全員が詩人的な資質をもってくると世の中は変わる(谷川俊太郎)

例えばアメリカの先住民たちが、周りの世界とうまく調和して生きていた時期には、おそらく全員が詩人だったし、そうなれる時代だったんです。現代の先進国の社会に生まれると、全員がすべて詩人になることはありません。落ちこぼれそうな人が詩人になる、みたいなことになっちゃってますね。

(…中略…)

理想でいえば、全員が詩人的な資質をもってくると世の中は変わるだろう、というようなことはぼくも考えます。


谷川俊太郎『谷川俊太郎質問箱』



糸井重里との対談での谷川俊太郎の発言。ここでいう「詩人」というのは、必ずしも詩を書く人ということではなく、目に見えないものを信じられる力を持った人たちみたいな意味合いだ。このくだりの少し前で糸井重里は「暗闇を理解しない人たちがどんどん増えちゃって、「見せてくれよ」と言ったりするものだから、詩人は生きにくいですね」と言っている。「暗闇」とのつきあい方を知っている人が「詩人」なのだ。


わたしは「見える化」という言葉が嫌いだ。「見える化」することで、社会がもっと効率的に機能するようになって、みんながハッピーになれると思い込んでいる人たちが嫌いだ。


とはいえ、わたし自身、知らず知らずのうちに「見える化」の恩恵を享受している。たとえば旅行するときはアプリの乗換NAVITIMEで最適な旅程を検索するし、現地に着いたらGoogleマップでホテルを探す。便利だし、この便利を今さら手放すことはできない。だけど、その便利と引き換えに「暗闇」を失っていることはちゃんと自覚しておきたい。


ちょっと、谷崎潤一郎の『陰翳礼賛』を思い出した。また読み直そうかな。「見える化」を全面的にいいものだと思い込んでいる社会はあまりにいびつすぎる。

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