第4話 円安危機

近未来社会派小説


 飯田内閣の支持率は、当初48%の高い数値を示していた。非支持率が25%だから2倍の国民が支持をしていたということだ。

 ところが、1ケ月後には支持率が40%に下がり、非支持率が35%にはね上がっていた。その原因は急激な物価高だ。まず、ガソリンが高騰した。原油産出国の輸出制限が主たる原因なのだが、1年前は130円だったのが、今では170円台になっていた。当然ながら輸送費があがり、物価もはね上がったのだ。1年前に消費税を廃止し、物価が下がり安定していたというのに、下がった以上に全体の物価が上がってしまったのである。

 さらに、円安になった。原因は利上げをしない金利政策のため、外国人投資家が金利の高いアメリカドルを買い、日本円を売り出したからだった。それに加えて好調だった株価も下がり始め、2万円を切り、日々下がり始めていたのである。飯田は官房長官を呼び出した。

「官房長官、これはどういうことだ? 円安でも輸出企業は好調なのでは・・?」

「総理、アメリカの証券会社にいる友人の情報ですが、どうやら総理の選挙公約が保護主義と見られ、外国人の資産運用が制限されるかもしれないという風評が流れているそうです」

「アメリカの投資家はそこまで読むのか。その風評を何とかしないといけんな」

「思い切って利上げをしますか?」

「それはまずい。利上げをしたら、国債の償還金がはね上がる。それこそ国の財政危機だ」

「日本の魅力を世界に見せられればいいんですよね」

「日本の魅力?」

「まずは、インバウンドです。外国人旅行者が入りやすいようにし、ドルを日本で使ってもらうのです」

「それはいいが、C国人の旅行仲介業者を締め出さないと、C国人が吐き出すドルは、全て彼らに吸い取られるぞ」

「今、C国はコロナで出国禁止になっています。今のうちにC国人の旅行仲介業者が入り込めないような体制を作りたいと思います」

「インバウンドだけでは、円高にならないぞ」

「次に、100円ショップの商品の国産化です」

「今は、C国や東南アジアで作っているから安くできるんじゃないのか?」

「そうですが、今では原材料費や運送費・賃金も高くなり、外国で作るメリットが少なくなっています。そこで、日本で1ドルショップを作るのです。そうすれば100円の物を1ドルとすれば、150円で売れるわけですから、外国人は高く感じません。外国でも買える100円ショップの商品は、安かろう悪かろうのイメージですから、日本の1ドルショップには、いい商品が安いというイメージができると思います」

「そんなことができるのかね?」

「できます。今、町工場は不況にあえいでいます。その町工場に仕事を割り振れば可能です。たとえ2ドルになったとしても、いい商品を作りメイドインジャパンのシールがあれば売れます。皆、もうメイドインC国にはあきあきしているのです」

「労働対策にもなるな。工業大臣や労働大臣と協議しなけれれば・・・」

「もうひとつ、総理にお願いがあります」

「なんだね?」

「外国人の資産運用を制限しないと発表していただきたいのです」

「それは・・・・!」

「やはり、なさるつもりだったのですね」

「外国人の不動産投資を制限したいと思っていた」

「確かに、日本の土地を外国人に買い占められたら大変ですからね。でも日本の不動産は外国人にとって魅力ですよ。今はプチバブルですから・・」

「バブルがはじけた時の不況はもうたくさんだぞ」

「それでは総理、転売時の値上げを制限してはいかがですか。1年以内の売買では、1割以上の値上げ・値下げを制限するということではどうでしょうか。1億円で購入した不動産は1億1千万以上では売れないということにすれば、投資目的の不動産購入は少なくなりますよ」

「転売を繰り返せば、バブルになるのでは?」

「そこは1年前の元値を明示させることで、解決できると思いますが」

「それだと外国人の投資が減ってしまうのではないのかね?」

「投資の主流は為替と株です。バブル崩壊の心配がなくなれば、円安も少しは改善されます」

 前田官房長官の押しの強い言葉に、飯田はしばし熟考した。ぬるいコーヒーを一口飲んだ後、

「仕方ない。外国人の不動産購入制限はしばらく据え置きだ」

「3年後でも充分かと・・」

「防衛大臣とその線で協議するか・・」


 この話し合いの後、関係大臣と協議が行われ、関係法案が国会に提出された。ガソリンの値段はなかなか下がらなかったが、インバウンド客が増え、観光業が息をふき返し、また1ドルショップも安かろう悪かろうの100円ショップを駆逐していった。半年もしないうちに、円高傾向に向かい、それに伴いガソリンの値段も下がってきた。半年後の内閣支持率は60%に上がり、非支持率は35%に下がった。

 飯田の経済対策がうまくいったと思われたが、各社週刊誌に大きな見出しが出て、世間は騒然となった。

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