第3話 組閣

近未来社会派小説


 飯田は早速組閣に取り組んだ。相談相手となる官房長官の前田とは、大阪府知事時代からの仲間だ。冷静な判断と独自の情報網をもっているので、頼れる相棒だ。

 全員を民間から選んでもいいのだが、急激な変革をのぞまない国民の意識を尊重して国会議員経験者からも選出するようにした。主な閣僚は次のとおりである。

 外務大臣     村田泰蔵  留任 旧与党出身だが、経験を重視

 経済金融大臣   荒木八重子 大学教授 経済学者

 農林大臣     田嶋 伝  前新潟県知事

 水産大臣     中山 光  元水産会社社長 国会議員経験者

 工業大臣     矢部吾朗  元TVMC 国会議員経験者

 商業流通大臣   山木素子  元通産相政務官 国会議員経験者

 教育大臣     小嶋瑠美  元高校教員 教育評論家

 少子化対策大臣  大貫貴子  元TVMC 国会議員経験者

 労働大臣     近澤 聡  労組出身 国会議員経験者

 防衛大臣     浅川 隆  前宮城県知事 元自衛官 防衛大学卒業

 財務大臣     千葉麟太郎 前財務官僚


 財務大臣の千葉は、「税制の神」と言われた財務官僚である。その道のプロを大臣として抜擢することで、税制改革に本気だということを示したかったのである。飯田はまず千葉と懇談をもった。

「千葉さん、今回は財務大臣を引き受けていただき、ありがとうございます」

「こちらこそ、私が今までやってきた仕事を認めていただき、ありがたく感じています」

「千葉さん、あせらずに仕事をしてください。ご存じのように税に関しては、国民は敏感です。これを変えるのは並大抵ではありません」

「覚悟しています」

「まずは、国民の意識調査を行ってください」

「国民皆納税についてですね」

「皆納税を前提にしなくていいです。今の税制に対する不満をあらいだしてください」

「やはりそこからですか」

「そして、2年目に税制を検討し、3年目に国会に出し、4年目に実施となればいいと思っています」

「それで失敗すれば、飯田内閣は終わりということですね」

「それだけ大事だということです」

「わかりました。私の全精力を使って対処します」

「無理はしないでください。時には、退くことも必要です」

「そう言ってもらえると助かります」


 次に飯田が懇談をしたのは防衛大臣の浅川である。宮城県知事だった浅川は、全国区で国会議員に立候補し、上位当選を果たしていた。飯田に内閣に誘われた時は、失職もありうる大臣と、4年間(最初は2年間)務めることができる国会議員のメリット・デメリットを考えてやや迷ったが、「防衛大臣」と言われて、即「受ける」と返答をした。防衛大学校出身で、若い時には航空自衛隊のレーダー基地に勤務したことがあり、防衛に関しては一家言をもっていたからだ。

「浅川さん、防衛は私が考える3つの柱のひとつです。これをおろそかにしては、日本存続に関わります」

「私もそう思います。外務大臣とも連携して、防衛にあたっていかなければならないと思っています」

「外務大臣の村田さんと浅川さんは旧知の仲と聞いています。旧与党出身のお二人ですが、そんなことは気にせず、ばんばんやってください」

「そこで、総理に3つのお願いがあります」

「早速ですね。何でしょうか?」

「まずは、迎撃ミサイルの開発です。今、A国で新型の迎撃ミサイルを開発中です」

「ほぉ、それはどういうミサイルですか?」

「フレアミサイルというものです。今までは敵のミサイルにあてるか近づいて爆発させるものでしたが、このフレアミサイルはレーダーとAIを搭載していて敵のミサイルを感知すると、プログラミングをハッキングして自爆を誘うものです。距離が遠くても有効ですし、状況によっては再利用もできます」

「それがうまくいけば、敵のミサイルを無力化できますね」

「それで是非、A国に働きかけて研究に参加させてほしいのです」

「わかりました。村田さんも入れて三者で相談しましょう」

「二つ目ですが、外国人の不動産所有を制限してほしいのです」

「防衛とどう関連するのですか」

「R国に侵攻されたU国を思い出してください。R国の言い分は、U国にいる親R国の人々を助けるためということでした。ということは、仮に北海道に多くの親R国の人がいたらR国が侵攻してくるということも考えられるのです。今は、そんな状況ではありませんが、そういう状況になってから制限したのでは遅いと思っています」

「確かにそうですね。不動産に関しては、経済金融大臣の管轄ですから、そちらとも話し合ってみましょう。それで3つ目は?」

「防衛隊への体験入隊の義務化です」

「義務化?」

「18才から20才の間に3ケ月間の体験入隊を義務化させるのです」

「体験入隊とはいえ、徴兵制につながると反対されるのでは?」

「徴兵制をしないための体験入隊です。体験入隊ですから戦闘訓練は想定していません。模擬ライフルをもつことはあっても、実際に撃つことはありません。あくまでも防衛隊の基礎訓練と仕事の理解です。国民全員に国を守ることの重要性を知ってもらうためです。もちろん3ケ月の間は、手当も出しますし、体験後の進路も保証します。残って防衛隊員になることも可能です」

「体験入隊で3ケ月は長いのでは? ふつうの体験入隊はせいぜい1週間ですよね」

「18才になる人間は、およそ100万人ほどいます。それを4交代で体験入隊させることで、25万人ずつが体験することになります」

「25万人! 防衛隊はほぼ倍増ですね」

「防衛官一人一人が体験隊員の指導にあたることができます。個別指導は難しいとしても、この数が適切だと思います。また人間教育をすることでも3ケ月はちょうどいいと思います。転勤族の話では、引っ越しをすると3日で部屋に慣れ、3週間で地域に慣れ、3ケ月で町に慣れると言われます。ですから3ケ月というのは、ちょうど訓練に慣れたころに終了するいい期間だと思うのです」

「学校教育ではできないことを防衛隊が担うということですね」

「何もスパルタ教育をしようというのではありません。ただ、規則正しい生活を経験させることは、人生の中で必要なことだと思います。体力のない人や障害のある人には、それぞれの個性に合わせて事務や看護といったバックヤードの仕事などを体験してもらおうと考えています。要は、国を守るという意識を持ち、日本人としてのアイデンティティをもってほしいのです」

「いいですね。そうなったら本当の一流国になりますね」

「経済だけが一流ではだめなんですよね」

浅川はそう言い残すと、意気揚々と退室していった。


 教育大臣の小嶋とは次のような話し合いを行った。

「小嶋さん、教育大臣を引き受けていただき、ありがとうございます」

「こちらこそ、私のような政治経験のない人間を抜擢していただき、感謝申しあげます」

「感謝されるより、むしろ、うらまれるのではないかと思っているところです。教育大臣は大変な仕事ですよ。防衛・経済・教育が私の大きな3つの柱と考えています。その一旦を担っていただくわけですから、これから頭を悩ます日々が続くと思いますよ」

「願ってもないことです。でも、本当に国会議員の方でなくてよかったのですか」

「教育は政治と切り離すべきだと考えています。教育委員会だって、行政の首長さんとは離れているじゃないですか。教育大臣が政治家というのは矛盾していると思いませんか? 教育は政治の道具になってはいけないのです」

「おっしゃるとおりです。それを聞いて、ますますやる気がでてきました」

「それでこそ、小嶋さんだ。歯に衣着せぬ言い方は、小嶋さんのいいところです。ばんばんやってください。ところで、小嶋さんは今の子どもたちがひ弱だと思いませんか?」

「あら、早速政治介入ですか?」

「いえ、そうじゃなくて意見交換です。私は、最近の子どもたちを見て、ひ弱になっていると思っています。不登校・引きこもり・自死といった事案が年々増えている。人生の壁にぶちあたった時に、それを乗り越えられない子どもたちが増えてきている。それに対し、親や学校は対処できていない。ただ見ているだけではないかと思っているのですが、いかがお考えですか?」

「確かに、そのような事態はデータ上増加しています。ですが、親や学校が対処していないというわけではありません。どうしたらいいかそれぞれに迷い、苦しんで何とかしようとしているのが現状だと思います。フリースクールなどで、子どもたちの居場所を作っているのはその表れだと思います」

「対処できていないと言ったのは、言い過ぎだったかもしれません。ですが、フリースクールで問題は解決するのですか? 社会にとけこめない人間が増えることにはなりませんか」

「確かに、集団の中にはなじめない人たちは多いです。でも、今では個人でも仕事ができますし、いろいろな選択肢があります」

「ポイントはそこですよ。価値観の多様化というか、一流企業の社員だけがいいのではなく、個人の価値が認められる社会。いわばマイスター的な人たちを認める社会を創る必要があるのではないかと思います。学歴社会ではないものを」

「総理は以前のドイツの教育制度を模範と考えているのでは?」

「若い時にドイツで駐在員をしていた時に、職人さんたちが学歴はないけれど、俺たちはマイスターだ。と胸をはって言ったんですよ。11才で進学校か職業校かを選択しなければならないのは、日本人の感覚では厳しいかもしれませんが、彼らは当然のように胸をはって職業校へ行くのです。むしろ進学校へ行く子どもたちをあわれんでいるような雰囲気さえ見えました」

「彼らは目的があるから強いんです。また、社会の見る目も好意的だし、収入だってそんなに悪くない。そこが日本とは大きな違いですね」

「留年制度もありますね。それはどう思いますか?」

「例の西郷隆志氏の説ですね。私もあの本を読んだ時は驚きました。今の日本にはなじまない制度だとは思いますが、サポートスクールの設置は検討する余地があると思いました」

「授業についていけない子どもたちをサポートするということですね」

「それもありますが、授業をまじめに受けようとしている子どもたちを守る意味もあります。教室にADHDの子どもがいて、結果的に授業を妨害することになります。そういう子どもたちを学校側がサポートスクールに転校させることは必要かと思っています」

「親が納得しますか?」

「今のような特別支援学校では無理です。ひとつの学校にひとつのサポートスクールがあるのが理想ですが、二つにひとつぐらいの割合でもいいと思います。そのサポートスクールで問題が解決すれば、元の学校に戻ることは可能ですし、特別支援相当となれば、そちらを保護者にするめることになると思います」

「いわば、今の別室登校の拡大版ですね」

「今の別室登校は、管理職や保健室の先生方が対処しています。いわば本務を犠牲にして対処しています。そうではなくて、専任の教員をつけるべきなのです」

「確かにそうですね。教員の志望者が減っている今、ぜひやり甲斐のある仕事にしてください」

「心して取り組みます」

小嶋は、厳しい顔をして退室していった。


 次に、飯田は経済5閣僚と懇談した。

「皆さん、今回は内閣に入っていただき、どうもありがとうございます。早速ですが、経済金融大臣の荒木さん、あなたの経済理論を実際の政治に活かしていただきたいので、とても期待しています」

「こちらこそ、厳しい時期で、安閑としていられまえん。心して仕事にあたっていきたいと思っています」

そこに新潟県知事だった農林大臣の田嶋が口をはさんだ。

「我々みたいな国会議員未経験者を内閣に入れてよかったのですか」

「何を言います田嶋さん。全国知事会での田嶋さんの農業振興策にはいつも感心していました。それを内閣で発揮してほしいのです」

「そうかとは思っていましたが、日本のために私の最後の仕事と思ってがんばります」

「肩肘はらなくていいですよ。でも、農業をしている人たちが希望をもてる政策を打ち出してください」

「了解しました」

「中山さん、矢部さん、山木さんは今まで国会議員として活躍されてきたわけですから、その経験を活かしてよろしくお願いします」

「はい、今水産業は地球温暖化のせいで、海流が変化し、曲がり角にきています。新しい水産業に転換できるように努めていきたいと思っています」

「そうですよね。九州で捕れていた太刀魚が三陸沖で捕れるなんて、聞いたことがありませんでした。気候変動は大きな課題ですね。矢部さんは工業大臣としての課題をどう考えられていますか?」

「工業は、労働力不足が問題です。この点は、労働大臣と相談してすすめていきたいと考えています」

「そこは大きなポイントですね。就職希望者は多いのに、人手が足りないという工場がたくさんあります。そのマッチングをどうしたらうまくいくのか、検討をよろしくお願いします。それと半導体の確保を頼みます。日本の命運を担っているわけですから・・・」

「はい、心してあたります」

「山木さんはいかがですか。商業流通省はかつての通産省の流れですから、あまり違和感はないと思いますが・・・」

「確かに、仕事の内容は似ていますが、政務官を一度やっただけで大臣に抜擢され、正直驚いています」

「ご謙遜を、山木さんの政務官時代を知る人は、皆あなたを誉めていますよ。きれる人だったと」

「悪い意味のきれる人ではないですか」

「いいえ、誉め言葉としてです。ぜひ、自信をもって取り組んでください」

「まずは、シャッター商店街の実態を調べて、その対策に取り組みたいと思いますが・・・」

「後継者や空き店舗といった問題がありますね。元に戻すという発想ではなく、今後の商店街のあり方をさぐる必要があるでしょう」

「私もそう思います」

「荒木さんには、景気対策を中心に働いてもらうことになります。安定した為替も大切ですが、物価高対策にも取り組んでいただきます。これは、早急な対策が必要ですので、まずは行動を示さないといけません。厳しい仕事ですが、よろしくお願いします」

「私が書いた本を読んでいただいたと聞いています。そのことを実践していいということですね」

「荒木さんの書かれたか経済改革論はよく書かれていました。特に安かろう悪かろうの排除は納得できるものでした。日本が誇りにしていた安全・安心の製品が安価の製品におされて、どんどん減っていき、日本の良さが失われてきたことは明白です」

「それは商業流通大臣の山木さんの管轄になると思いますが、私がまず取り組みたいのは、入札制度の改革です」

「設定金額で抽選するということですね」

「安く入札して、結局は孫請けに任せてしまうという状況が生まれて、中小企業は赤字すれすれで仕事を強いられてきました。設定金額で抽選となれば、技術力のある中小企業も適切な価格で仕事を受けることができます。抽選枠を制限すれば、独占にもつながりません。それで、日本の良さを取りもどし、日本が元気になっていくと思うのですが・・・」

「確かにそうですね。ぜひ日本を元気にしてください。皆さん、荒木さんはとても大事なことを言いました。それは日本の良さを取りもどそうということです。かつてはきめ細かくて、安全・安心が日本の良さでした。ですが、旧与党のグローバル化政策によって、その良さが失われ、なんか粗雑な国になってきてしまいました。きめ細やかさを取りもどすことで、日本の良さを取りもどし、その良さを諸外国にアピールできるのではないでしょうか」

 経済閣僚の5人は皆うなずいていた。


 労働大臣の近澤との懇談は緊張を強いられた。大阪府知事の際に、ホームレス問題で飯田と近澤は論争を戦わせた仲だからだ。

「飯田さん、お久しぶりです。まさか、私を選ぶとは・・」

「だいぶ悩みましたよ。でも、官房長官が昨日の敵は今日の友。実行力では近澤さんにかなう人はいない。強くすすめるので、決断した次第です」

「それはある意味ありがたいことです。お二人の懐の深さですね」

「それにしても、ホームレスだけでなく、非就労者の就業については、早急な対策が必要です。失業者が多いのに、人手不足という状況を何とかしないといけないと思っています。そのことは、私と近澤さんは一致していますね」

「確かに、その点は一致しています。ですが、安易な職業斡旋、特に今の職業安定所では不十分です。その改革をしようと思うのですが・・」

「やはりそこですか。でも、職業安定所の職員が職を探すようなことにならないようにしてください」

「そこまではしませんよ。それと、外国人労働者の件ですが・・・」

「積極的に受け入れる気はありません。大事なのは、日本人の就労です。日本人を雇わないで、安い給料で外国人を雇う経営者をなくさなければなりません。ましてや、不当に解雇された外国人が、不良外国人となって街にたむろすることは、あってはならないことです」

「その点は私もいっしょです」

「今後、何かと話し合う機会が多くなると思いますが、よろしくお願いします」

「遠慮なく言わせていただきますので、問題があればいつでも免職にしてください」

「まあ、お手柔らかに・・」

と、二人は微笑みながらも厳しい視線を交わし合っていた。近澤は、独断専行して行動する傾向があり、飯田はそれをおそれていた。間にはいる官房長官が苦労するのは明らかだった。


 最後に、飯田は少子化対策大臣の大貫と懇談をもった。

「大貫さん、今回は大変な仕事を受けていただき、ありがとうございます」

「こちらこそ、私のライフワークを認めていただき、ありがたく思います」

「まさにライフワークになるでしょう。任期の4年だけでは達成できない仕事です。私はあなたには何年もやってほしいと思っていますが、こればっかりは私が再選されなければどうしようもありません。反対勢力も少なくないですから、いつ倒れてもおかしくない内閣ですから・・」

「そんなこと考えるなんて、飯田さんらしくありませんね。前向きに強気でいきましょう。そうでないと、前へ進みませんよ」

「そうですね。前へ進みましょう。ところで、少子化対策大臣としては、手始めに何をすべきと思っていますか?」

「子どもを育てやすい環境を整備することも大事ですが、まずは結婚する人たちを増やすことを一番にしないといけないと思っています。10年前のデータですが、20代女性の未婚率は59%、20代男性は71%にまでなっています。現在も改善されていませんので、これより増えていると思います」

「結婚しない・結婚できない人たちが増えているということですね」

「そうです。20代の若さでは経済的な面で結婚に踏み切れず、どうしても晩婚化・未婚化になっています。晩婚では、子どもは増えません。それにシングルマザーになる人が増えて、貧困化にもつながっています」

「確かに、そのとおりです」

「そこで、若い人たちが子どものいる家庭を作るのか、それとも子どものいない家庭を作るのか、または家庭を作らないのかを選択し、それに応じた政策の恩恵を受けるということが必要だと思います」

「それはどういうことですか?」

「税金の恩恵だけでなく、産休育休の改善、職業の保証、育児手当の増額を図る必要があります。ですは、これは今までも政策としてかかげてきたことです。それよりも家庭を作らない人たちへの増税を検討すべきだと思います」

「それは過激ですね」

「そうでもしないと結婚率は上がりません。それに仲人奨励金を創設すべきだと思っています」

「結婚仲介業の人たちが儲かるだけでは・・・?」

「偽装結婚が増えるのを防ぐために、3年の婚姻継続もしくは出産を条件にしたいと思います。これを採用すれば、友人間の紹介も増えますし、出会い待ちもなくなります」

「確かに、そうすれば結婚は増えるかもしれませんね」

「ですが、ひとつの壁があります。若い人たちの非正規雇用の多さです。いつ雇用がなくなるか不安で、それで結婚に踏み切れないのが現状です。その点は飯田さんに取り組んでもらわないと、少子化対策はうまくいかないと思います」

「そこは労働大臣とも協議しなければならないと考えていました。先日も人手不足なのに失業者が多い。という状況を何とかしなければと話し合ったばかりです」

「それには、まず官公庁の非正規職員の数を減らさなければと、民間には波及しませんよね」

「そう先走らないでください。近いうちに、労働大臣と話し合い、対策をたてますよ」

「よろしくお願いします。子どもを安心して育てるためには、親の労働環境を整える必要が不可欠ですから・・・」

 大貫は、飯田に言い含めるような言い方をして退室していった。飯田は、近澤労働大臣と大貫少子化対策大臣の熱気を感じ、フーっとため息をもらしてしまった。部屋の隅で立ち会っていた前田官房長官は、飯田のその様子を見て、思わず吹き出しそうになってしまった。いつもの強気の飯田と違っていたからだ。

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