第7話 世界恐慌の危機 C国K国でバブル崩壊

近未来社会派小説


 円安危機を乗り越えたのも束の間、またまた経済危機が襲ってきた。C国の経済の低迷からマンションが売れなくなったのだ。それに連動して、隣のK国でも新築マンションが売れなくなった。どちらの国も、好況の景気にささえられて高級マンションブームが起きていたが、売れなくなると一気に景気が後退していったのだ。

 K国からは、1億円ほどのマンションが1ケ月で2割ダウンしたという情報が入ってきた。K国駐在大使の浅野と飯田はネットで情報交換を行った。

「大使、そちらはどのような状況になっていますか?」

「富裕層が騒いでいます。一方で市民はマンション価格が下がったと喜んでいる人もいますよ」

「マンション価格の下落だけでは済まないのでは?」

「そうですね。通貨のWが安くなり、輸入品を含めた物価が値上がりしています」

「金融不安はどうですか?」

「取り付け騒ぎが起きないように気をつけているようです。でも、こちらでは一旦火がつくと燃え上がる国民性なので、どこかの銀行が危ないと風評が出れば、一気に取り付け騒ぎが起きても不思議はない状況です」

「為替はW安になっていますが、株式はどうですか?」

「建設会社をもつ財閥系の株が下落し始めていますね。この傾向が止まらないと、日本にも飛び火しそうです」

「問題は財閥系企業が耐えられるかになりますね」

「政府はあたふたしているだけです。元々は、C国のせいだと逃げの姿勢です」

「いつものパターンですね。また反政府デモが起きそうですね」


 C国の駐在大使の新山との情報交換は、もっと深刻だった。

「大使、そちらの状況はどうですか?」

「今日、首都で暴動が起きました」

「暴動? 〇〇門でですか?」

「そうです。〇〇門事件の再来です。すぐに警察当局に鎮圧されましたが、この火種はC国各地に飛び火しそうです」

「暴動の原因は何ですか?」

「最初は、マンションの購入費用を出したのに、マンションが建たなくなった人たちの不満によるデモだったんです。それに、政府のコロナ対策に業を煮やした人たちが加わり、警備の警察官に投石を始めたのです。そうなると、もう止められません」

「鬱憤がたまっていたんでしょうね。金融関係はどうですか?」

「全ての銀行で出金制限を始めました。1ケ月で下ろせる金額は預金の10%までということになりました」

「まずいですね。C国で始めると、その影響下にある国も右ならえになりますからね」

「そうですね。東南アジアやアフリカの国も右ならえしそうですね」

「R国はどうですか?」

「C国とR国はつながっていますから、あり得ますね。R国は戦争の影響で経済はメチャクチャですから、よけい深刻かもしれません」

R国とU国は現在休戦状態になっていた。EUを主体とした国連軍が休戦ラインに配備されて、双方が武力衝突しないように監視を続けていた。日本も支援金だけでなく、地雷処理部隊を派遣していた。以前の国連軍派遣で、遅れをとった経験があったからだ。


 R国の駐在大使の木暮との情報交換は悲惨なものだった。

「大使、そちらの状況はいかがですか?」

「総理、経済はメチャクチャです。各地で暴動が起き、スーパーや商店が襲われています」

「だいぶ悲惨ですね」

「とにかく品物がありません。輸入品が入らないし、冬場で収穫も少なく、戦後処理がうまくいっていません。兵士に給料が払われていないということが原因のようです」

「駐在の日本人の生活はいかがですか?」

「戦争が始まって、8割の日本人が帰国したので、残っている人たちはわずかですが、今後外出禁止令をだすか、大使館への避難を呼びかけようと考えています」

「だいぶ深刻ですね。銀行は営業していますか?」

「窓口は閉まっています。ATMはやっていますが、1日に1万円ぐらいしか下ろすことができません」

「ぎりぎりの生活ですね。U国への再攻撃はありそうですか?」

「そんな余裕はないと思います。兵士への給料未払で軍部の信頼を失っていますから、政権を維持するのがやっとだと思います」


 飯田は、最後にA国駐在大使の尾山と情報交換を行った。

「大使、C国から始まった経済危機はそちらにどう影響していますか?」

「A国はC国との貿易や外交関係をあまり重視していないので、直接的な影響は少ないようです。しかし、C国以外の国からの経済危機の影響を受けますので、政府は不動産の売買を制限し始めました。1年間の売買禁止です。賃貸は認められているので、市民に大きな影響はないですが、A国は1年間で経済危機は終わると踏んでいるようです」

「そうでしょうね。1年はかかるでしょうね。物価はどうですか?」

「R国とU国の戦争が休戦状態になっているので、高め安定です。一時の不安が薄らいで世間は、次の大統領選挙に夢中になっています」

「どちらも新人の候補者が立ちそうですね。どちらが勝ちそうですか?」

「こればっかりは、予測できません。五分五分としか言いようがありません」

「今までの大統領選と同じですね」


 飯田は、各国大使との情報交換を終えると、前田官房長官・荒木経済金融大臣と懇談を行った。

「荒木さん、C国から始まった経済危機はどう影響を受けていますか?」

「C国からの輸入品がストップし始めました。ですが、C国依存の割合を少なくしてきましたので大きな影響はありません。心配なのは、不動産売買ですね。外国人所有の不動産が売りに出されはじめ、不動産価格が下落し始めました」

「官房長官どうする?」

「不動産売買については、転売時の価格を前後10%以内と制限していましたから、それ以上は下がりません。C国やK国のような暴落は起きないと思います」

「あの時は、値上げのことしか考えていなかったが、そう言えば値下げも想定していたんだったな」

「荒木さん、金融関係はどうですか?」

「銀行は平穏です。取り付け騒ぎは起きないでしょう。問題は株価です。一時的な下落はあるでしょうが、円高傾向にありますから時間が経てば落ち着くでしょう」


 荒木の予想どおり、株価の一時的な下落は見られたが、日本の経済が思ったより安定しているので、円高がすすみ、株価も復活していた。C国がらみの国々は経済恐慌に陥っていたが、A国を中心とする国々には大きな混乱は少なかった。

 落ち着いたころ、浅川防衛大臣が飯田を訪ねてきた。

「総理、うれしい知らせですよ。外国人の不動産所有が半分に減ったということです」

「そのようですね」

「特に、北海道にあったC国人の不動産は皆無に近くなったと聞きました。これで北海道の自然と水が守られます」

「北海道にミネラルウォーター工場を作って、C国に輸出するという話は?」

「なくなりました。今年一番の朗報です」

浅川の満面の笑みは印象的だったが、飯田は気を引き締めていた。

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