二
俺が話していたのは、アパートの隣の家のことだ。
古くからの家らしく、がっしりした板塀にぐるりと囲まれ、古い柿の木がある。
息子さん夫婦が独立して家を出て数年、老夫婦が静かに暮らしていたのだが、だんだん家が荒れてきた。
「旦那さんが認知症になって、奥さんも数年前倒れてから体が不自由でね。地域包括の人が来て話をしてたんだけど、病気のせいかなかなか気難しいらしくて。穏やかな人だったんだけどなあ」
庭の木々が荒れ果て、ごみ袋が庭に散乱するようになって。
柿の実も、収穫もせず放置されて、カラスが騒がしかった。道路に落ちた熟した実は車に轢かれ、町内を汚した。
「うちのアパートにネズミが来るようになったんだよな。でも巣がなくて。隣から来てるんじゃないかってなったんだけど、言いづらいよな」
老夫婦は、家が荒れているのをなかなか認めなかった。
「息子さん夫婦にそのうち話がいって、そしたらどう説得したのか、家を解体して、息子さんのところに同居することにしたって。丁寧に近所に挨拶に来てさ」
決まると解体は早かった。
年季の入った板塀と、一番古い柿の木が一本、なぜか残された。
「板塀、なんか知らないけどほしい人がいたんだって。古くなっていい色になってたからかな」
「ふうん。古民家改造するのとか、流行ってっからなあ」
ここまでは思えば会話は普通だった。
「柿の木は、なしてなの」
「代々切ってはいけない、って言われてる木なんだって」
代々切ってはいけない、なんて、因縁話めいているじゃないか。
息子さん夫婦の話しぶりから、特に恐ろし気な話があるわけでもなさそうだったのだが。
「うまい実がなるんだよ。おすそわけもらったことがあってさ」
「古い木で、うまい実かあ」
「家の解体が終わったら、柿は近所のみなさんで、どうぞ取ってください、って。でも何となく遠慮するよなあ」
そうだ。この柿の木の話が出たからだ。それからなんとなくタンタンコロリンの話に流れ佐々木喜善も二十人町もいい迷惑な話になったんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます