までは週に6回練習。大会参加1回と毎日部活動の日々だったが、今年からは週に3回の練習と大会参加1回に減り、休みの日が増えた。

 それに、部活動の担当にならなければ一切関わらなくてもよくなったのである。これまでは部活動によって、人間教育をするという目標があったが、その役目を教員だけに負わせることは難しい時代になってしまった。

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