隣の柿
倉沢トモエ
一
「
東口の飲み屋で出し抜けになんで佐々木喜善の話なんだよ史学部卒。『遠野物語』の協力者で、晩年仙台に流れてきた佐々木喜善だよ。
「小田原だよ」
「小田原がどうしたよ」
喜善が仙台で三度目の家移りをした先が小田原だ。
「タンタンコロリンの、ほら、二十人町の近くだべした」
タンタンコロリンというのは、仙台は二十人町に出没したという柿の妖怪である。なんで出没地まで具体的なんだ。
妖怪の話なので複数の言い伝えがあるのだが、共通しているのは大男であることと、尻から柿、または柿の味のうまいものを出して食わせるという、なんだか微妙な奴である。これだけ聞くとこわくない。尻ってどういうことだ。怪しがられ殺されてしまったという話もある。そうなるとなんだかかわいそうだ。
「小田原ならアンパンマンミュージアムの方が近いぞ」
俺も酒が回っているので、思いついたことがすぐさま口に出る状態だ。正確な位置関係がすでに分かってない。ゼミで確認したはずなんだが。佐々木喜善の家。
「妖怪はよ、妖怪のことばり考えてねえと見えねえんでねえかな」
「おう?」
話が見えなくなる。
「喜善が選んで住むようなところには、いっそ妖怪のことばり考えるような磁場があって、それが引き寄せてるんでねえの。んだから、そのうち柿の妖怪なんて見えてきたんでねえの」
地域住民巻き込む話ざっくり言うなよ。喜善が住むようなところって、地域にも喜善にも失礼だろう。
「それだったら川内も成田町も妖怪だらけになるだろ」
佐々木喜善の住んだ町、その一、その二だ。
「……んだなあ」
水を飲ませる。
少し正気に返る。
「で、何の話だっけ?」
そう。
久しぶりに会ったこいつと飲み屋で近況を話していたのだ。
タンタンコロリンも佐々木喜善も全く関係ない話を。
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